政治を斬る!

自民党裏金事件の手抜き捜査で批判を浴びた東京地検特捜部がここにきて自民党議員を次々に強制捜査しているナゾと「罪の軽重」の判断能力を失ったマスコミ報道の限界

東京都地検特捜部が自民党議員を立て続けに強制捜査した。安倍派に所属していた堀井学衆院議員(比例北海道)を公職選挙法違反で強制捜査したのに続き、麻生派の広瀬めぐみ参院議員を秘書給与をだましとった疑いで強制捜査に乗り出した。

東京地検特捜部は裏金事件では大物政治家の強制捜査に踏み切らず、世論から激しい批判を浴びた。ここにきてなぜ急に動き出したのか。

堀井氏は地元(北海道9区)の葬式で香典を秘書に持っていかせていた公選法違反の疑いで家宅捜索を受けた。公選法は、政治家が自ら葬式に出席して香典を渡すことは認めているが、秘書らに代理で持って行かせることは禁じている。代理を認めると 事実上の選挙買収のようなかたちで香典がばらまかれる恐れがあるためだ。堀井氏は自らの名義の香典を秘書に持参させた疑いが持たれている。

堀井氏は安倍派から裏金のキックバックを受けていることが判明し、次の総選挙には出馬しない意向を示していた。その直後に東京地検特捜部の強制捜査を受けた格好だ。

広瀬氏はおととしから去年にかけて公設秘書として届け出ていた女性に勤務実態がなく、その給与を国からだまし取っていた疑いで家宅捜索を受けた。公設秘書は国から直接給与を受ける仕組みだが、名ばかりの公設秘書を起用してその給与を流用していたというのは、かつて立憲民主党の辻元清美氏が立件された事件と同じ構図である。

広瀬氏は週刊誌に不倫問題を報じられて謝罪していた。この公設秘書給与をめぐる疑惑も週刊誌などで報道されていた。

堀井氏と広瀬氏の共通点は、東京地検特捜部の強制捜査を受ける前から、マスコミ報道を通じてすでに政治的影響力を失っており、だれも擁護する人が自民党内でいないことである。東京地検特捜部からすれば、これほど立件しやすい政治家はいない。逆に立件しても自民党内の政治情勢にさしたる影響は出ない。

東京地検特捜部は、一連の裏金事件でも、大物政治家(安倍派5人衆ら)を立件を見送る一方、政治的影響力のない中堅議員のみを立件し、捜査の体裁を取り繕った。これに対して世論から激しく批判を受け、今回は再び政治的影響力を失ったふたりを立件することで、世論の批判をかわそうとしているのだろう。

しかも検察当局は、裏金事件の捜査を東京地検検事長(検察ナンバー2)として指揮した畝本直美氏を女性初の検事総長に抜擢し、世論の支持を取り付ける人事を行ったばかり。畝本氏の就任時にも裏金事件の不十分な捜査への批判が再燃しただけに、新体制のもとで現職国会議員を立件して信頼回復につなげたいという思惑もにじんでいる。

とはいえ、政治的影響力を失った「落ち目の二人」をいまさら立件したところで、検察への信頼回復が進むとは限らない。ふたりの事件に比べれば、安倍派5人衆らの裏金問題のほうがはるかに巨悪であると感じる人は少なくないだろう。大物政治家の巨悪を見逃し、小物政治家の立件しやすい悪だけを裁く。このような検察の姿勢が国民の納得を得るとは私には思えない。

とはいえ、検察にベッタリのマスコミ各社は、堀井氏と広瀬氏の事件を大々的に報じている。マスコミのニュース価値は、検察当局が動くか、動かないかだけだ。検察が国策捜査で強引に捜査を進める問題や、逆に権力者に忖度して捜査の手を抜く問題を追及する姿勢はほとんどない。

堀井氏と広瀬氏が刑事責任を問われること自体に反対するものではないが、それでも安倍派5人衆らが裏金事件で刑事責任を問われなかったことが許されるわけではない。より巨悪はどちらなのか。「罪の軽重」を認定して報道する力をマスコミが失ってしまったことが、政治腐敗を深刻化させている大きな要因であろう。

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