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自民党総裁選でダークホース「小林鷹之」浮上の裏側を読む〜麻生太郎と菅義偉のキングメーカー争いがいよいよ本格化しはじめた!

9月の自民党総裁選にむけてダークホースが浮上した。小林鷹之衆院議員、49歳。千葉2区選出の当選4回。自民党が政権復帰した2012年初当選組だ。

この同期組は「魔の4回生」といわれる。強力な安倍政権のもとで楽な選挙を勝ち続けた「安倍チルドレン」。そのせいか不祥事が相次いだ。裏金事件で安倍派の「パー券営業部長」とよばれ東京地検特捜部に逮捕された池田佳盛氏や、安倍派の箝口令を暴露して注目を浴びながら女性問題で突如辞任した宮沢博行氏らが思い浮かぶ。

小林氏は名門・開成中高から東大法学部を卒業し、財務省へ進む典型的なエリートコースを歩んだ。「魔の4回生」のなかでは「期待の星」とされ、岸田内閣では経済安保担当大臣に抜擢された。二階派である。

その小林氏について、マスコミが急に「若手の中で総裁選への擁立論が浮上」と報じ始めた。朝日新聞は「刷新感を演出し、裏金事件による党勢低迷を打破する狙い」と伝えている。

本人も文春オンラインの番組で「いつか総理として、国のかじ取りをやっていく覚悟で政治の世界に飛び込んだが、今は政治家としての能力を高めていくことに尽きる」と話し、まんざらでもなさそうだ。

エリートとはいえ、まだまだ無名の4回生が総裁候補に急浮上した背景には何があるのか。

自民党総裁選には過去にも「若手が担ぎ上げた候補者」が登場したことがある。自民党が野党に転落した2009年総裁選に出馬した河野太郎氏と西村康稔氏はその典型だろう。

もちろん、党の危機的状況をうけて若手が動いたという側面を全否定するつもりはないが、大概のケースは裏で大物が糸を引いていることが少なくない。

総裁選は党員も参加する第一回投票で過半数を獲得する者がいなければ、国会議員と都道府県代表による決選投票に持ち込まれる。あらかじめそれを見越して、「若手登用」で若手議員たちを誘い出し、むしろ若手代表の候補を出馬を水面下で後押しして(自分の派閥の若手を差し出して)、決選投票では自陣営に引き込むという裏工作だ。もちろん総裁選に勝利した後は、その若手候補を党3役や重要閣僚に抜擢して「若手登用」を演出するのだ。

今回の小林氏擁立論もおそらくそうだろう。では裏で糸を引いているのは誰か?

小林氏は裏金事件で解散した二階派に所属していた。派閥解消といっても事実上、各議員は派閥単位でモノを考えているが、二階派は二階俊博元幹事長が次の総選挙で政界引退を表明したため、他派閥よりも求心力低下が懸念される。そこへ若手の小林氏が総裁選に出馬すれば、派内秩序は大きく崩れ、求心力は一層低下する恐れがあろう。

小林氏の出馬にいちばん神経を尖らせているのは、二階派事務総長だった武田良太元総務相に違いない。自らも裏金事件で党の役職停止1年の処分を受けた。萩生田光一前政調会長の同様、党内でうまく立ち回って軽い処分で逃れた代表的議員だが、それでも1年は身動きしにくい。

武田氏は萩生田氏や加藤勝信元官房長官とともにHKTと呼ばれる非主流派グループをつくり、菅義偉前首相と連携している。菅氏らが武田氏がいやがる小林氏擁立論を仕掛けているとは考えにくい。

だとするならば、黒幕は菅氏とキングメーカー争いをしている麻生太郎副総裁ではないかという憶測が成り立つだろう。麻生氏は菅氏と連携する二階氏とも主導権争いを続けてきた。二階氏引退を機に二階派に手を突っ込んで弱体化させ、麻生派の勢力拡大させる狙いもあろう。

もちろん、最大の狙いは、9月の総裁選で勝利することだ。

麻生氏は岸田首相の再選を支持するのか、岸田首相を見切って腹心の茂木敏充幹事長を擁立するのか、はたまた女性初の首相として上川陽子外相を押し立てるのか。いずれにせよ、キングメーカー争いを続けている菅氏が擁立を検討している石破茂元幹事長や小泉進次郎元環境相、加藤元官房長官らとの事実上の一騎打ちとなる公算が高い。それをにらんで、「敵陣営」の若手有望株である小林氏を引き込み、それにあわせて党内の若手を派閥横断的に味方に引き入れるという戦略である。

もちろん、菅氏も手をこまねいているわけではない。右派に人気の雑誌「Hanada」に登場し、岸田首相を「総理自身も各派閥と同じような処分を自身に科すべきだった。責任を取るべきだった」と批判。「(派閥解消を)やるならすべての派閥を一気に解消すべきだった」とも述べ、首相の後見役を務める麻生氏が麻生派を存続させていることも暗に批判した。

この発言は、岸田首相や麻生氏への対決姿勢を鮮明にしたことに加え、もうひとつ重要な点がある。右派に人気の「Hanada」で岸田おろしの狼煙をあげたことで、右派に人気の高市早苗経済安保担当相にラブコールを送っていることだ。

高市氏は前回総裁選に安倍晋三元首相に担がれて出馬し、右派からは「安倍後継者」として支持を得た。一方、党内では無派閥に属し、安倍派5人衆にも疎まれていた。しかし、安倍派解散で5人衆のにらみが弱まり、安倍派内では高市氏に近づく動きもある。

麻生氏が小林氏擁立で若手に手を伸ばすのなら、菅氏は高市氏との連携で右派に手を広げる。決選投票をみすえ、双方の勢力拡大合戦が早くも始まったとみていい。

このまますすむと、決選投票は「茂木・小林vs石破・高市」というかたちになるかもしれない。もちろん総裁レースは始まったばかりであり、事態はどんどん動いていくが、現時点ではそんな構図が浮かんでくる。

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