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衆院解散、金融政策、裏金問題…なぜこんなにブレるのか? 石破政権の権力構造から徹底分析〜岸田・菅・石破・森山の弱小連合は最大派閥・安倍派、第二派閥・麻生派、第三派閥・茂木派を抑え込めるのか


衆院解散でブレ、金融政策でブレ、裏金議員の公認問題でブレた。石破茂首相は自民党総裁選に勝利した後、なぜこれほど豹変したのか。

第一回投票では国会議員票は小泉進次郎氏や高市早苗氏に大きく水をあけられたながら、決選投票では「高市政権だけは阻止」という消去法で選出されたため、党内基盤が極めて弱い。
やりたいことは何もできない。やることなすこと、すべてチグハグだ。
国民には失望が広がり、内閣支持率はいきなり40〜50%に低迷。岸田文雄政権や菅義偉政権の発足時を下回る厳しい船出となった。

それでも「予算委員会を開いて国民に判断材料を示してから衆院解散」という主張を撤回し、小泉進次郎政権誕生を前提として描かれた「10月9日解散・27日投開票」の超短期決戦のレールに乗って早期解散に転じたのだから、なんともチグハグだ。

岸田氏や菅氏と親密な森山裕氏を幹事長に起用して「岸田・菅・石破の弱小連合」の要役とし、決選投票で高市氏を支持した最大派閥・安倍派や第二派閥の麻生太郎氏、第三派閥の茂木敏充氏ら反主流派に対抗しようとしているのが、現時点の石破政権である。小泉政権誕生を想定して早期解散戦略を練り上げ、公明党とも内々に話をつけていた森山氏の意向には逆らえない。

やはり政権基盤が弱い。

岸田政権の権力構造と比較してみよう。

岸田政権
・主流派
第二派閥・麻生派
第三派閥・茂木派
第四派閥・岸田派
少数派閥・森山派
・中間派
最大派閥・安倍派
・非主流派
第五派閥・二階派
無派閥・菅グループ

石破政権
・主流派
第四派閥・岸田派
第五派閥・二階派
菅グループ
少数派閥・森山派
・非主流派
最大派閥・安倍派   
第二派閥・麻生派   
第三派閥・茂木派   

石破政権は第四派閥以下の「弱小連合」である。数の上で圧倒的に弱い。そこをなんとか、反主流派を切り崩すことで政権を運営していこうとしている。

最大派閥の安倍派は入閣ゼロ。しかも安倍晋三元首相を「国賊」と呼んで党に処分された村上誠一郎氏を総務相に起用した人事に怒り心頭だ。さらには萩生田氏ら裏金議員が非公認とされ、すべての裏金議員が比例重複を認められず、石破首相による「安倍派つぶし」の狙いが鮮明になっている。

一方で、派閥創始者の孫である福田達夫氏を幹事長代行に取り込んだ。福田氏にとって萩生田氏ら5人衆は目の上のたんこぶであり、裏金事件で5人衆が失脚して安倍派が解散したことを機に、自らを中心に派閥再建を目論んでいる。ここに目をつけて派閥を分断する狙いだ。

第二派閥の麻生派からは麻生氏の義弟である鈴木俊一氏を総務会長に起用した。麻生氏は副総裁から外したものの、名誉職ながら最高顧問として処遇し、一定のメンツは保った。麻生氏は反主流派色を強めているが、対立関係が決定的にならないように配慮しているともいえる。

第三派閥の茂木派からは、茂木氏とライバル関係にある加藤勝信氏を財務相に起用。ここも分断をはかる狙いは明白だ。

主流派も盤石ではない。

岸田派は総裁選で4位につけたナンバー2の林芳正氏が官房長官として続投し、石破政権の中枢に陣取った。林氏はポスト石破への意欲をみせるが、岸田氏はキングメーカーとして君臨することを目論んでおり、岸田派内での主導権争いが強まりそうだ。

二階派は二階俊博元幹事長が今回の総選挙で引退するため、求心力が低下している。事務総長を務めていた武田良太氏が最実力者として派閥をまとめ、菅氏と連携して主流派に加わったが、武田氏は党役職停止1年の処分中で執行部入りは果たせなかった。主流派内での地位は心許ない。

菅氏は総裁選で石破氏を見捨て、小泉進次郎氏を担ぎながら惨敗したのが響いている。決選投票では石破氏を支持し、麻生氏に代わって副総裁に就任したものの、キングメーカーとして君臨するには至らなかった。石破氏との関係も一度は見捨てたしこりが残っており、むしろ主流派のなかでは岸田氏のほうが存在感を増している。

こうした状況のなかで、岸田氏と菅氏とつなぐ要役として少数派閥の森山氏が幹事長に起用され、影響力を増しているが、如何せん、少数派閥の領袖にすぎず、党内影響力には限界がある。

弱小連合を率いる石破首相や森山幹事長にとって、今回の総選挙の最大の狙いは、安倍派の大量落選で自民党内の勢力地図を塗り替え、政権基盤を安定化させることにある。

けれども、安倍派議員の選挙区に対立候補(刺客)を立てる余裕はなく、安倍派の大量落選は自民党の議席減に直結する。あまりに負けすぎると、石破首相自身が敗北責任を問われ、高市氏や麻生氏ら反主流派に「石破おろし」の口実を与えてしまう。

石破首相は総選挙の勝敗ラインを「自公与党で過半数維持」と低く設定した。党内に「自民単独過半数割れなら石破おろしだ」という声があることを意識し、予防線を張った格好だ。

安倍派の大量落選で自民党が議席を減らしても、自公与党で過半数さえ維持すれば、首相の座にとどまることができる。その先は安倍派の影響力が低下し、反主流派を徐々に取り込んでいけば、すこしずつ政権基盤を強化していけると考えているのだろう。

安倍派は大量落選するものの、自民党の議席減を最小限に抑えて政権基盤を強化するという綱渡りのような総選挙を実現できるかどうか。かなりの難題だ。

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