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岸田首相に批判が殺到した「国民の責任」を「我々の責任」に修正する首相官邸とそれを無批判に垂れ流す新聞報道の共犯関係

1兆円の防衛増税は国民の責任であるーー岸田文雄首相の「発言」が世論から激しい批判を浴びた。選挙公約に掲げていない増税をいきなり打ち上げ、それを「国民の責任」と一方的に宣告したら、大概の国民は怒るだろう。案の定、岸田首相のツイッターには批判が殺到した。

首相官邸は「我々の責任」という発言が誤って「国民の発言」と伝わってしまったとあわてて修正したが、この釈明は相当に疑わしいと私は思っている。

岸田首相の「発言」は12月13日の自民党役員会で飛び出した。役員会は非公開で行われるが、茂木敏充幹事長が終了後に記者会見で内容を説明することになっている。

茂木氏はこの日、首相の発言を以下のように説明した(自民党ホームページ参照)。この「今を生きる国民」の部分を「今を生きる我々」と修正したのである。

今、議論しているのは、新たな脅威に対し、ミサイル、戦闘機等の防衛能力を抜本強化し、日本人の暮らしと命を守り続けるという話。責任ある財源を考えるべきであり、今を生きる国民(→この部分を「我々」に修正)が、自らの責任として、しっかりその重みを背負って対応すべきものである。自らの暮らしを守り、国を守るという国民一人一人の主体的な意識こそが何より大切なことは、ウクライナの粘り強さが示している。このことも十分念頭に置いて議論を進めていただきたい。役員の皆さんのご協力を改めてお願いする。こうしたお話がありました。

朝日新聞デジタルは、政府高官が「国と国民を分け、国民側に責任を押しつけるような趣旨で受け止められているが、そうした意図は一切ない」「『我々』というのは、『今の私たちの世代で』という趣旨だ」と説明したと報じている。自民党で増税への反対論が噴出するなか、増税の必要性について首相の決意を伝える狙いだったという丁寧な解説まで付けている。

岸田首相自身も16日の記者会見で「我々の責任」と発言したことが事実であると強調。「それがマスコミに伝えられるなかで批判を浴びるような文言に変わってしまっていた。発言の紹介の齟齬は事務的なミスが原因であると思っている。私たちの世代が責任を果たしていくことを訴えた」と説明した。

これは本当か。事実だとすると、首相の発言を歪めて伝えた茂木幹事長の大失態である。

茂木氏はポスト岸田を狙っており、このところ岸田首相との距離が開いている。岸田首相を追い落とすことを狙って、わざと捻じ曲げて伝えたという疑念を招いても仕方がない。

だが、私は茂木氏が間違って伝えたとは思わない。前後の文脈からして、茂木氏の当初の説明の方がしっくり筋が通るからである。

この発言が不評を買ったのは、政府高官が自ら言うように「国と国民を分け、国民側に責任を押しつける」発言と受け止められたからだ。つまり、権力者である首相が選挙公約に掲げていない増税を一方的に打ち上げたうえ、国民に対して「増税を受け入れて責任を果たせ」と迫ったからである(「政府高官」は官房長官や官房副長官のオフレコ発言を指す場合が多い。首相最側近の木原誠二官房副長官か。いずれにせよ「オフレコ」発言は嘘でも責任を問われない点において世論操作に使われる危険が大きい)。

岸田首相は自らが口にしたのは「今を生きる我々が」だったとし、「首相vs国民」の対立図式で語ったのではなく、「首相も国民も含む我々の世代」という意味だったといいたいのだろう。しかし本当に「我々が」と話していたとしても、私たちからすると「お前(首相)と俺たち(国民)を勝手にひとくくりにして責任を押し付けるな」「お前(首相)と俺たち(国民)は権限の大きさも責任の大きさも違う。お前のほうが責任は重いんだ」とむかついて当然だ。所詮は「国と国民を分け、国民側に責任を押し付ける」姿勢に変わりはない。

さらに首相発言の後段にある「ウクライナのたとえ」が致命傷である。

岸田首相は「自らの暮らしを守り、国を守るという国民一人一人の主体的な意識こそが何より大切なことは、ウクライナの粘り強さが示している」と発言を続けている。国民総動員令のもとで成年男子は出国が禁じられ、軍隊に招集され、民間人も武器を持って徹底抗戦するよう求められているウクライナ国民のように、日本国民も一人一人が主体的に国を守るために責任を果たせーーという文脈にしか受け取れない。

だとするならば、その前段の「今を生きる我々が」は「今を生きる国民が」のほうが文意がすっきり通ってくる。

一連の発言全体を読み込むと、岸田首相が「事実」と力説した「今を生きる我々が」は、日本語の並びとしてぎこちない。やはり「今を生きる国民が」のフレーズのほうが違和感なく当てはまるのである。実際にどのような言葉を発したかはともかく、「国民は増税を受け入れることで責任を果たすべきだ」と伝えたかったとしか思えない。

岸田首相や官邸の修正の仕方は、字句を取り繕うばかりで説得力を欠く。「言ったこと」を「言わなかったこと」に強引に変えたとしたら大問題だ。公文書改竄や虚偽答弁を重ねて疑惑を隠蔽した安倍政権とまったく同じである。政治不信ここに極まれりだ。

マスコミ各社はこの修正の不自然さを追及せず、岸田首相や政府高官の言い分を垂れ流している。これではジャーナリズムの権力監視の責務を果たしたとは言い難い。首相が嘘をついているかもしれない重大な疑惑だ。

仮に「今を生きる我々が」と発言していたとしても、その意味するところは「今を生きる国民が」と本質的な違いはない。徹底追及してほしい。


鮫島タイムスYouTube週末恒例の「ダメダメTOP10」にも「防衛増税」関係が続々登場。ぜひご覧ください。

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