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高市総理、解散の大義を自ら封印―「定数削減先送り」が突きつけるリスク

高市早苗総理の船出は、まさにロケットスタートだった。
就任直後から支持率80%を超え、世論は新しい女性宰相への期待に沸いた。
ところが、その高市政権に、早くも危うい影が差している。

焦点は「議員定数削減法案」だ。
維新との連立合意では、衆院比例代表の50削減を柱とする改革を、今国会に提出・成立させる方針だった。
野党が反対すれば「国民に信を問う」として、年末年始の解散総選挙に踏み切る――。
そんな先手必勝のシナリオが永田町では既定路線のように語られていた。

だが、高市総理は臨時国会で一転、「法案は提出するが、成立にはこだわらない」と表明。自ら「早期解散の大義」を封印してしまったのだ。
せっかくのタイミングを逃せば、少数与党国会の泥沼にはまり、年明けには支持率が急落しかねない。
なぜ高市総理は、あえて勝負のカードを切らなかったのか。


今年1月から、衆院議長のもとで「選挙制度に関する協議会」が設けられ、定数や区割りのあり方が議論されてきた。
国勢調査の概略が判明する来春をめどに結論を出す段取りだったが、自民と維新はそれを飛び越え、独自に定数削減法案をまとめた。

小選挙区で候補者を立てる自民や維新には影響が少ない一方、公明、共産、参政、れいわなど比例中心の政党には致命的打撃となる。
当然、野党は一斉に反発。与党側も衆参で過半数を割っており、成立の見通しは立っていない。

それでも維新は「提出しなければ連立離脱」「野党がつぶせば解散したらいい」と圧力を強め、自民党内では緊張が走った。
この局面で、高市総理がどう動くかが注目された。


衆院予算委員会で立憲民主党の黒岩議員がこの問題を取り上げた。
維新が「副首都構想」は来年の通常国会で成立させると明記したのに、定数削減は「臨時国会に提出し成立を目指す」とトーンが弱い――この違いは何かとただした。

高市総理は「法案は提出する」としつつ、「少数与党なので成立できるかわからない」と述べた。
さらに「衆院協議会の議論を尊重しなければならない」「国勢調査の結果を見ながら削減内容を詰めていく」と語った。

具体的な削減案を固めるのは来春以降。結果が確定する来秋まで議論は続くことを容認したと受け取れる発言である。
この発言で、年末年始の解散は事実上封印された。
立憲の黒岩議員も「ドタバタしなくていいと安心した」と述べ、多くの与野党議員が「早期解散はない」と受け止めた。


なぜ定数削減の先送りが「解散封印」につながるのか。
形式的には、議論の途中でも解散は可能だ。しかし、現実の政治には「大義名分」が必要だ。
野党が定数削減法案に反対して成立しなかった――その流れを受けて「国民に信を問う」のが筋だ。

ところが高市総理は「協議会を尊重する」「調査結果を見て判断する」と発言した。
この状況で年内解散に踏み切れば、「約束を破った党利党略」と批判されるのは必至。結果的に、自ら政治的な縛りをかけてしまった形だ。

解散権を封印したまま来春を迎えれば、国勢調査が出る秋まで動けない。
少数与党のまま、野党との協議をダラダラと続けるしかない。
これは政権にとって致命的な時間の浪費だ。


高市政権は衆参とも過半数を割り、維新は閣外協力。
いつ連立を離脱してもおかしくない。
さらに自民党内部は麻生副総裁の影響が強く、高市総理の権力基盤はきわめて脆い。

本来なら、圧倒的支持率を背景に解散・勝利して基盤を固める絶好のチャンスだった。
だが、高市総理はそれを見送った。

理由は明白だ。
早期解散を望むのは本人だけで、政界全体が「いまはやめてくれ」と願っているからである。
野党はもちろん、与党内でも、圧勝して高市総理が絶対的権力を握ることを恐れている。麻生副総裁にとっても同様だろう。

維新も口では「潰されたら解散だ」と強気を装うが、本音は逆だ。
連立入りしたばかりで選挙に突入すれば批判を浴びるうえ、自民が単独過半数を取れば自らの存在感が薄れる。
副首都構想を実現するには、むしろ選挙を先送りした方が得策なのだ。


結局のところ、高市総理は誰にも支えられずに孤独な判断を迫られている。
解散とは、すべての利害を断ち切り、自らを賭ける決断だ。
だが今の高市総理に、その覚悟はまだ見えない。

このまま解散権を封印したまま年を越せば、少数与党国会の中で支持率がじわじわと低下し、解散のタイミングを失う危険がある。
定数削減発言を早期に修正し、再び解散の機運を取り戻せるかどうか。
それが、高市政権が長期政権に化けるか、失速するかの分かれ道になる。