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福山幹事長の地元・京都で共産党との選挙協力を否定した立憲民主党の一方的な「野党共闘」〜政権交代が実現しなくても来夏の参院選まで居座る「枝野・福山」独裁体制

立憲民主党の福山哲郎幹事長は京都選出の参院議員である。「面倒くさがり」といわれる枝野幸男代表に代わって党内実務全般を取り仕切る枝野最側近だ。枝野氏への党内外からの接触を阻んで囲い込んでいると批判されることも多く、一部では「枝野・福山独裁体制」とも揶揄されている。

枝野氏からの信頼は厚い。民主党時代から衆院京都2区選出の前原誠司氏と枝野氏の「ふたりのプリンス」をつなぐキーパーソンだった。前原・枝野両氏の後ろ盾だった仙谷由人氏が率いる党内グループ「凌雲会」の事務局長を務め、菅直人内閣では官房副長官として枝野官房長官を支えた。

2017年の民進党代表選で前原氏が枝野氏を破った後、小池百合子東京都知事の希望の党へ合流した際、枝野氏は小池氏に「排除」された。この時、福山氏は前原氏と決別して枝野氏に新党結成を迫ったのだ。

枝野氏が福山氏に背中を押されて旗揚げしたのが立憲民主党である。枝野氏が福山氏を幹事長に起用したのは自然な流れであった。

私は朝日新聞政治部で最初に民主党を担当した2001年当時から福山氏を知っているが、足腰が軽く機転が利き、前原氏や枝野氏が重宝するのがよく理解できた。福山氏は前原氏と枝野氏が民主党の将来を担うエースだと公言していたが、前原氏とは地元・京都つながりであり、政治信条としては枝野氏に肩入れしている様子は当時からうかがえた。

現在の枝野立憲民主党は良くも悪くも福山氏抜きには語れない。「枝野・福山」は一心同体といっていい。

その福山氏の地元・京都で、立憲民主党と共産党は緊張関係にある。京都は立憲民主党の幹事長である福山氏だけではなく、政調会長である泉健太衆院議員(京都3区)の地元でもある。野党第一党の幹事長・政調会長のお膝元で「野党共闘」は存在さえしていないのである。

地元・京都新聞のふたつの記事で、最新の状況をみてみよう。ひとつめは10月9日夜に配信された『京都での共産との選挙協力、改めて否定 次期衆院選、立民・泉氏が表明』だ。

立憲民主党京都府連会長の泉氏が府連事務所で記者会見し、今回の衆院選で共産党とは選挙協力を行わないと改めて表明した。枝野代表と共産党の志位和夫委員長は9月末の党首会談で小選挙区の候補者一本化を進めることで合意していたが、「京都は例外」とする宣言だ。

泉氏は京都の地方選挙で共産党と長年対立してきた経緯から「府内では共産党と協議したことはなく、協力関係にない」と強調。共産現職の穀田恵二国会対策委員長が出馬する京都1区には「(立憲民主候補の)擁立の努力を最後まで続ける」と言う一方、国民民主党の前原氏が出馬する京都2区と、連合京都が推薦している元民主党衆院議員が出馬する京都4区には擁立を見送ると表明した。共産党よりも、共産党を敵視する国民民主党や連合との連携を重視する姿勢を鮮明にしたのである。

立憲民主党と共産党が対立する京都の地方選として全国的注目を集めたのは、昨年2月の京都市長選だった。立憲民主党は自民党や国民民主党などともに4選を目指す現職を支援し、弁護士の新顔候補を支援する共産党とれいわ新選組と激突したのである。立憲民主党が自民党などと一緒に「大切な京都に共産党の市長は『NO』」という新聞広告を掲載したことに共産党は猛反発。枝野代表はこの時の記者会見でも「広告自体知らないのでコメントのしようがない」と逃げ、両党間に大きなしこりが残ったのだった。

京都で立憲民主党と共産党が手を結べない一因は、福山氏の参院選事情にある。

参院京都選挙区は定数2で、自民党、民主党、共産党が2議席を競い合う構図が続いてきた。自民党が公明党の支援も受け1議席を得るのは確実で、残る1議席をめぐり民主党と共産党がしのぎを削ってきたのだ。2016年は「自民現職42万票、福山氏39万票、共産新顔21万票」で共産が落選。2019年は「自民現職42万票、共産現職25万票、立憲民主新顔23万票」で立憲民主が落選した。福山氏は来年夏の参院選で共産候補と激突することが確実視される情勢なのだ。

枝野最側近の幹事長である福山氏の地元・京都における立憲民主党と共産党の対立は、全国的な選挙協力にも悪影響を及ぼすとかねてより指摘されてきたが、「福山氏が衆院に転出して参院は共産で一本化する」といった抜本的な解決策が議論された形跡はない。福山氏が幹事長として党運営を主導する限り「京都問題」は両党間のアキレス腱として常に横たわっているのである。

もうひとつの記事は10月11日夜に配信された『立民・福山幹事長「与党の過半数割れ、逆の意味での目標」』である。

福山氏は今回の衆院選を「来年の参院選と合わせ政権を大きく変えていく、日本政治の転換の選挙」と位置付けている。これは重要な発言だ。今回の衆院選で政権交代が実現しなくても、立憲民主党は「枝野・福山」体制を続行して来年夏の参院選に突き進む決意を示したものであろう。

福山氏は衆院選の勝敗ラインについて「今の段階では全員当選を目指すとしかいいようがないが、与党の過半数割れというのは、逆の意味での目標」と語っている。「与党の過半数割れ」を「勝敗ライン」ではなく「目標」として掲げたところに、「与党過半数割れが実現しなくても枝野・福山体制を継続する」という強い意思を込めているといえる。

そのうえで、共産党との選挙協力については「(共産への)抵抗があるところとないところがある。それぞれの地域の色合いに合わせて対応していくしかない」と述べた。京都をはじめ共産党との連携が難しい地域では野党一本化にはこだわらない姿勢を明確にしたものだ。立憲民主党が候補者を下ろすかたちでの一本化には極めて慎重な一方で、共産党が自主的に候補者を下ろすかたちの一本化に期待するものといえる。

幹事長がこのような姿勢では全国的な一本化が加速しないのは明らかであろう。「枝野・福山」体制の立憲民主党は共産党などとの「野党共闘」を対等な関係で進めるつもりはさらさらないのだ。

れいわ代表の山本太郎代表が東京8区出馬をめぐり枝野氏らと激しく対立した背景には、少数政党の意向を軽視して一方的に譲歩を迫る立憲民主党の「高圧的態度」がある。新興勢力のれいわは今回の衆院選で山本代表の国政復帰を何としても果たす必要があるのだが、最優先課題の山本代表が出馬する選挙区を選ぶのにも立憲民主党にさんざん嫌がらせをされ、関係がこじれた。

それに比べ、共産党はよく辛抱していると私は思う。立憲民主党の「野党共闘」への半身の姿勢に何度も反発しながらも、決定的対立を回避して辛うじて協力関係をつないでいるのは、老舗の組織政党として体力があることの証しであろう。

そのうえで「枝野・福山体制のうちに勝ち取れるものは勝ち取っておく」というしたたかな打算もあるに違いない。

今回の衆院選に際して共産党の最大の目標は「閣外から協力する野党連合政権を掲げて野党共闘で衆院選を戦う」という初めての成果を残すことにあるのだろう。立憲民主党の枝野・福山体制は「野党共闘」に本腰ではないものの、「閣外からの協力」について一定の合意を得たという「成果」は大切にしたい。枝野・福山体制はいつまで続くかわからないが、共産党の志位体制は磐石である。立憲民主党の執行部が入れ替わった場合も「閣外からの協力」で合意したという「成果」は残る。長期的視点で他党との関係を構築できるのが共産党の強みであろう。

立憲民主党のれいわに対する冷遇ぶりを放置すれば、それは共産党にも跳ね返ってくる。本来はれいわと連携して立憲民主党に対等な選挙協力を迫ることもありえるのだが、いまは立憲民主党との「閣外からの協力」という合意を維持することを優先し、立憲民主党とれいわの確執は傍観するのが得策という判断と思われる。

私は、共産党はやや物分かりが良すぎると思っている。立憲民主党の執行部と真正面から激突するのは回避するにしても、個別選挙区の調整にあたっては、それぞれの立憲民主候補の政策や政治的立ち位置を細かく吟味し、共産党が高く評価できる候補者の選挙区に限って一本化に応じることで、個々の議員の選挙現場から立憲民主党に対する影響力を拡大していくほうが、執行部同士の交渉を重ねるよりも効果的であろう。

いずれにせよ、共産党が枝野・福山体制の立憲民主党を心底信用しているとは思えず、「ポスト枝野」での本格的な野党共闘を見据えている可能性は高いだろう。

枝野・福山体制が崩壊した後の立憲民主党の代表選は、共産党を敵視する連合との関係を含め、共産党やれいわを中心とする「野党共闘のあり方」が最大の焦点に浮上するのは間違いない。枝野氏が今回の衆院選で政権交代が実現しなくても引責辞任せず代表に居座る場合は、来夏の参院選に向けて立憲民主党は分裂含みとなり、野党再編に発展する可能性が出てくる。

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