自民党総裁選でトップを走ってきた小泉進次郎陣営が、大きなスキャンダルに直撃された。
発端は「やらせコメント」問題である。週刊文春が報じたのは、進次郎陣営の広報班長を務める牧島かれん・元デジタル担当大臣の事務所が、陣営関係者に「ニコニコ動画に進次郎を持ち上げるコメントを書き込んでほしい」とメールで依頼していた、というものだった。
そこに添付されていた24の例文が、ネット上で大炎上した。「総裁まちがいなし!」「昨年より渋みが増したか」「泥臭い仕事もこなして一皮むけた」…。歯が浮くようなセリフのオンパレードに、ネット民からは総ツッコミが浴びせられた。
なかでも注目を集めたのが「ビジネスエセ保守に負けるな」という一文だ。ライバルの高市早苗氏を揶揄していると受け取られ、高市支持層の怒りを買った。牧島事務所には殺害予告や爆破予告まで届き、牧島氏は広報班長を辞任。進次郎自身も「一部行き過ぎた表現があった」と謝罪に追い込まれた。
ステルス・マーケティングと政治
今回の問題は「ステマ」と呼ばれる行為にあたるのか。
ステルス・マーケティングとは、広告であることを隠して第三者のふりをして好意的な意見を拡散する行為を指し、景品表示法で規制されている。
ただし、政治家が選挙戦で支持者やボランティアに「こんな投稿をしてください」と例文を示すこと自体は違法とはいえない。実際、多くの選挙現場で似た光景は見られる。
ネットで炎上しているわりには、与野党から厳しい批判が噴出していないのは、多くの政治家のスタッフが選挙現場で似たようなSNS戦略を展開しており、ブーメランとして跳ね返ってくることを恐れているためだろう。ネット世論と永田町の空気には大きな開きがある。
問題はそこに「誹謗中傷」や「デマ」が含まれる場合であり、今回はまさにその一線を踏み越えたかどうかが問われる。「ビジネスエセ保守」の一文が誹謗中傷にあたるのかどうかに争点は絞られてくるのではないか。
思い出されるのは「Dappi問題」だ。匿名アカウントが野党を中傷する投稿を繰り返し、背後に自民党から資金を受け、濃密な関係にある企業が存在していたことが裁判を通じて明らかになった。自民党による大掛かりな世論操作疑惑が浮上したのだ。
自民党が政治資金を投入してデマを含む誹謗中傷の投稿を業務をして発注し、世論操作を大規模に行っていたのなら、法律の問題以前に、政治的アンフェアで倫理的に許されない卑劣な行為である。
今回の進次郎陣営の「やらせコメント」は陣営内の関係者への要請であり、「Dappi問題」と比べれば稚拙な世論対策といえるだろう。決定的な致命傷とまではいえないという受け止めが永田町では強いが、そもそも「自民党=ステマ体質」という疑念があることで批判が膨れ上がったのは否めない。
危機管理の欠如
牧島氏は元デジタル担当大臣であり、自民党のネット戦略を長く担ってきた人物だ。その牧島氏が関与したことで、「自民党は国政レベルでも同様のことをやっているのではないか」という疑惑が一気に広がった。
進次郎は「守りの選挙」を掲げ、持論を封印して党内融和に徹してきた。この程度のやらせコメントでリスクを背負う必要はまったくなかった。守りの選挙の方針が徹底されていたら、このような事態を招くことはなかっただろう。
さらに、初動対応も甘かった。このメールのどこが問題で、どこまでは許容されるのかという核心部分をあいまいにしたまま、なんとなく事実関係を認めて謝罪したことが、火に油を注ぐ結果となった。
進次郎チームの危機管理能力・危機対応能力の欠如を曝け出した格好だ。「進次郎政権、大丈夫か」という気持ちになる。
総裁選への影響
では、この炎上は総裁選の行方にどう響くのか。
日テレ独自の党員調査では、高市氏が34%でトップ、進次郎は28%で2位。
告示前の党員調査では進次郎がトップだったが、逆転された。小泉陣営は「党員の半数はすでに投票済みで影響は限定的」と楽観するが、党員票で進次郎がさらに失速し、高市氏との差が開く可能性はある。
一方、産経新聞による国会議員票調査では依然として進次郎が3割でトップを維持し、高市氏は1割程度にとどまっている。決選投票で進次郎優勢の状況に変わりはない。いまのところ、国会議員への影響は限定的である。
この問題が国会議員の動向をひっくり返すほど、さらに延焼していくのかどうか。高市逆転への鍵は、世論の動向が握っている。
総裁選は政策論争が盛り上がらず、「やらせコメント」問題が最大の争点に浮上した。これは日本政治にとって不幸なことだが、自民党の行き詰まりを映し出しているともいえる。