政治を斬る!

岸田首相が退陣表明、自民党総裁選に出馬せず〜麻生太郎の支持確約を得られず、頼みの綱のバイデンも大統領選から撤退 最後の切り札である「憲法改正」「災害対応」も不発で万策尽き、トドメは進次郎出馬説

岸田文雄首相が8月14日に緊急記者会見を開き、9月の自民党総裁選に出馬しない考えを示した。退陣表明である。

岸田首相は総裁再選に意欲を示し、マスコミもそう報じてきたが、岸田再選の可能性はほとんどなく、お盆ごろに退陣表明に追い込まれると私は分析してきた。やはり政治家の言動は鵜呑みにしてはならない。

岸田首相は会見で、自民党が裏金事件で失った信用を回復するためにさまざまな取り組みをしてきたとし、「自民党が変わることを示すもっともわかりやすい最初の一歩は、私が身を引くことだ」と述べ、自らの退陣によって信頼回復を進めることが不出馬決断の理由と説明した。

これは本当の理由ではない。なぜなら岸田首相はギリギリまで総裁選出馬を目指し、麻生太郎副総裁らと協議を重ねてきたからだ。

内閣支持率が低迷し、自民党内からは首相退陣論が噴き出しても、総裁再選を諦めていなかった。しかし、麻生氏から支持の確約を得られず、総裁選勝利の道筋が描けなくなったことが、退陣の最大の理由であろう。

頼みの綱だった米国のバイデン大統領が11月の大統領選から撤退したことも不出馬の決断を後押ししたに違いない。

それでも岸田首相は相手が石破茂元幹事長なら勝てると踏んでいたようだ。石破氏は国民人気ではトップだが、安倍晋三元首相や麻生氏に疎まれ、国会議員のなかでは石破アレルギーが極めて強い。石破氏に党員投票ではリードを許しても、国会議員と都道府県連代表だけが参加する決選投票に持ち込めば逆転可能と読んでいた。

ところが、ここにきて小泉進次郎元環境相の出馬説が急浮上。強硬に反対していた父・純一郎元首相が軟化し、マスコミ各社も進次郎氏をクローズアップし始めたのだ。

進次郎氏は石破氏に次ぐ国民人気がある上、党内で敵も少ない。岸田首相に勝ち目はない。進次郎出馬が現実味を帯びてきたことが、最後の一撃になったのではないか。

現職首相が出馬して敗れるのはみっともない。その後の政治的影響力も大きくかげる。勝算がない以上、出馬に踏み切れなかったというのが実態だろう。

四面楚歌になっていた岸田首相が最後の切り札として打ち出していたのは、憲法改正だった。憲法に自衛隊を明記する論点整理を今月中に行うよう指示し、憲法改正は①自衛隊の明記②緊急事態条項(国会議員の任期延長など)の2点を目指すとも表明した。
総裁選目前にあわてて改憲論議を進めるのは、党内右派の支持を取り付けて首相再選を目指す意欲をあらわれとみられていた。

岸田首相は3年前の総裁選で、任期中に改憲を実現することを公約に掲げた。岸田派(宏池会)は伝統的にハト派(党内左派)のため、最大派閥・清和会(安倍派)など党内右派の支持を取り付けるには改憲への積極姿勢を示すほかないという判断だった。

しかし岸田政権で改憲論議はほとんど進まず、3年を経た。国会の改憲勢力は3分の2を超えるのに、改憲が実現しなかったのは岸田首相にやる気がないからだという不満が党内右派には強くある。

そこで再び改憲論議のアクセルをふかしたところで、党内右派が歓迎するはずはなかった。あまりに露骨な総裁選対策に、党内ではしらけムードが漂った。

岸田首相は日向灘で最大震度6弱の地震が発生した後、気象庁が南海トラフの「巨大地震注意」を発表したことを受けて、中央アジア外遊をとりやめた。

外遊中に巨大地震が発生したら批判が殺到して総裁再選がますます困難になるという懸念に加え、災害をはじめとする危機管理に取り組む姿勢を示すことで内閣支持率を回復させる狙いもあったのだろう。

しかし世論の反応は鈍かった。
岸田首相はこれまで定額減税や派閥解消、政治資金規正法改正など次々に人気回復策を繰り出してきたが、いずれも支持率アップにはつながらなかった。最後の最後まであがき、切り札として繰り出した改憲論議も災害対応も起死回生の一打にならず、万策尽きたといっていい。

お盆直前の8月14日、政治に対する世の中の関心が低いタイミングで退陣表明したことに、体面を重視する岸田首相らしさがにじんだ。

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