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政党助成金の獲得と維新への合流を目指した動機不純な前原新党は野党再編のトリガーとなるか〜泉房穂は「政党乱立で激動の時代に」と歓迎

前原誠司元外相が自公政権に接近する国民民主党を離党し、新党「教育無償化を実現する会」を5人で旗揚げした。

参加者は前原氏(衆院京都2区)のほか、元滋賀県知事の嘉田由紀子参院議員(滋賀選挙区)、前原氏の秘書出身の斎藤アレックス衆院議員(比例近畿)、鈴木敦衆院議員(比例南関東)=以上は国民民主党=に加え、立憲民主党に離党届を提出し除籍処分となり現在は無所属の徳永久志衆院議員(比例近畿)。

代表は前原氏、副代表は嘉田氏、幹事長は徳永氏、政調会長は斎藤氏、国対委員長は鈴木氏が就く。

前原氏と連携してきた日本維新の会の馬場伸幸代表は新党結成を評価し、自ら党名を明らかにして前原氏との蜜月ぶりをアピールした。維新は5人の選挙区への候補者擁立を見送っており、衆院解散と同時に維新へ合流する可能性が高いとみられている。

一方、維新は大阪万博の建設費増大で逆風を浴びている。支持率が続落して失速すれば、合流へ紆余曲折も予想される。

野党は多党乱立でさらに弱体化するのか、それとも自公に対抗する野党再編の一歩となるのか。前原新党の影響を分析してみよう。

🔸「玉木vs前原」は「自公vs維新」の代理戦争

国民民主党の玉木雄一郎代表は、自民党の麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長と接触を重ね、自公連立入りを探ってきた。2022年予算案に続いて、今年度の補正予算案にも「ガソリン税のトリガー条項の凍結解除の検討」を理由に賛成し、自公接近路線を強めている。

これは、国民民主党の支持母体である連合の意向にも沿ったものだ。

前原氏は予算案にまで賛成する玉木路線を批判し、自公に対抗する野党の結集を大義名分として維新に接近してきた。

玉木氏と前原氏の党内対立は、「自公vs維新」の代理戦争の側面もあった。

前原氏は9月に代表選に出馬して玉木氏に挑んだが、惨敗。その後、離党して新党結成のタイミングを探ってきた。

玉木氏が11月、トリガー条項の凍結解除の検討を条件に補正予算案への賛成を表明したことは、離党の絶好の機会となった。地元の京都新聞は「前原氏が離党、新党結成へ」と報じたのである。

ここで前原氏に誤算が生じた。維新が大阪万博の関連予算が含まれていることを理由に補正予算案に賛成してしまったのだ。維新への合流を視野に入れている前原氏にとって、離党の大義名分が揺らいでしまったのである。

前原氏は離党報道を否定し、補正予算案にも賛成した。想定外の事態を受けて、いったん立ち止まったのだろう。だが、11月末に当初予定通り、離党→新党結成に動いた。

チグハグな行動への批判覚悟で新党結成を急いだのはなぜか。

🔸政党助成金目当て

最大の理由は、政党助成金を確保するためだ。

政党助成金を得るには、毎年1月1日時点で、国会議員5人以上が所属していなければならない。実質的には年内に新党結成の手続きを終えなければならない。

このため、新党を結成するなら年末に、というのが永田町の相場観である。

もうひとつの理由は、比例選出の国会議員は前回選挙で競合した政党に移ることが法律で禁じられていることだ。

前原氏は衆院京都2区、嘉田氏は参院滋賀選挙区で当選したので、ただちに維新に合流しても問題はない。しかし他の3人はいずれも比例選出の衆院議員のため、衆院解散まで維新に合流することはできないのだ。

そこでいったん身を置く「中継ぎ新党」が必要になる。新党であれば、前回選挙で競合していないので、移籍は可能だ。衆院解散後に新党から維新へ加わることに法的な問題はない。

🔸野党弱体化か、政界再編か

しかし、維新は大阪万博で失速している。次から次への明らかになる「建設費増大」を容認する姿勢は、維新躍進の原動力だった「身を切る改革」の自己否定だ。大阪以外の有権者の視線はより一層厳しい。全国政党への脱皮も、野党第一党の奪取も、相当難しくなってきたといえるだろう。

前原新党の5人のうち4人は、京都と滋賀の選出だ。維新の勢力圏である関西では移籍のメリットはなお残るかもしれないが、この合流が全国に与える波及効果は乏しく、前原氏らの生き残り策の側面が強まる。

国民民主党もジリ貧だ。前原氏らの離党で所属国会議員は21人から17人になった。自公政権入りが実現しても、実現しなくても、今後の党勢拡大のシナリオは描けない。立憲と維新の野党第一党争いのなかで政権入り以外に存在感をアピールする手立てはなく、ますます埋没感を深めていくだろう。

榛葉幹事長は前原氏の離党を「裏切り」と批判し、「大きな塊と言いながら、小さな塊になっちゃったんじゃないの」と皮肉った。しかし国民民主党もどんどん小さな塊になっていく現状への打開策は見当たらない。

一方、立憲民主党の泉健太代表は「国民民主党が補正予算に賛成をして、岸田政権を補完をする動きをしたことに耐えられなかったという気持ちはわからないでもない」とし、京都の先輩議員である前原氏にエールを送った。立憲民主党との違いをアピールして自公接近を進める国民民主党への嫌悪感の裏返しだろう。

とはいえ、立憲も党勢は低迷している。岡田克也幹事長や枝野幸男前代表が消費税減税を否定していることからも、支持率が上向いているれいわ新撰組や全国組織を持つ共産党との野党共闘の見通しは立たない。

以上の現状をみると、野党乱立で反自公勢力はさらに弱体化する展開がみえてくる。自民党の支持率が急落しているのに、野党はそれ以上に体たらくで、政権交代の機運は全く高まっていない。

そのなかで、前原新党の動きを歓迎したのは、「上級国民vs庶民」の対立軸を旗印に政界再編を仕掛けることを狙っている泉房穂・前明石市長だ。

泉房穂氏は前原氏とは連携していないと断りつつ、新党の党名について「教育無償化はやったらいい」と評価。さらに「政党乱立の時代が始まった。30年前の1993年に近づいてきた」「完全に激動の時代。新しい政治の時代が始まった」と新党結成を評価してみせた。

前原新党が政党助成金目当ての駆け込み結党であることは間違いない。動機不純な新党結成は、維新への合流という「現職議員の生き残り策」で終わるのか、それとも当事者たちの思惑を超えて野党の閉塞状況に風穴を開けるトリガーとなるのか。今後の動きが注目だ。


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