自民党の河野太郎デジタル担当相が総裁選出馬を正式表明した。
3年前の前回総裁選は、麻生派の親分である麻生太郎氏に反対を振り切り、麻生氏のライバルである菅義偉前首相に担がれて出馬。石破茂氏と小泉進次郎氏の支援を受けて「小石河」連合といわれたが、麻生氏が担いだ岸田文雄氏の敗れた。当時は国民人気トップを独走し、党員投票ではリードしたが、国会議員票で惨敗したのが痛かった。
今回はマイナンバーカード問題などで国民人気は凋落し、石破氏や小泉氏に追い抜かれた。さらに派閥解消の動きのなかで唯一存続を表明した麻生派から離脱しなかったことで、菅氏から見切られた。
それでも総裁選出馬をあきらめられず、関係が冷え込んでいた麻生氏に頭を下げて出馬を容認してもらったのである。前回の出馬とは正反対、今度は事実上の麻生派の擁立候補という位置付けになろう。
若手ホープと持て囃されてきた河野氏も61歳。43歳の小泉氏や49歳の小林鷹之氏が出馬し、世代交代が大きな焦点となるなかで、埋没していくことを強く恐れているのは想像に難くない。なんとしても出馬しなければ忘れられていくという切迫感があるのだろう。
しかし、キングメーカーの麻生氏が率いる派閥に担がれる構図は、改革派を自認してきた河野氏にとって、自己否定でもある。いまや守旧派だ。
麻生派はもともと河野氏の父・洋平氏と、麻生氏が、宏池会(現岸田派)を飛び出して立ち上げた小グループだった。当初は総裁選出馬に必要な20人にとどかず、派閥とも呼んでもらえず、「河野グループ」と報じられていた。洋平氏が政界引退した後、麻生氏はそれを第二派閥まで育て上げた。だから誰よりも派閥にはこだわりがある。
一方、河野氏は父親が立ち上げた派閥を受け継ぐのは自分であるという思いがある。派閥を離脱できない最大の理由はそこにあろう。本質的には世襲政治家なのだ。
麻生氏に出馬を容認してもらうため、持論の脱原発も封印。石破氏や小泉氏とも決別し、反対陣営に回ったのだった。
しかし、麻生氏は河野氏をゆるしたわけではない。菅氏が担ぐ進次郎氏に対抗できる有力候補がいないとみて、大量出馬による乱戦に持ち込み、決選投票で小泉包囲網を形成して逆転を目指す作戦だ。
麻生派からは河野氏、茂木派からは茂木敏充幹事長、岸田派からは林芳正官房長官、若手代表で小林氏の出馬を後押しし、だれが2位になっても決選投票での連携を目指すというわけだ。河野氏はそのカードの一枚に過ぎない。
では、だれが2位になるかというと、河野氏を予想する声は少ない。むしろ若手代表の小林氏の方が小泉氏との決選投票で幅広く支援を得られる可能性があるという見方が広がっている。
河野氏は第一回投票で小泉氏や小林氏に敗れれば、政治生命が終わる危機である。「小石河」連合に終止符を打ち、麻生氏に頭を下げてまで出馬にこぎつけたことが、むしろ政治生命を終焉させる大打撃につながるとしたら実に皮肉なことだ。