自民党総裁選に名乗りを上げた5人の出馬会見が出そろった。だが、正直に言えば盛り上がりに欠ける。国民を巻き込む気迫よりも、党内融和を優先した「内向きの総裁選」に終始しているからだ。
本命と目される小泉進次郎は、父親譲りの劇場型政治を封印し「失言しない優等生」へと変貌。対抗の高市早苗は、最後の派閥領袖・麻生太郎の意向を気にするあまり、看板政策の「消費税減税」まで引っ込めてしまった。そこに石破茂の後継を狙う林芳正が割って入る―。
今回は3人の会見内容を徹底解剖し、現時点での当選確率を読み解いてみたい。私の見立ては「進次郎6割、林3割、高市1割」である。
小泉進次郎――優等生モードに徹する本命候補
進次郎は9月20日、最後に出馬会見を行った。土曜日というニュースの注目が下がるタイミングを選んだのも「余計なことを言わせない」ための陣営の配慮だ。実際、彼は手元の紙を棒読みし、コメ問題以外ではほぼ即興発言を避けた。露骨な「守りの選挙」である。
出馬表明は外交から経済、社会保障まで総花的に網羅され、まるで総理大臣の所信表明演説。財務省など官庁の全面支援が透けて見える。
しかも、自民党が野党に転落した時に総裁を務めた谷垣禎一氏を持ち上げ「党内融和」を強調するなど、敵を作らない姿勢を徹底。かつての「解雇規制見直し」や「夫婦別姓」など賛否が割れるテーマは軒並み棚上げした。
進次郎といえば「劇場型」のパフォーマンスが売りだったが、今回は正反対だ。44歳にして「己を消す」戦略を選び、麻生太郎、菅義偉、岸田文雄ら歴代総理から、森山幹事長、旧安倍派まで、誰からも拒絶されない「凡庸なリーダー」の役割を担うことになった。
つまらないが、勝つためには最適解。まさに本命らしい振る舞いである。
高市早苗――保守色を薄め「野党シフト」も迷走気味
前回の総裁選で石破茂に敗れた高市早苗。本来なら有力候補だが、今回は国会議員票で大きく劣勢。後ろ盾だった麻生太郎も進次郎支持に回り、党員票も伸び悩む。
9月19日の出馬会見では、靖国参拝の明言を避け、立憲民主党の「給付付き税額控除」や国民民主党の「年収の壁引き上げ」を取り込んだ。保守色を抑え「野党シフト」を打ち出したのだ。
最大の武器だった消費税減税も麻生氏に配慮して封印。これではインパクトに欠ける。
会見自体は50分を超える熱弁だったが、マイク不調や不適切な質問で場が乱れ、最後は経歴疑惑を突かれるなど後味の悪さが残った。
劣勢を覆すには、大胆な減税や麻生との決別といった「大技」が必要だったが、彼女が選んだのは優等生路線。これでは進次郎との差別化は難しい。
林芳正――石破票の受け皿となれるか
注目されるのが林芳正だ。政治家4世で東大・ハーバード卒、主要閣僚を歴任した実務派。昨年の総裁選では4位に沈んだが、今回は石破の不出馬で「石破後継」のポジションを得た。
出馬会見でも「石破政権を支え切れず申し訳ない」と頭を下げ、選挙制度改革まで打ち出す入念さを見せた。
ところがその後出演した番組で「石破総理は選挙に負けた。退陣は必定だった」「私なら現金給付はやらなかったかもしれない」など、石破シンパを敵に回す不用意な発言を連発し、石破側近から「人の心が分かっていない」と怒りを買った。
林は会見のような公式の場では安定感を見せるが、即興の討論は苦手なのかもしれない。進次郎が優等生を演じ切るのに対し、林は「頭のいいエリート」ゆえに本音がにじみ出てしまう。
石破票を取り込めるかどうかは、この失点を最小限に抑えられるかにかかっている。
今後の展開――進次郎の逃げ切りか、林の逆転か
現時点での勢力図は、進次郎6割、林3割、高市1割。進次郎が1回目の投票で過半数を獲得すれば、そのまま勝負が決まる。高市との決選投票になっても、議員票の差で進次郎有利は揺るがない。
ただし、林との決選投票になれば情勢は不透明だ。前回「高市阻止」で石破に投票した議員たちが、経験不足の進次郎より林を選ぶ可能性があるからだ。逆に進次郎が失速し、高市と林の対決となれば、両者にチャンスが巡ってくる。
もっとも、多くの議員は今回の総裁選ではいつもに増して「勝ち馬に乗る」心理が働く。維新との連立で国会運営が安定すれば、当面は解散総選挙もないだろう。ここで非主流派に転落すれば、冷飯暮らしが長引く恐れがあるのだ。茂木敏充や小林鷹之ら他の候補も、決選投票では進次郎支持に回る公算が大きい。
残る焦点は、高市と林がどこまで「打倒進次郎」を前面に打ち出すかだ。正面対決を避けて穏やかに振る舞えば、進次郎の逃げ切りはほぼ確実となる。
おわりに
今回の総裁選は「誰が最も国民を熱狂させるか」ではなく「誰が最も凡庸に党をまとめられるか」の戦いになっている。
本命の進次郎は「面白みのない優等生」を徹底して演じているが、それが勝利への最短距離であるのも事実だ。高市が起死回生の一手を放つのか、林が石破票をまとめて逆転するのか。それとも進次郎が無風で逃げ切るのか―。この凡庸な総裁選の行方は、日本政治の次の数年を大きく左右することになるだろう。