立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の野党4党が市民連合を介して政策合意を締結した。これにより今秋の衆院選小選挙区で野党4党による候補者の一本化は加速しそうだ。
一方、国民民主党は共産党が加わるこの枠組みに強く反発している。朝日新聞デジタルの報道によると、国民民主党の玉木雄一郎代表は市民連合の山口二郎・法政大教授との間で個別に政策合意する協議を続けてきたが、政策合意に加わらないことを決めたようだ。
この報道が正しければ、国民民主党は今回の衆院選で野党共闘の枠組みには入らず、独自に戦うことになる。国民民主党に強い影響力を持つ連合が共産党を敵視し、共産党が加わる形の政策合意は断固認めないという姿勢を示していることが背景にある。
国民民主党(衆院議員8人、参院議員12人)の内部でも衆参で温度差がある。小選挙区で当選した議員が多い衆院側は野党候補を一本化しなければ自らの当選が危うくなるため共産党を含む政策合意に柔軟なのに対し、連合の組織内候補として比例区で当選した議員が多い参院は共産党との連携に極めて抵抗が強い。共産党を敵視する連合への配慮から、共産党を含む政策合意にはどうしても踏み切れないという国民民主党の立場はもはや変わらないだろう。
国民民主党の衆院議員は、党代表の玉木氏(香川2区)、前原誠司氏(京都2区)、古川元久氏(愛知2区)ら選挙地盤が強い議員が多い。できれば共産党が自らの選挙区で候補者擁立を見送ってくれればありがたいが、仮に擁立されて自公政権への批判票が割れても自力で勝てると踏んでいるのかもしれない。実際、これらの選挙区に共産党が擁立しても勝利することは難しく、逆に共倒れとなって与党を利する恐れもある。だからこそ共産党が自主的に候補者擁立を見送ってくれることを期待しているのだろう。
しかし、有権者からみると、野党共闘の政策合意に加わらない候補者を「野党統一候補」とみなすことはできない。仮に自公両党が過半数を割った場合、彼らが自公に一本釣りされ、あるいは国民民主党として自公と連立することで、野党支持者は裏切られるのではないかという疑念が生じるのは当然だ。
野党共闘の政策合意に加わらない国民民主党の衆院議員に目をつぶり、野党4党が彼らの選挙区に候補者を擁立しないのは、有権者への背信行為であると私は思う。
国民民主党として政策合意に加わらない姿勢が鮮明になった以上、野党4党は個々の衆院候補に対し、国民民主党を離党して野党共闘の政策合意に加わるように要請すべきである。与野党どちらの側に立つのか、明確な決断を迫るべきだ。
彼らが拒否すれば、衆院選後に自公政権と連携する余地を残す宣言とみなすほかない。彼らが政権批判票を吸収して自公候補を倒し当選しても、その後に自公政権に加わるのであれば何の意味もない。野党共闘支持者への裏切り行為を防ぐため、彼らの選挙区に野党共闘の候補者を擁立すべきである。それが有権者に対し、野党4党が示すべき責任ある行動だ。
国民民主党の衆院候補が政権批判票を吸収して当選し、将来、自公側に移った場合、対抗馬を立てなかった野党4党の責任も問われることを忘れてはならない。与野党が一議席を争う小選挙区制とは、そのようなものだ。
朝日新聞が9月11、12日に実施した世論調査で、国民民主党の支持率は0%だった(立憲民主5%、共産3%)。比例区投票先でも2%にとどまった(立憲民主11%、共産6%)。国民民主党が衆院選比例区で議席を得る可能性は非常に小さく、小選挙区で敗れると復活当選の道は極めて険しい。
この衆院選を経て、国民民主党の衆院議員の大半は野党4党の枠組みに加わるか、議席を失うかのどちらかであろう。ごく一部は自力で議席を守るだろうが、その議員の居場所は野党陣営にない。遠からず自公側に近づくしかないだろう。野党4党が「最後通牒」を突きつける局面が来ている。さもなくば野党4党の本気度が有権者から疑われるのは避けられない。
衆院選後、国民民主党は連合と一体化した参院議員中心の政党となる。その連合は目下、会長人事で大揉めだ。
現在の神津里季生会長は3期6年の「長期政権」だった。その理由は後任選びが難航してきたからだ。今回も神津氏のもとで事務局長を務めてきた相原康伸氏、有力労組であるUAゼンセン会長の松浦昭彦氏、運輸労連委員長の難波淳介氏らの名前が次々に上がったが、調整がつかずに迷走を続けている。
背景には、共産党を敵視して政府寄りの姿勢を強める大企業系の労組と、野党共闘を重視する自治労などの労組の確執がある。誰が会長になっても連合内部をまとめるのは難しい状況だ。
そもそも非正規労働者が増え続けるなかで労組に加入する労働者の割合は2割を切っており、連合を「労働者の代表」と呼ぶのは厳しいのが実情だ。連合内部でも利害はかみあわず、小競り合いを繰り返している。労働形態が多様化するなかで、さまざまな労組の寄り合い所帯である連合が一致結束して選挙に臨むほうが現実離れしている。むしろ各労組ごろに支持政党や推薦候補を決めるほうが実態に適合している。
そのなかで国民民主党が一部有力労組の出身者が仕切る連合執行部の顔色ばかりうかがって身動きをとれないほうが世間の感覚からズレているといえるだろう。
共産党を含む野党共闘の政策合意が実現したこと。国民民主党の個々の議員が政策合意に加わるか否かの判断を迫られ、その結果として議席を失う可能性があること。連合の会長人事の行方が不透明で、自公と組むのか、共産を含む野党共闘に加わるのか、あるいは連合の解体につながるのか、連合自体が大きな転換期を迎えていること。今回の衆院選をにらんだ動きをみると、野党4党は国民民主党の個々の議員に政治的立場を鮮明にするよう強く迫る時が来ていると痛感する。