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公明党「ポスト山口」一番手の石井啓一幹事長が比例から衆院埼玉14区へ転出するというニュースの背後に潜む激しい内部闘争

目立たないけれど政治記者ならば見逃してはいけない記事というものがある。2月19日朝に読売新聞オンラインが流した『衆院埼玉14区、公明が石井啓一幹事長を擁立へ…与党統一候補目指す』はその手の記事だ。短いので全文を引用しよう。

 公明党は、次期衆院選の埼玉14区(草加市など)の公認候補として、石井啓一幹事長(64)(比例北関東ブロック、当選10回)を擁立する方針を固めた。衆院小選挙区の「10増10減」で埼玉県の小選挙区は1増え、埼玉14区は自民党の候補予定者が決まっていない空白区だった。与党統一候補として擁立したい考えだ。

 10増10減に伴い、公明は選挙区が増える東京、千葉、埼玉、愛知の4都県で、新たな候補の擁立を求め、自民と調整を続けてきた。自民の埼玉県連内には、自民候補の擁立に向けた公募実施を求める声も出ていた。

 石井氏は1993年衆院選の旧東京5区で出馬し、初当選。96年以降は比例選に転出していた。2020年に幹事長に就任し、次期代表候補と目されている。

この記事の重要度を理解するにあたって不可欠な知識は、以下の通りである。

①石井氏は山口那津男氏(70)の後継代表の最有力候補である。

②昨年9月の党大会で山口氏から石井氏への代表交代が確実視されていたが、創価学会内に異論があり土壇場で見送られ、山口代表ー石井幹事長の体制が続投することになった。任期は2024年秋まで。

③山口代表は公明党が野党に転落した2009年に代表に就任。1998年の党再結成後で最長の在職日数を更新しており、代表任期満了時には72歳になる。

④公明党は党所属の国会議員について「任期中に69歳を超えない」「在職は通算24年まで」としているが、山口代表は例外扱いとなっている。

⑤公明党は昨年7月の参院選で目標の800万票、7議席に届かず、党勢のかげりは隠せない。衆院小選挙区の定数「10増10減」を巡る自民党との選挙区調整で議席増を狙っている。

ポスト山口の一番手である石井氏を当選確実な比例区から落選リスクのある小選挙区(埼玉14区)へ送り込むのだから、公明党が小選挙区での議席増に不退転の決意で臨んでいるのは間違いない。埼玉県草加市は公明党が強い地域として知られるが、自民党との選挙協力が機能しなければ小選挙区で勝ち抜くのは難しい。石井氏が代表に就任した後に解散総選挙が行われて落選するという事態は絶対に避けたい。

この事実から言えるのは、以下のことではないかと私は思う。

①2024年秋までに解散総選挙が行われ、石井氏が小選挙区で勝ち上がれば、代表に昇格する。

②2024年秋までに解散総選挙が行われ、石井氏が小選挙区で落選すれば、代表候補から外れる。

石井氏にとって衆院埼玉14区への転身は、代表就任への「最終関門」別の言い方をすれば「最終テスト」であろう。昨年9月に代表就任が確実視されながら見送られた経緯を踏まえると、なかなか厳しい仕打ちである。野党が埼玉14区に強力な対抗馬を擁立すれば、かなりの激戦が予想される。

問題は2024年秋までに解散総選挙が行われない場合だ。石井氏が小選挙区での落選リスクを抱えたまま代表に就任することはあるのか。これを読み解くパズルはあまりに複雑で、その時点での政治情勢に大きく左右されることになるだろう。

創価学会内で石井氏を代表に推す勢力と、代表就任にストップをかけた勢力の力が拮抗し、最終決着を総選挙の結果に持ち越すというかたちで決着したのかもしれない。公明党の国会議員は「捨て駒」に過ぎないことを実感させる人事である。

ここから先は、さらなる深読みである。

石井氏を推す勢力にとって自公の選挙協力の深化は絶対に必要となる。彼らは自民党へ譲歩してでも選挙協力を強めたい。一方、石井氏の代表就任を阻止したい勢力は、石井氏を落選の危機に追い込めばよく、自民党に媚びへつらう必要はない。それぞれの立場で自民党との向き合い方が変わってくるだろう。

自公選挙協力の内幕はすさまじい。参院兵庫選挙区(改選数3)を例に考えてみよう。

創価学会関係者によると、学会の総関西長として「常勝関西」を築いた西口良三氏は参院兵庫選挙区に公明候補を擁立するのに慎重だった。自民、維新、立憲に割り入って1議席を獲得するには公明党の組織票だけでは足りず、自民党に頭を下げて票を回してもらうしかない。そうすると1議席を増やしたとしても、自民党に対して弱い立場になる。そればかりではない。自公連立協議を主導するのは東京・信濃町(総本部)であり、関西が東京に頭が上がらなくなる。すなわち創価学会内の主導権争いで、関西の立場が弱くなるーーそう考えたのだ。

その西口氏は2015年に他界し、公明党は兵庫選挙区に2016年参院選から公認候補を擁立した。以来、自民党との選挙協力を強めて3回連続で議席を確保し続けているものの、西口氏が懸念したとおり、関西は東京に頭が上がらなくなってしまったというわけだ。

自公連立政権下における創価学会内の主導権争いはこのような具合で進む。今回の石井氏の衆院埼玉14区への転出の背景にもさまざまな思惑が入り乱れているのは想像に難くない。

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