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本命・河野氏がキングメーカー・安倍氏へ急接近。安倍氏は「高みの見物」か〜自民党総裁選の対決構図が一変する気配

自民党総裁選で最有力とみられている河野太郎ワクチン担当相が9月8日昼、最大派閥・細田派を率いる安倍晋三前首相と国会内で会談し、出馬する意向を伝えた。河野氏が正式な出馬会見をする前に安倍氏に会って直接出馬の意向を伝えたことは、単なる儀礼以上の意味〜本命候補がキングメーカーに歩み寄った可能性〜を持つといえるだろう。

総裁選はこれまで「安倍路線を継承する岸田文雄前政調会長と高市早苗前総務相vs.安倍路線を転換する河野氏と石破茂元幹事長」の二陣営の対決構図とみられていた。

岸田氏が世論調査で河野氏や石破氏に遅れをとるなかで、安倍氏は高市氏支持を表明。極右言論人や安倍支持層を中心に高市支持の動きが強まる一方、岸田氏は失速する気配が強まっている。岸田氏は森友学園事件をめぐる公文書改ざん問題について「説明が必要」と発言したが、安倍氏周辺から不満の声が出ると一転して「再調査は考えていない」と軌道修正し、安倍氏に恭順の意を示した。この迷走ぶりに岸田陣営からも疑問の声が出始めており、失速が加速する可能性がある。

一方、高市氏は安倍氏の後ろ盾を得て8日に正式に出馬を表明した。当初は「泡沫」扱いされていたが、安倍氏に近い国会議員や安倍支持層の党員票を集め、岸田氏を抜いて「安倍路線を継承する」陣営のトップに躍り出る可能性が出てきた。とはいえ、高市氏が一挙に総裁レースを制するという見方はなお少ない。

これに対して、「安倍路線を転換する」陣営では、候補者一本化を目指す動きが続いている。安倍氏が最も敵視する石破氏は出馬をとりやめ、河野氏の支援に回る検討に入った。安倍傀儡政権の誕生を阻止することを優先した判断である。河野氏に一本化されれば第一回目の投票でいきなり過半数を制して勝利するとも見方も出始めた。

ただし、河野氏自身は石破氏の出馬とりやめについて「石破さんに聞いてください。石破さんの話を私に聞かれても答えようがない」と記者団にそっけない返答をしていた。河野陣営には安倍氏に加え、河野氏が所属する麻生派を含む幅広い支持獲得をめざす動きもあり、石破氏の歩み寄りを「ありがた迷惑」と受け止める向きもあった。

岸田氏が失速し、高市氏が一歩及ばず、河野氏へ勝利が転がり込むーー安倍氏にとって不都合な展開と思われる状況で8日昼、安倍・河野会談が行われたのだ。

河野氏は安倍氏との会談後に記者団の取材に応じた。ここでの二つの発言が「河野氏が安倍氏に接近」との見方を急速に広めることになった。

ひとつは、河野氏の持論である「脱原発」についてだ。

安倍政権は原発再稼働を推し進めた。これを主導したのは安倍最側近の今井尚哉元首相補佐官である。今井氏は経産省出身で原発推進の急先鋒だ。河野氏の「脱原発」と「再生エネルギー推進」の立場は、安倍氏との連携を阻む大きな障壁とみられてきた。

ところが、河野氏は安倍氏との会談後、「安全が確認された原子力発電所は当面は使っていくということはある」と述べ、原発再稼働をあっさり認めたのだった。原発政策で安倍氏に歩み寄ることで、総裁選での支持を求めたという見方が一挙に広まったのである。

もうひとつは、安倍氏がこだわる皇位継承のあり方である。河野氏はこれまで男系維持について「かなりリスクがある」との見方を示してきたが、安倍氏との会談後は一転して「男系で続いてきているというのが、日本の天皇の一つのあり方なんだと思う」と語り、安倍氏へ譲歩する姿勢を鮮明にしたのだ。河野氏はさらに同日、安倍氏と同様に復古的立場をとる青山繁晴参院議員ら党内右派と相次いで面会し「自分は女系容認論者ではない」と伝えたと報じられている。

河野氏の一連の動きは、「安倍路線を転換する」立場で石破氏と連携するのではなく、「安倍路線を継承する」立場へ転じることで、総裁選の勝利を確実にする姿勢を鮮明にしたものといえるだろう。本命候補とキングメーカーの「手打ち」で、総裁選の対立構図は一変したといっていい。安倍氏にとっては、河野氏、岸田氏、高市氏の誰が勝っても自らの身は安泰であるという「高みの見物」で総裁選を迎えることになる。

今後、安倍氏の意向を忖度して岸田氏支持に傾いていた自民党議員たちが河野氏支持へ一挙に雪崩を打つ可能性がある。「安倍路線を継承する」陣営は、極右的な立場から高市氏を支持する人々と、「勝ち馬に乗れ」という立場で河野氏を支持する人々に二極化し、岸田氏は岸田派以外には支持が広がらず一挙に埋没する可能性が出てきた。

こうなると「安倍路線を転換する」立場を鮮明にしている石破氏の出方に注目が集まってくる。石破氏が出馬をとりやめれば主要三候補はいずれも「安倍支配の容認」で足並みをそろえ、自民党総裁選は「コップの中の出来レース」となるだろう。

自民党総裁選の最大の焦点は「安倍支配の継続」か「安倍支配からの脱却」かの選択にある。石破氏が出馬を断念すれば、総裁選は安倍氏に従順な人々による「トップ争い」と化す。「安倍傀儡政権の担い手」を競う単なる権力ゲームのために、感染爆発や医療崩壊をそっちのけにした政治空白をつくることなど許されるのか。

自民党総裁選を意味あるものにするためには、安倍氏に干され続けてきた石破氏の出馬が不可欠である。

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