政治を斬る!

岸田政権は竹中平蔵氏や菅義偉氏が主導した新自由主義を否定し「維新」より「国民民主党」へ接近する

岸田文雄首相が自民党総裁選で掲げた「金融所得課税の見直し」を早くも撤回した。小泉政権以降の規制緩和を中心とする新自由主義を転換し、貧富の格差を是正する「分配」を進める目玉政策になるはずであった。

岸田政権は安倍晋三元首相、麻生太郎副総裁、甘利明幹事長の「3A」に支配された傀儡政権と指摘されるが、早くも岸田首相の実行力に疑問符がついた格好だ。

この公約撤回劇の背景をプレジデントオンライン『あっという間に公約を撤回…岸田新政権の「新しい日本型資本主義」に期待できないワケ』で読み解いたので、ぜひご覧いただきたい。

この記事は①岸田首相は小泉政権以降の「新自由主義」と安倍政権の「アベノミクス」を峻別し、「新自由主義」だけを否定した②小泉政権の経済財政担当相として新自由主義を主導した竹中平蔵氏は当時、麻生政調会長と激しく対立した③第二次安倍政権では竹中氏に近い菅官房長官が麻生副総理兼財務相と激しく対立した④菅氏は首相になると竹中氏を経済ブレーンとして重用し、新自由主義を強く打ち出した④菅氏は自らの後継者として河野太郎氏を自民党総裁選に担ぎ、新自由主義を継承させようとした⑤岸田首相は総裁選で麻生氏の全面支援を受けて河野氏を破り、政権運営の要となる幹事長に麻生派重鎮の甘利氏を起用したーーという経緯を踏まえたうえ、岸田首相は「新自由主義からの転換」に竹中氏や菅氏の影響力を一掃するという政局的メッセージを込めており、麻生氏や甘利氏が主導するかたちで大企業や富裕層を潤わせる「アベノミクス」を継承する方針で、「分配」重視の政策は看板倒れに終わるだろうと結論づけている。つまり、岸田政権は貧富の格差を拡大させたアベノミクスを否定することはできないというわけだ。

きょうのサメタイでは、プレジデントオンラインへの寄稿をさらに一歩進め、①新自由主義を主導してきた竹中氏や菅氏の影響力低下②竹中氏や菅氏と対立してきた麻生氏や甘利氏の影響力拡大ーーが岸田政権に与える影響について考察したい。

円安株高で大企業や富裕層を潤わせたアベノミクスを推進した安倍政権。その長期化を閣外から支えたのが日本維新の会である。維新は自民党以上に規制緩和や競争原理を重視する新自由主義政党だ。

その維新を政策面から支えたのが竹中氏ら新自由主義を掲げる経済学者や経営者らであり、政局面から支えたのが菅氏だった。

菅氏は安倍政権の官房長官として橋下徹氏とともに維新を引っ張ってきた松井一郎・大阪市長と極めて密接な関係を築き、安倍政権と維新の橋渡し役を担ってきた。安倍首相は維新との連携を菅官房長官に丸投げしていたといっていい。

これに対し、副総理兼財務相の麻生氏は強く反発した。竹中氏をブレーンとして維新との連携を強める菅氏と、財務省をはじめとする官僚機構を重視する麻生氏はことあるごとに対立を繰り返したのである。

菅首相の退陣表明を受けて実施された今年9月の自民党総裁選は、新自由主義派の河野氏を担ぐ菅氏と、官僚重視派の岸田氏を担ぐ麻生氏の代理戦争の側面が強かった。結果は麻生氏の完勝である。麻生氏は麻生派重鎮の甘利氏を幹事長に送り込み、自らは副総裁に就任して、自民党を牛耳った。一方、麻生派の中堅・若手に担がれた河野氏を広報本部長として冷遇するとともに、今後は竹中氏や菅氏の息のかかった官僚を政権中枢から一掃していくのは間違いない。

竹中氏と菅氏の失脚で政権中枢とのパイプが途絶えるのが維新だ。麻生氏と甘利氏が牛耳る自民党と、維新の距離は、今後どんどん離れていくだろう。維新としては自民党内の非主流派に転じた菅氏との連携を維持しつつ、安倍氏を後ろ盾とする高市早苗政調会長らとの連携を模索するだろうが、岸田首相ー麻生副総裁ー甘利幹事長のラインに影響力を与えることは難しそうだ。

維新は自民党の野党分断工作の切り札だった。野党が結束して国会闘争するときも維新だけが与党側に立つことはしばしばあったし、選挙でも野党が狙う政権批判票の一部を吸収して与党を利することが繰り返された。

岸田政権が維新の代わりに野党分断工作の対象として照準をあわせるのが国民民主党である。

国民民主党は連合の影響力を強く受け、立憲民主党に加わらなかったメンバーで構成されている。立憲民主党が共産党との政策協定や選挙協力に傾くのに反発して、共産党を敵視する連合は政権寄りの姿勢を強めている。国民民主党も連合と歩調をあわせ、立憲民主党と一線を画し、岸田政権と「是々非々路線」で向き合う構えだ。

官僚重視派の麻生氏や甘利氏には、維新よりも連合・国民民主党と波長があう。立憲民主党が志向する「脱原発」に強く反発して距離を置いている点も好都合だ。麻生氏や甘利氏は「脱原発」を持論とする河野氏の影響力を封じ込めておきたい。しかも甘利氏は電力会社と親密な原発推進派の大物であり、電力系労組の影響力が大きい連合とは利害が重なるのだ。

一方、国民民主党の玉木雄一郎代表は自民党宏池会(岸田派)が輩出した大平正芳元首相の縁戚で、香川県では大平家の地盤の一部を受け継いでおり、大平政治の継承者を自認している。安倍・菅政権よりは岸田政権と連携するハードルはずいぶん低いに違いない。

衆院選後、衆院の勢力図がどうなるかで政治状況は大きく変わるが、自公が過半数を維持したとしても岸田政権は国民民主党に配慮して政権を運営し、野党分断工作を進める可能性は極めて高い。来年夏の参院選で自民党に逆風が吹いて敗北するリスクに備え、参院に連合の組織内議員を多数抱える国民民主党との関係を強化しておくことは重要なリスクヘッジとなるだろう。

これまで維新が担ってきた「自公政権の補完勢力」のポジションを国民民主党が占めることになるのか。国民民主党が衆院選で岸田政権との向き合い方をどう主張するのか、厳しく注視しなければならない。

政治を読むの最新記事8件