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岸田氏圧勝、河野氏惨敗。自民党総裁選は「安倍氏の一人勝ち」で終わった

自民党総裁選を制して次の首相になるのは、世論調査でトップを独走していた河野太郎氏ではなく、極右の安倍支持層から熱狂的な支持を集めていた高市早苗氏でもなく、最も無難な岸田文雄氏だった。第一回投票では河野氏がトップに立つという予想を覆し、岸田氏がトップに立った。岸田氏圧勝、河野氏惨敗といっていい。

この結果を一言で解説すると、私は「安倍氏の一人勝ち」だと思う。以下、主要プレーヤーについて一人ずつ解説してみよう。

■安倍晋三氏

安倍政権は「安倍首相67歳、麻生太郎副総理81歳、二階俊博幹事長82歳、菅義偉官房長官72歳」の4人がときに内輪もめしながらも世代交代阻止の一点で手を握り、あらゆる国家利権を独占する「長老支配」だった。菅政権に移行した後、二階氏が幅を利かせるようになり、安倍氏と麻生氏は不満を募らせた。そこで菅氏の対抗馬として名乗りをあげた岸田氏を支援するそぶりをみせつつ、菅氏に二階氏の幹事長交代を迫ったところから自民党内権力闘争は激化したのである。

菅氏は安倍氏の支持を得られないとみて不出馬を決断し、国民的人気の高い河野氏を後継首相候補に担いだ。安倍氏は岸田氏と河野氏の一騎打ちでは勝てないと判断し、極右の高市早苗氏を擁立し、第一回投票を分散させて決選投票で逆転する構想を描いた。

今回の総裁選は「河野氏を担ぐ菅氏」vs.「岸田氏と高市氏を担ぐ安倍氏」の代理戦争だったといえる。この勝負は安倍氏が圧勝し、キングメーカーの座を手にしたのだ。

岸田氏は安倍氏の言いなりとなる。幹事長には安倍後継者の立場を掴んだ高市氏らの起用を迫られる。自民党は「安倍一強」時代に逆戻りする。安倍氏は自らの首相返り咲きも視野に入れているだろう。

■麻生太郎氏

麻生氏の野望は、第五派閥の岸田派(46人)を第二派閥の麻生派(53人)に吸収して「大宏池会」を結成し、安倍氏率いる最大派閥・清和会(96人)とともに自民党を完全掌握して首相を交互に輩出していくことだ。岸田政権を誕生させた勢いで一挙に大宏池会を実現して自らが派閥会長となり、岸田政権の後見人として君臨するーーそんな構想を描いてきた。

そこに現れたのが、派閥の子分である河野氏だった。麻生氏は河野氏の出馬を制止できず、麻生派内は岸田氏を推す甘利明氏らベテラン勢と、河野氏を推す中堅・若手で真っ二つに。岸田氏勝利で麻生氏はメンツを保ったものの、派閥内の世代間対立は大きなしこりを残し、岸田派を吸収するどころか麻生派の分裂回避に当面は追われることになる。

とはいえ、岸田政権では安倍氏との盟友関係も維持できるとみられ、安倍氏に次ぐ党内実力者の座は死守した格好だ。

■二階俊博氏

菅政権生みの親でありながら菅氏に幹事長交代を宣告され、一挙に求心力を失った二階氏。安倍氏と麻生氏に従順な岸田氏の勝利だけは避けようと、野田聖子氏に推薦人を貸して出馬させ、4人による乱戦に持ち込むことには成功したが、最後はキャスティングボードを握ることはできず、岸田氏の圧勝を許すことになった。自民党史上最長の幹事長は一挙に影響力を失うことになりそうだ。

すでに82歳。今秋の衆院選に出馬するのか、三男に地盤を譲るのか。地元・和歌山県では、安倍氏側近の世耕弘成参院幹事長が二階氏の衆院和歌山3区を視野に衆院鞍替えを狙っており、後継問題でも厳しい立場に追い込まれる可能性がある。政界の策士といわれるだけに、最後にもうひと勝負を仕掛けるのか、動向に注目だ。

■菅義偉氏

菅氏は総裁選不出馬を決意した際、国民的人気の高い河野氏を擁立すれば勝てる、自らはキングメーカーとして影響力を残せると踏んでいたに違いない。しかし、河野氏の惨敗で完全に行き詰まった格好だ。自前の派閥も持っていないだけに、今後、求心力が大幅に低下する可能性がある。河野氏が「菅離れ」する可能性もあり、孤立感を深めるかもしれない。

■岸田文雄氏

ハト派の老舗派閥・宏池会会第9代会長として、第5代宮沢喜一氏以来の首相誕生である。安倍氏と麻生氏に完全服従し、悲願の首相の座をつかんだ。政策理念はほとんどなく、「首相になること」「首相を続けること」を最優先して安倍氏と麻生氏に忠実な政権運営に徹する可能性が極めて高い。

党役員・組閣人事も安倍氏と麻生氏の意向を最大限受け入れるだろう。幹事長の最有力候補は高市氏ではないか。官房長官は麻生派から受け入れる可能性もある。菅政権以上の「安倍傀儡」になるのは間違いない。

※ 9月上旬にサンデー毎日に寄稿した「お公家集団・宏池会の領袖、岸田文雄の弱み」が総裁選での岸田氏勝利を受けて週刊エコノミストOnlineに特別公開されました。岸田政権を展望する材料が凝縮されています。ぜひご覧ください。

■河野太郎氏

総裁レース本命から急失速し、非主流派に転落する危機である。安倍氏の政敵である石破氏と組んだことで安倍氏から強く拒絶された。安倍氏がかつて石破氏を幹事長に起用した後に徐々に干していったように、河野氏も要職に起用されたとしても徐々に外されていく可能性がある。世代交代を警戒する安倍・麻生両氏にとって最も警戒する相手は石破氏から河野氏へ変わったといえるだろう。菅氏の影響力ダウンで後ろ盾を失ったことも響いていく。

河野氏は今後、石破氏や小泉進次郎氏と連携を続けて安倍傀儡の岸田氏に対抗していくのか、それとも安倍氏や麻生氏に屈服して再起を期すのか、分かれ道に立つ。河野氏は石破氏と同じ道を歩むことを恐れて意外にあっけなく安倍氏と麻生氏に屈服するのではないかと私はみている。

■高市早苗氏

当初は泡沫候補だったが、安倍氏の全面支援を受けて主要候補に躍り出た。強固な安倍支持層から熱狂的な応援を受け、安倍氏の継承者としての地位を確立したようにみえる。岸田政権でも幹事長など要職に抜擢される可能性が高い。今回の総裁選で最も飛躍した政治家といえるだろう。

もっとも党内基盤は皆無で、すべては安倍氏頼みである。安倍氏にどこまでも追従するしかない。それは政治的選択に迷うことがないという意味では強みかもしれない。安倍氏が握る政局カードとして、さまざまなかたちで使われることになるだろう。

■野田聖子氏

悲願の総裁選出馬を果たして一定の政治的果実は得た。だが、総裁選で掲げた政策の数々は自民党では到底実現できないものだった。出馬を水面下で支えた二階氏の影響力ダウンで、今後の展望は開けない。岸田政権で要職に起用されるか否かが大きな分かれ道となる。

森友事件の再調査を掲げたことで安倍氏に睨まれているのは間違いなく、それがどう影響するか。河野氏が安倍氏や麻生氏に完全屈服すれば、「安倍支配からの脱却」をめざす筆頭に躍り出る可能性はある。

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