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清和会支配から宏池会時代へ 岸田首相の「いつか見た内閣」凡庸人事に隠された意図〜菅義偉氏と福田達夫氏を外した理由

岸田文雄首相が大幅に前倒しして8月10日に実施した内閣改造・自民党役員人事。蓋を開けてみればサプライズはなく、閣僚経験者の留任や再登板が目立って新味に欠ける布陣となった。

はっきりいって見栄えのしない人事である。「永田町で最も話のつまらない男」という異名を持つ岸田首相らしい人事といえるかもしれない。

まずもって自民党の麻生太郎副総裁(麻生派)と茂木敏充幹事長(茂木派)、内閣の要である松野博一官房長官(安倍派)、林芳正外相(岸田派)、鈴木俊一財務相(麻生派)という政権中枢は留任した。政権の骨格は維持したまま、岸田ー麻生体制をより強固にするという狙いはいかにもシンプルだ。

防衛相の浜田靖一氏(無派閥)や厚生労働相の加藤勝信氏(茂木派)は再登板。デジタル相には河野太郎・元行革相(麻生派)、経産相には西村康稔・元経済再生相(安倍派)。山際大志郎経済再生相(麻生派)は留任。

自民党政調会長だった高市早苗氏(無派閥)は経済安全保障相に、経産相だった萩生田光一氏(安倍派)は自民党政調会長に、自民党の選対委員長だった遠藤利明氏(谷垣グループ)は総務会長に横滑り。

なんともまあ、代わり映えのしない布陣である。あえて命名すれば「いつか見たことのある面々が集う内閣」という感じだろう。お盆休みに入ればこの内閣改造人事のことなど話題にも登らなくなるのではないか。

では、今回の人事が政局的にいって何の意味もなかったのかというと、そうではない。今回の人事の意味は「起用された人」よりも「起用されなかった人」にある。それは福田達夫前総務会長(安倍派)と菅義偉前首相(無派閥)の二人だ。

福田氏は安倍派(清和会)のプリンスである。福田赳夫、康夫両元首相に続く三代目で、岸田政権発足当初に当選3回ながら自民党総務会長に抜擢されていた。

安倍派(清和会)は安倍系と福田系の抗争の歴史がある。安倍晋三元首相が君臨したこの10年、安倍系の筆頭格である下村博文元文科相や安倍氏のお気に入りだった稲田朋美元防衛相をはじめ、萩生田氏や西村氏ら安倍系ばかりが登用され、福田系は冷遇されてきた。

岸田首相と麻生氏は宏池会を源流とする岸田派、麻生派、谷垣グループを再結集させて「大宏池会」を再興し、清和会をしのぐ最大派閥に躍り出るタイミングをうかがっている。そこで清和会を弱体化させるため、昨年秋の岸田政権発足当初の人事で、福田氏や松野氏、高木毅国対委員長ら福田系を重用し、清和会の分断を図った。

安倍氏が突然に凶弾に倒れて清和会がリーダー不在で迎えた今回の人事は、清和会をさらに弱体化させる絶好のチャンスとなった。ここで福田系のプリンスである福田氏を重要閣僚で取り込めば、安倍系は一気に干し上がる。岸田政権からは事前に「福田氏を防衛相に起用」などとの情報が漏れ出したのである。

これに危機感を募らせたのは、福田氏よりも先輩にあたる萩生田氏や西村氏ら安倍系の中核議員だったろう。萩生田氏も西村氏も安倍氏に忠誠を誓いながらも政治的に上手に立ち回る政治家として知られている。安倍氏を失ったなかで迎えた今回の人事で、岸田首相や麻生氏に巧みに接近したのは間違いない。

安倍系の筆頭格である下村氏は統一教会問題が直撃していて身動きが取れない。そこで下村氏と一線を画しつつ、福田氏の入閣を回避するように岸田首相や麻生氏に働きかけ、そのかわりに岸田政権への忠誠を誓ったと思われる。

岸田首相や麻生氏にとっては願ってもない展開だ。清和会の安倍系筆頭である下村氏を完全に干しつつ、安倍系の萩生田氏と西村氏を取り込み、福田系プリンスの福田氏はいったん外す。これで清和会内部の亀裂はさらに大きくなり、弱体化する、萩生田氏や西村氏が岸田首相や麻生氏に歯向かう動きをすこしでもみせれば、いつでも福田氏を抜擢する人事を断行すればいい。それをちらつかせるだけで、萩生田氏や西村氏は従順であり続けるだろう。

つまり、今回の人事で岸田首相や麻生氏は安倍亡き清和会をかなり掌握したといえるのではないか。このまま清和会をしのぐ大宏池会の再興に動いても、清和会からの反発が噴出することはないという手応えを感じたに違いない。

もうひとり、今回の人事で外されたのは菅氏である。菅氏については副総理格で入閣させるのではないかという憶測が広く流布されていた。

岸田首相は菅氏とはまったくそりがあわない。麻生氏も菅氏とは安倍政権下でことごとく対立し、いまや最大の政敵ともいえる存在だ。自前の派閥を持たず党内基盤の弱い菅氏を無役で徹底的に干し上げ、官房長官や首相として権力基盤を築いてきた菅氏の影響力を一掃するのは、岸田政権発足当初からの方針だった。

だが、菅氏をあまりに追いやると、清和会の不満分子と結託して岸田政権に露骨に反旗を翻す恐れがある。そうなるとやっかいだ。そこで副総理格で閣内に取り込み、菅氏の政局的動きを封じるというアイデアが岸田政権内にあったのは事実である。

だが、安倍氏が突如として退場して統一教会問題が直撃した清和会は一気に弱体化し、菅氏を取り込むまでもなく岸田ー麻生体制に従順になった(萩生田氏や西村氏を中心に)。もはや菅氏を野に放っても清和会で外された下村氏や稲田氏、福田氏らと結託したところで、さほどの脅威にはならない。岸田首相や麻生氏はそんな手応えを感じ、心置きなく菅氏を外すことができたということであろう。

まったく面白味に欠ける内閣改造・自民党役員人事だったが、岸田首相と麻生氏にとっては着実に権力基盤を固めるものになったといえるのではないか。自民党は清和会時代から宏池会時代へ確実に移行したのだ。

今回の内閣改造・自民党役員人事についてプレジデントオンライン『安倍派を服従させ、菅元首相を完全につぶす…岸田首相の「優等生内閣」にある冷徹な政治意図を解説する』にさらに詳しい解説を寄稿しました。ぜひご覧ください。

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