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石破首相が新年度予算案の修正に前向き〜連携するのは国民民主党か、日本維新の会か、それとも立憲民主党か〜7月の参院選、その後の大連立を睨んで各党の駆け引きが強まる

石破茂首相が新年度予算案の修正に前向きな姿勢を示したとマスコミ各社が報じている。しかしこれは当たり前の話だ。

自公与党は過半数を割っている。立憲民主党か、日本維新の会か、国民民主党か、いずれかの野党の主張を受け入れて賛成を取り付けない限り、予算案を成立させることはできない。最大の焦点は、石破首相がこの3つの党のどこと組むかだ。

現時点で最も有力なのは、維新である。

自公与党が昨年10月の総選挙で過半数を割った後、最初に連携を模索したのは、国民民主党だった。

国民民主党が103万円の壁を178万円まで引き上げる「所得税減税」を掲げて総選挙で躍進し、勢いづいていたことが大きな理由だ。国民民主党を仲間に引き入れて世論の支持を回復したいという狙いがあったのは間違いない。

ただ、それだけではない。

維新は総選挙に惨敗して馬場伸幸代表が退くことになり、12月1日の代表選まで身動きが取れない状況にあった。

立憲民主党は野党第一党だ。総選挙で50議席を増やした後、ただちに自民党に協力すれば、支持層から強く反発されることは目に見えていた。

立憲も維新もとても自民党と連携する状況にはなかったのだ。

れいわ新選組や共産党が自民党と連携する可能性はほとんどない。石破首相にとって連携相手の選択肢は国民民主党しかなかったのである。

だが、国民民主党は強気に出てきた。自民党は当初から140〜150万円程度まで引き上げることで合意を目指すつもりでいたが、国民民主党はあくまでも178万円を主張。自公国3党幹事長会談で「178万円を目指して2025年度から引き上げる」ことで合意したが、国民民主党は178万円に強くこだわり続けたのである。

所得税減税を掲げて躍進した後、国民民主党の支持率は立憲民主党を追い抜いた。安易に妥協することができなくなったのだ。

しかも玉木雄一郎代表の不倫問題が発覚し、さらに妥協しにくい状況になった。肝心の政策で中途半端に自公与党に歩み寄れば、7月の参院選で有権者から見放され、失速する恐れがあるためだ。

他方、石破首相はもともと玉木代表にはシンパシーを感じていなかった。

玉木代表は岸田政権下でガソリン税減税を訴え、榛葉賀津也幹事長を通して当時の麻生太郎副総裁と水面下の交渉を重ねた。石破首相にとって、国民民主党は、政敵の「麻生印」だった。心の底から信用しているわけではなかったのだ。

そこで大きな変化が起きた。維新の代表選で吉村洋文・大阪府知事が当選し、国会運営を任せる共同代表に前原誠司元外相を指名したのだ。

前原氏は玉木氏と対立して国民民主党を飛び出し、維新に合流していた。そして石破総理とは長年の盟友である。同じ防衛族議員として親密だったことに加え、鉄道オタクとしても気心を通じ合う間柄だ。石破首相は玉木代表よりも前原共同代表のほうがはるかに信用できる。

ここから石破首相の姿勢が大きく変化した。国民民主党を遠ざけ、維新に歩みより始めたのだ。前原氏の持論である教育無償化を協議する自公維の協議会を立ち上げた。維新もこれを評価し、補正予算案に賛成した。

石破首相が通常国会の代表質問で、年収の壁について150万円まで引き上げる検討は行っていないと明言したのは、国民民主党軽視の姿勢を鮮明にしたものだ。一方で、維新とは高校無償化を実現するための新年度予算案の修正協議を着実に進めている。

財務省も、年収の壁を178万円まで引き上げるのに必要な財源は7〜8兆円なのに対し、維新が求める高校無償化は6000億円程度で実現できるため、「維新の方が安くつく」として維新重視の姿勢だ。

国民民主党は苦しくなった。維新が予算案賛成に回ることになれば、国民民主党は用無しになる。これまでのように自公与党に強気な姿勢を貫くことが難しくなってきた。

自民党はそもそも150万円までは譲歩するつもりでしたが、国民民主党が150万円で妥協すれば、自公与党に擦り寄ったとして参院選で勢いを失うかもしれない。さりとて、自公与党の妥協案を拒否すれば123万円のまま予算案が成立してしまう。

自民党は足元をみて、国民民主党に150万円の修正案を提示し、受け入れれば可決し、拒否すれば123万円のまま予算案を採決することを検討している。国民民主党は、妥協すれば世論から批判を浴び、妥協しなければ成果がゼロになる苦しい選択を迫られる。

立憲民主党は今回の予算案で賛成に転じる可能性はゼロではない。7月の参院選では「政治とカネ」で与野党対決に持ち込むものの、参院選後は消費税増税を旗印とした大連立を視野に入れているからだ。

大連立交渉を水面下で仕切るのは、自民党の森山裕幹事長と立憲の安住淳・衆院予算委員長だ。安住氏は通常国会の予算審議を仕切る立場から表面的には石破政権に厳しい姿勢を見せつつ、決定的な決別は避けることで、参院選後の大連立へ布石を打つ議事進行をするだろう。

2月末の衆院予算採決に向けて、参院選やその後の政界再編を睨んだ自公与党と立憲、維新、国民の駆け引きが激化していく。

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