9月の自民党総裁選前に衆院解散・総選挙で勝利し、総裁再選への流れをつくるーー岸田文雄首相が画策する4月解散。それを阻止する動きが自公与党内で広がっている。
これから2週間、3月末の予算成立までが、4月解散をめぐる首相と与党の水面下の攻防の山場だ。想定されるスケジュールを詳しくみていこう。
🔸3月17日(日)自民党大会と3月18日の政倫審
自民党大会に集まった地方議員からは裏金事件についてあいまいな説明を繰り返す安倍派幹部らに厳しい処分を求める声が相次いだ。念頭にあるのは、除名か、離党勧告だ。
岸田首相はこれを受け、森喜朗元首相を含め、安倍派関係者に対する聴取を党として検討し、処分を決める考えを示している。安倍派の元事務総長で森氏に冷遇されていた下村博文元文科相が出席する18日の衆院政倫審を見極めたうえで、安倍派幹部らへの処分を具体化する方針だ。
参院政倫審で「わからない」と繰り返して激しい批判を浴びたうえ、新旧秘書が関与した過激ダンスショーのスキャンダルでも窮地に立っている世耕弘成・前参院幹事長や、事務総長として政治資金パーティー券の販売ノルマ超過分の還流継続に深く関与した疑いが向けられている西村康稔・前経産相ら安倍派5人衆の除名や離党勧告を決断できるかどうかが最大の焦点だ。
岸田首相が安倍派などの反発に配慮して除名や離党勧告に踏み切れなければ、4月解散を断行することもできないだろう。安倍派幹部の処分問題は、4月解散への試金石といっていい。
🔸3月29日(金)予算成立
岸田首相は4月解散のフリーハンドを握るため、3月2日の土曜日に異例の衆院本会議を開催し、新年度当初予算案を衆院通過・参院送付させることに成功した。これにより3月31日に予算は自然成立することになった。
野党は日程闘争しても予算の年度内成立を阻むことはできないため、常識的には金曜日である3月29日の参院本会議で予算採決に応じる可能性が高い。
首相は予算成立を受けて記者会見するのが通例だ。この記者会見が政局の大きな勝負所となる。
岸田首相が4月解散に踏み切るには、予算成立後の記者会見で「政治の信頼回復と政権の体制立て直し」のために①安倍派幹部の処分②内閣改造・党役員人事について明確な方向性を打ち出すことが不可欠だ。
ここであいまいなアナウンスに終われば4月解散に踏み入れない可能性が高まる。岸田首相にとって正念場の記者会見となる。
🔸4月1日(月)〜3日(水)内閣改造・党役員人事
予算成立後の記者会見で、内閣改造・党役員人事の断行を表明できれば、週明けにただちに人事となる。この場合、岸田首相との関係が冷え切っている茂木敏充幹事長の更迭は確実だ。
解散総選挙に挑む以上、幹事長には信頼できる者を置きたい。「派閥解消」を旗印に総選挙を戦う以上、茂木氏が派閥解散に同調せずに茂木派を存続させ、派閥会長にとどまっていることも幹事長更迭の口実となろう。
後継幹事長に有力視されるのは、自民党内の裏金調査を任されてきた森山裕総務会長だ。本来は幹事長が行うべき役割を代替してきたのだから、当初から茂木氏に代わる幹事長に想定していたに違いない。
森山氏は少数派閥・森山派を率いてきたが、岸田首相の派閥解消に応じて森山派を解散したことも後任幹事長の資格を満たしているといえる。昨年秋の党役員人事までは選対委員長を務めて全国の小選挙区の候補者をほぼ決定する立場にあったことからも、総選挙の陣頭指揮を任せるには最適だ。
とはいえ、78歳の森山氏は実務型で、選挙の顔にはなり得ない。そこで解散した安倍派のホープである福田達夫元総務会長、茂木派を離脱した小渕優子選対委員長、無派閥を貫いてきた小泉進次郎元環境相ら次世代を要職に抜擢して、自民党のイメージ刷新を図るほかない。
🔸4月5日(金)衆院解散
安倍派幹部の除名ないし離党勧告、そして内閣改造・党役員人事の断行まで進めば、あとは4月解散へ一直線である。自民大逆風の衆院3補選(4月16日告示ー28日投開票)をぶっ飛ばすため、その前に衆院解散に踏み切ることになろう。
当初は岸田首相が訪米から帰国した4月12日(金)の衆院解散が検討されていたが、首相の外遊日程を広げて解散を封じる動きがあったのか、首相の帰国は4月14日(日)ごろとする方向で調整が進んでいるという。
帰国後の15日の衆院解散では日程的に遅すぎる。訪米前の4月5日(金)に衆院解散を行う必要があろう。
衆院解散は政治的には「首相の専権事項」といわれるが、憲法上は解散を決定するのは「内閣」だ。そこで焦点となるのが、斉藤国交大臣を送り込んでいる公明党の対応だ。
公明党が4月解散を断固阻止するのなら、解散の閣議決定にあたって斉藤国交相に署名を拒否させればよい。岸田首相は斉藤国交相を更迭して解散の閣議決定を強行することはできる。しかしそこまですれば総選挙での自公選挙協力は破綻だ。
自民党の閣僚が反対するだけなら更迭すればよいが、公明党の閣僚が反対する場合は一筋縄ではいかない。創価学会という巨大組織を背景とする公明党が連立政権内で大きな影響力を持つのは、首相の解散権行使に歯止めをかける最大の勢力だからである。
とはいえ、公明党も自公連立解消は望んでいない。岸田首相が公明党に譲歩して解散を見送るか、公明党が解散を容認するかわりに引き換え条件を提示するか。この駆け引きとなった場合、首相が断固として解散を主張すれば、公明党は引き換え条件を出すという展開をたどる可能性が高いのではないだろうか。
公明党の同意をとりつければ、あとは解散断行だ。除名ないし離党勧告した安倍派幹部らに対立候補(刺客)を送りつけ、「裏金一掃選挙」「派閥解消選挙」の演出に成功すれば、野党は埋没し、自公与党が勝利することも十分にありうる。小泉純一郎政権の郵政選挙の再来だ。
🔸4月8日(月)〜14日(日) 国賓訪米
岸田首相は4月10日、国賓待遇で訪米する。この前後の外遊日程をめぐって政府内で調整が続いている。政府内にも岸田首相による4月解散を封じるため外遊日程を長くとることを画策する動きがある。それに対抗して外遊前の4月5日解散論があることはすでに触れた。
岸田首相として解散権を行使したうえで米国へ飛び立つのも悪くはない。今回の国賓待遇の訪米は首相夫人の同伴し、煌びやかな儀式も予定される。マスコミ報道が内閣支持率を引き上げる効果も期待できる。
さらに選挙戦略上のメリットがある。通常、マスコミは解散から告示までの期間に政権批判を強めものの、告示後は各党のバランスをとった客観報道(無難な横並び報道)に急変する傾向がある。告示直前まで訪米日程を入れてしまえば、政権批判報道を薄めることができるのだ。
🔸4月16日(火)衆院選公示 4月28日(日)投開票
4月5日解散なら、4月16日公示ー28日投開票の総選挙となる。短期決戦となるが、裏金批判をかわすにはこのくらいの短期決戦のほうが都合がよい。自公与党で過半数を維持すれば岸田政権は継続し、9月の自民党総裁選で「選挙向けの新しい顔」を求める声は鎮まり、石破茂元幹事長や上川陽子外相への待望論は消えていくだろう。岸田再選へ大きく前進することになる。
一方、4月解散を見送れば、「総裁選前の解散」の機会は国会会期末の6月しかない。しかしこの場合、以下の理由で6月解散に踏み切れないリスクが高まる。
①そもそも自公与党が4月解散に反対なのは、岸田首相の総裁再選を阻むため。6月解散にも反対するのは確実だ。4月解散を断行できなければ、6月解散も断行できないだろう。
②4月解散を見送り、4月28日投開票の衆院3補選で負け越せば、「岸田首相では総選挙は戦えない」という声が自民党内でいっそう広がり、6月解散どころではなくなる。
③6月解散の場合は政治資金規正法を改正した後の解散となる。野党は改正のハードルを上げるのは間違いない。与野党協議が決裂し、与党がザル法の改正案を強行採決する展開になれば、大逆風だ。その状況ではますます解散どころではなくなる。
④岸田首相が岸田派解散と政倫審出席に独断で踏み切ったことが「何をしでかすかわからない」という恐怖を自民党内に広げ、低支持率でも政権を継続している最大の要因となっている。4月解散を見送れば、岸田首相を畏怖する空気が消滅し、自民党内で見下される。そうなると6月解散はますます困難となろう。
つまり、6月解散は4月解散よりハードルが高いのだ。4月に解散できないと6月もできず、そのまま9月の総裁選不出馬に追い込まれ、9月退陣の流れが強まる。岸田首相にとって4月解散が実はラストチャンスなのだ。