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岸田首相に6月解散・7月総選挙を躊躇させる「首相長男」と「公明党」〜背後にちらつく菅前首相の影

広島サミットで内閣支持率が急上昇し、自民党内では6月解散ー7月総選挙の機運が高まっていたが、ここにきて急に慎重論が台頭してきた。その要因は「首相の長男」と「公明党」である。

文春オンラインが『岸田首相一族が首相公邸で大ハシャギ 「階段寝そべり」写真と翔太郎秘書官の「閣僚ひな壇」撮影』を配信したのは広島サミットが閉幕した3日後、5月24日だった。

岸田文雄首相の長男で首相秘書官に起用されている翔太郎氏が昨年末、親戚10人以上を首相公邸に招いて忘年会を開き、大ハシャギしたという内容である。赤絨毯の敷かれた階段に寝そべっている写真や、新閣僚が並ぶひな壇での記念写真がネット上で飛び交った。

岸田首相は記者団の取材に応じてただちに謝罪し、翔太郎氏を注意したことを明らかにしたものの、首相秘書官を更迭することはなく、世論の反発は収まらない。

翔太郎氏は岸田政権最大のアキレス腱になっている。政権発足からちょうど1年の昨年10月に首相秘書官に抜擢された時は「縁故人事」とたたかれた。

その後も民放女性記者に官邸情報をリークしていると報じられ、年明けには首相の欧米訪問に同行した際にパリやロンドンで公用車に乗って高級デパートや観光地を巡ったことが発覚。岸田首相が「公務だった」と擁護したことで批判が噴出し、一時は内閣支持率を押し下げる最大の要因となった。

岸田首相はこれを受けて「息子隠し」に転じ、翔太郎氏の姿はテレビカメラの前からめっきり減った。代わって表舞台に登場したのは裕子夫人である。

裕子夫人は広島サミット前に単独訪米してバイデン夫妻と面会し、ファーストレディー外交として脚光を浴びた。その後の首相訪韓にも同行し、韓国大統領夫人と親交を深め、好意的に報道されたのである。そして広島サミットではG7首脳の配偶者らとお好み焼きを食べるなど「もうひとつの広島サミット」を演出してマスコミをにぎわせ、内閣支持率の上昇に大きく貢献したのだ。

そこへ冷や水を浴びせたのが、長男翔太郎氏が率いる親戚一同の「首相公邸での大ハシャギ」報道だった。

昨年末の出来事が5ヶ月後の広島サミット直後に報道された経緯から想像できるのは、文春は早くから証拠写真を入手し、広島サミットで内閣支持率が上昇することを見越して、サミット直後のタイミングに狙いを定めて報道に踏み切ったということである。

文春は内閣情報調査室など警察当局との関係も深い。警察や外務省をはじめ政府内には岸田首相の政敵である菅義偉前首相に近い勢力も根強く残っており、翔太郎氏のパリ・ロンドンでの漫遊ぶりは、外務省の菅シンパから情報が漏れたともみられている。

岸田首相が内閣支持率上昇の勢いに乗じて6月解散・7月総選挙に踏み切って圧勝すれば、来年秋の自民党総裁選で再選を果たす流れが強まり、長期政権が見えてくる。そうなると菅前首相の影響力は低下し、政府内では菅シンパが失脚する恐れが高まる。

それを阻止するため、つまりは6月解散を阻止するため、岸田首相に打撃を与えるスキャンダルを政権内部からリークすることは十分に予見できることだった。翔太郎氏はその最大のターゲットだといえるだろう。

もうひとつは公明党の動きだ。

公明党は一票の格差是正に伴う衆院選の区割り変更で新設された東京28区に公明候補を擁立することを主張していたが、自民党は都連会長の萩生田光一政調会長を中心に自民候補擁立を強く主張して譲らず交渉は難航。公明党はついに独自候補擁立を断念する代わりに、東京都内では自民候補を推薦しないと通告したのである。

公明党の石井啓一幹事長は「東京都だけに限定した対応で、連立に影響させるつもりはない」と強調し、岸田首相も「自民党幹事長らに丁寧な対応を指示した」と表明して沈静化に躍起だが、マスコミ各社は「連立解消の危機か」と煽っている。

自民党は都市部の若手を中心に公明の推薦なしには勝てない議員が少なくなく、選挙協力解消の動きが全国に波及することへの警戒感が強まり、内閣支持率の上昇で強まった解散風は一気にしぼみそうな様相だ。

公明党の一連の動きも、実は岸田首相の6月解散を阻止することに最大の狙いがあると私はみている。

公明党はどの選挙でも常に「全員当選」を掲げて組織戦を展開するが、4月の統一地方選では過去最多の12人の落選者を出して激震が走った。支持基盤の高齢化で活動量が落ちていることに加え、長年の自公連立で防衛政策などで自民党に譲歩する場面が続いて支持層に不満が蓄積していることが原因とみられる。

公明党は総選挙に向けて体制を立て直すためにも早期解散を回避したいところで、6月解散は断固阻止の構えだ。東京28区の対立で一歩も引かず、あえて戦線を拡大させたのも、自民党内の危機感を煽り、早期解散論を鎮静化させ、岸田首相が6月解散に踏み切ることを防ぐ狙いがあるのだろう。

さらに公明党は自民党の現主流派である岸田首相ー麻生太郎副総裁ー茂木敏充幹事長とはそもそも疎遠だ。むしろ反主流派の菅義偉前首相や二階俊博元幹事長との関係が深い。

岸田首相が6月解散ー7月総選挙を断行して勝利すれば、岸田政権の長期化が予想され、菅氏や二階氏の影響力低下は避けられない。菅氏は6月解散に慎重な姿勢を示しており、公明党も菅氏らに歩調をあわせて6月解散を阻止し、自民党内で菅氏らが影響力を回復させるのを側面支援する狙いもあるだろう。

東京28区で自民党側の強硬派急先鋒である萩生田氏もまた、菅氏と気脈を通じている。萩生田氏もまた、あえて公明党との協議をこじれさせ、6月解散を阻む狙いがあると私はみている。

岸田首相とすれば、公明党の信頼関係を取り戻して解散総選挙への体制を整えるには、菅氏や二階氏に橋渡し役を求めるのが手っ取り早い。菅氏や二階氏は引き換えに、今国会閉幕後に内閣改造・党役員人事を実施するよう迫るだろう。

そこで、茂木幹事長を更迭して菅氏や二階氏と親密な森山裕選対委員長を幹事長に昇格させ、茂木派の次世代ホープの小渕優子氏元経産相を官房長官に抜擢する人事で折り合う可能性が高いというのが、私がこれまで披露してきた大胆予測だ(この予測はすでに以下のユーチューブなどで示している)。

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