衆院が10月9日に解散され、総選挙が15日に公示される。裏金事件の発覚にはじまり、岸田政権退陣、自民党総裁選、石破政権誕生、そして解散総選挙。ここまでの展開は自民党にとって「誤算続き」といえるのではなかろうか。
石破茂首相の所信表明とそれに対する与野党の代表質問から、石破氏が自民党総裁選で主張した政策が次々に後退したことが明らかになった。石破氏こだわりのアジア版NATOや日米地位協定の見直しに加え、選択的夫婦別姓など自民党内で異論が強い政策はことごとく後回しにされている。石破氏が総裁選で主張したとおり、解散前に予算委員会を開いて論戦すれば、さらにボロが溢れ出ただろう。
衆院解散の時期でも、日銀の金融政策でも、総裁選での主張をあっけなく撤回し、石破首相の評判は散々だ。内閣支持率は菅義偉政権や岸田文雄政権の発足時を下回る40〜50%のスタートとなり、厳しい船出となった。
世論の反発が強い裏金議員の公認問題では、土壇場で方針を一変し、萩生田光一元政調会長ら6人を非公認としたうえ、裏金議員全員の比例重複を認めないと表明した。さすがに裏金議員を全員公認し、さらには小選挙区で落選しても比例復活を認めては、総選挙で手痛いしっぺ返しを食らうと危機感を強めた結果だろう。世論に追い込まれて方針転換を余儀なくされた格好である。
自公与党内では小泉進次郎氏が総裁選で勝利することを想定し、刷新感を打ち出して10月9日解散・27日投開票の超短期決戦を仕掛け、裏金事件の逆風をかわすシナリオが練られていた。ところが小泉氏が総裁選で失速し、予想に反して党内基盤の弱い高市氏と石破氏が党員投票を伸ばして決選投票に進出。靖国参拝を明言する高市氏に「右すぎる」と警戒感が広がり、石破氏が消去法で新総裁に選ばれた。石破氏には公明党とも水面下で合意していた超短期決戦の解散シナリオを白紙に戻す力はなく、小泉政権を想定した既定路線に乗るしかなかったのだ。
想定外の石破政権誕生と、想定外の石破首相の迷走ぶり。自民党は誤算続きで「首相の顔をすげ替えて裏金事件の逆風をかわす」という当初シナリオははやくも崩れつつある。
総裁選で決選投票を争った高市早苗氏は総務会長ポストを拒否して党内野党を宣言。最大派閥・安倍派の萩生田氏は「高市氏を幹事長に起用すべきだった」と反旗を翻し、非公認とされたことで反主流派色を強めている。副総裁を外れた第二派閥の麻生太郎元首相や無役になった第三派閥の茂木敏充前幹事長は結束を固め、総選挙後の反転攻勢をうかかっている。
うかうかしていたら「石破包囲網」が瞬く間に形成され、衆院解散に踏み切れず、いきなり「石破おろし」が動き出して政権はレームダック化しかねないーー。そんな危機感も早期解散を後押ししたのだろう。「裏金批判封じの早期解散」から「石破おろし封じの早期解散」へ、実態は大きく変節したといっていい。
最大派閥・安倍派の裏金議員約40人の多くは、選挙地盤の弱い安倍チルドレンだ。これまで自民党公認というだけで小選挙区で野党候補に勝ち、あるいは比例復活で当選を重ねてきた。今回は裏金事件に逆風に加え、比例重複は認められず、大量落選が見込まれている。
反石破色を強まる最大派閥・安倍派が壊滅的打撃を受けて石破政権は安定化するのか。
自民党そのものが大きく議席を減らし(場合によっては単独過半数を割り)、石破おろしが吹き荒れるのか。
総選挙後の政局は不透明感を増している。自民党の議席数だけではなく、誰が勝ち残るのか、誰が退場するのかという個別の選挙結果によって石破政権の行方は大きく変わるだろう。
私たち有権者も今回の選挙は政党だけで選ぶことが難しい。各候補者をしっかり見極めることがこれまでに増して重要になってくる。