立憲民主党の新代表に森裕子参院議員を推す声がネット上で広がっている。仕掛けたのは、れいわ新撰組の山本太郎代表だ。
山本氏は11月8日夜に「いち有権者としての妄想」と前置きしたうえで「野党第一党の新リーダーが森ゆうこさんなら、自公維とバチバチ対峙できるよなー。見応え充分な国会になる、来年の参議院選挙が楽しみになるくらいに」とツイートした。これには1.1万を超える「いいね」が寄せられている。
森氏は参院新潟選挙区選出、当選3回、65歳。1999年に新潟で町議会議員となったのが政界デビュー。立憲民主党では副代表と参院幹事長を務めている。小沢一郎氏と政治行動をともにしてきた側近として知られる一方、手加減なくギリギリ迫る国会質疑でも有名だ。山本氏とは「生活の党と山本太郎となかまたち」で一緒だった。
今年10月には野党への誹謗中傷を繰り返すツイッターアカウント「Dappi」に自民党が関与している疑惑について岸田文雄首相に質問した。「ぶれない批判精神」と「なりふり構わぬ攻撃力」を持ち合わせた政治家という印象だ。どちらも今の立憲民主党に大きく欠けている要素であろう。
山本氏がツイートするまで、森氏を代表に担ぐ動きはまったくなかった。山本氏の鋭い着眼点と強い発信力を改めて実感させられた次第だ。
立憲民主党の代表選にはこれまで泉健太氏、小川淳也氏、大串博志氏らの名前が浮上しているが、女性はひとりもいなかった。「ポスト枝野」の有力候補だった辻元清美氏は衆院選で落選。知名度の高い蓮舫氏は民進党代表を務めた際の迷走ぶりが強く印象に残っている。それ以外の名前はまったく浮上してこない状態だった。
その点、森氏にはキャリアがある。参院議員が党首を務めるのは蓮舫氏の先例があるし、来夏の参院選に向けてむしろプラスであろう。衆院選が「政権選択の選挙」なのに対し、参院選は「現政権への審判」の意味合いが強い。野党第一党は「政権構想」を示すことよりも「政権批判」を強めるのが筋だ。国会での迫力ある追及で存在感を示してきた森氏は「政権批判の先頭に立つリーダー」としてピッタリだ。
何より意外感がある。女性でも辻元氏や蓮舫氏なら「想定の範囲内」だが、森氏を党首に担ぐというのは、政策好きな官僚出身者が多い立憲民主党的な発想からはなかなか出てこない。枝野時代の「何をしても中途半端な立憲民主党」から「戦う立憲民主党」への脱皮をアピールするには、たしかに格好の人選といえる。
岸田政権は今回の衆院選でとにかく岸田首相の色を消した。選挙戦を盛り上げず、投票率を引き下げ、組織票を固めて逃げ切る戦略が的中した。来夏の参院選でも同様の戦略をとるだろう。
半面、岸田内閣の支持率が低迷すれば、参院選前に「岸田おろし」が吹き荒れ、再び自民党総裁選を実施し、新しい首相に差し替えて世論の批判をかわすという、今回の衆院選と同じパターンが再現される可能性もある。
いずれにしろ、自民党の世論工作に対抗して野党の注目度を高めるには、野党第一党の党首には強力な発信力と存在感が求められる。調整型の中道路線のリーダーは埋没し、投票率は伸びず、また同じ負けパターンを繰り返すことになるだろう。
森氏には小川淳也氏と同様に「新鮮味」があるうえ、小沢支持層を中心として「強力なファン層」がいることも強みだ。
枝野体制下でぎくしゃくした共産党やれいわとの関係も円滑になるだろう。森氏と山本氏が並んで街頭演説に立てば、相当迫力のある「舞台」になるのではないか。
泉氏、小川氏、大串氏ら男性政治家だけの代表選は「いかにも立憲民主党」という真面目一辺倒の政策論争に陥る恐れがある。森氏が出馬すれば、もっと生活に根ざした幅広い論戦が期待できることだろう。森氏の追及にエリート官僚出身の小川氏や大串氏らがどう対応するかも見ものだ。立憲民主党の支持層を広げるためにもぜひ出馬してほしい。
それにしても山本氏の「問題提起力」は突出している。
2019年参院選で重度障害者や非正規社員、シングルマザーら「当事者」を候補者に擁立したことも、森氏を野党第一党の代表に推したことも、立憲民主党の弱点と限界をよく分析したうえでの判断であることがうかがえる。枝野氏の失敗は、山本氏を抱き込まず、関係をこじれさせ、彼の持つ類稀なパワーを野党全体の推進力に転換できなかったことだと改めて思う。
立憲民主党代表選の最大の争点は「野党共闘」だ。野党共闘自体が間違っていたのか、それとも野党共闘は正しかったが中途半端だったのか。今後の野党の進む道を大きく左右する代表選となる。
共産党も「他党のことには介入しない」という教科書的な立場に終始するのではなく、れいわの山本氏につづいてぜひ「野党共闘」のあり方をめぐり場外戦を盛り上げてほしい。立憲民主党の内輪で野党第一党の党首を決めるやり方はもはや古い。
他の野党も世論もみんながわいわいがやがや注文をつけあって、世論全体で新代表を決めていく。そのような代表選に持ち込むことができるなら、自然と支持率は上昇していくだろう。多くの人々を代表選に「参加」させることが肝要だ。