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内閣改造・党役員人事は9月に先送り?内閣支持率の下落でますます薄れる解散機運

永田町に6月解散風が吹き荒れたのは今や昔、内閣支持率が急落して、早期解散論はすっかり消え失せてしまった。岸田文雄首相が自ら煽りに煽りながら衆院解散を見送ったことに加え、首相長男の秘書官更迭、さらにはマイナンバーカードをめぐるトラブル続出が響いたのだろう。

岸田首相は「解散権を温存できたのはよかった」と周辺に漏らしたと報じられているが、温存どころかこのまま首相の解散権を行使できないまま求心力が低下し、来年秋の自民党総裁選で不出馬に追い込まれる可能性も出てきたといえる。キーウ訪問や広島サミットで稼いだ貯金を瞬く間に費消した格好だ。

永田町では旧統一教会の解散命令請求や対北朝鮮外交でサプライズを仕込み、内閣支持率を急回復させるシナリオも囁かれている。しかし、それらは実現そのもののハードルが高いうえ、仮にそれらが実現したとしても、いったん岸田内閣に失望した民意をただちに引き戻せるかどうかはわからない。

岸田首相としては内閣改造・自民党役員人事で政権与党内を引き締め直し、求心力を回復させたうえで、岸田外交などで徐々に支持率を取り戻し、解散総選挙に踏み切る機会を探りたいところだ。いわば、いちからの仕切り直しである。

当初は「8月に内閣改造・党役員人事、9月に臨時国会を召集して冒頭解散、10月総選挙」という日程が浮かんでいたが、マイナンバーカードをめぐるトラブル続出が政権を直撃し、このシナリオも雲散霧消した。マスコミ各社では「内閣改造・党役員人事は9月、臨時国会召集は10月」との観測報道が相次いでいる。9月解散どころか秋の臨時国会での解散の可能性も低下したとみていい。

政局の当面の焦点は、内閣改造・党役員人事である。

岸田首相はマイナンバー情報の誤登録の総点検について8月上旬に中間報告をまとめるよう関係閣僚に指示している。

これを受けてお盆前にただちに内閣改造・党役員人事に踏み切り、河野太郎デジタル担当相ら関係閣僚を更迭して来年秋の保険証廃止を延期するなどマイナンバー政策の大転換を打ち出して支持率回復を狙うという筋書きも成り立つが、マスコミ報道通り、内閣改造・党役員人事を9月に先送りするとしたら、岸田首相にそうした「先手必勝」のイメージはないのだろう。

例年、9月は外交の季節だ。インドネシアでASEAN首脳会議(4~7日)、インドでG20首脳会議(9~10日)、米国で国連総会(19日~)など外交日程が目白押しである。その合間で人事を断行するとすれば、9月初旬か中旬が軸となり、場合によっては9月下旬にずれ込むかもしれない(もっとも岸田首相は昨年8月、当初予定を大幅前倒しして内閣改造・党役員人事に踏み切った。今回も9月説を流しておいて、8月に電撃的に前倒しする可能性は捨てきれない)。

だが、永田町では「解散は政権の求心力を高めるが、人事は求心力を落とす」と言われる。よく考えれば当然の結論だ。

首相が解散総選挙に踏み切れば、その首相のもとで勝ち上がった衆院議員たちは反旗を翻しにくい。一方、人事で厚遇されるのは一握りで、要職に起用されなかったその他大勢には不満が募る。支持率低迷の岸田首相が断行する内閣改造・党役員人事が「岸田おろし」のトリガーとなるリスクは十分にある。

具体的にいえば、反主流派の菅義偉前首相や二階俊博元幹事長の顔を立てて茂木敏充幹事長の更迭など大幅人事に踏み切れば主流派の麻生太郎副総裁がへそを曲げるし、麻生氏や茂木氏の意向を踏まえて骨格人事を維持する小幅人事にとどまれば菅氏や二階氏が「岸田おろし」を仕掛けてくる。人事はやはり鬼門だ。

安倍政権は憲政史上最長の7年8ヶ月にわたったが、この間、麻生副総理兼財務相ー菅官房長官の骨格人事にはまったく手をつけなかった。最大のライバルだった石破茂幹事長を政権当初に外したほかは、谷垣禎一幹事長が自転車事故で負傷して二階氏に後継幹事長を委ねた以外に大きな人事はなく、極めて体制刷新に慎重な政権だったといえるだろう。一方、安倍首相は先手必勝の解散総選挙を繰り返し、そのたびに求心力はアップした。まさに「解散は政権の求心力を高める」というお手本のような政権だった。

岸田首相が6月解散を自ら煽りまくりながら、土壇場であっけなく見送ったのは、決定的な政局判断ミスだったと私は思っている。内閣支持率を押し下げたこと自体よりも「この首相はもう解散できないのではないか」との観測に説得力を与え、与野党から舐められることになってしまったのだ。

はたして人事で求心力を回復できるのか。内閣改造・党役員人事は岸田首相にとって危険なバクチとなろう。

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