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健康保険証廃止で厚労省は完敗、警察庁は運転免許証死守で徹底抗戦!河野太郎が打ち上げた「マイナンバーへ統合」で霞が関の抗争が激化

河野太郎デジタル担当相が10月13日、健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」に切り替えると発表した。また、マイナンバーカードと運転免許証の一体化も当初予定していた24年末から前倒しすることを検討するという。

国民の個人情報を集約するマンナンバーカードは、そもそも税務当局が国民一人一人の詳細な所得把握を狙って導入を目指してきた。しかし、虚偽答弁や不正隠蔽を繰り返すこの国の政府に対する信用の低さや個人情報流出への不安感から反対が根強く、交付率は人口の49・6%にとどまる。

政府が「所得把握」という本音を隠して「利便性向上」ばかりを強調していることが、国民の疑念をさらに膨らませているのが現状だ。

健康保険証や運転免許証を廃止するという強硬手段に打って出ることで、マイナンバーカードの取得を事実上強制し、普及を一挙に推し進めるのが政府の狙いであろう。「カード取得は任意」という政府方針の大転換といっていい。

生活必需品である健康保険証と運転免許証の廃止は、ほとんどすべての国民にとって他人事ではなく自分事で無関心ではいられない。他の政策とは比較にならないほどの反発が噴出する恐れもある。

岸田首相は内閣支持率下落が続くなかで、よくもゴーサインを出したものだ。裏を返せば、岸田官邸の力が弱まり、マイナンバーカード普及に躍起になる財務省を抑え込めなくなってきたともいえるかもしれない。この分だとマイナンバーカードに続いて消費税増税もあっさりのまされることだろう。

この騒動で私が注目しているのは、運転免許証の廃止を迫られている警察庁の対応である。なぜなら、運転免許証をはじめとする交通行政は、警察の巨大利権だからだ。

読者の皆さんも運転免許の更新に時間とお金を費やすたびに腹立たしく感じている人も多いだろう。国民の大多数が所持する運転免許証を管理することは、警察の予算や天下りを確保する巨大利権となる。マイナンバーカードに統一されてしまうと、それを失いかねない。

そもそもマイナンバーカードへの一本化が進まなかった背景には、国民の反発に加え、霞が関の各省庁が自らの利権を手放したくないという利権構造がある。

案の定、谷公一国家公安委員長は河野大臣の記者発表翌日の定例記者会見で、マイナンバーカードとの一体化で運転免許証を廃止することについて「検討していない」と明言した。徹底抗戦の宣言だ。

警察が他の省庁に先駆けて鮮明に「反対」を表明できたのは、政権内で警察庁の影響力が高まっているからである。

安倍・菅政権では警察庁出身の杉田和博氏が官僚トップの官房副長官(事務)に歴代最長となる8年9ヶ月も君臨した。岸田政権も官房副長官には旧内務省系(総務省、厚労省、警察庁など)で交互に就任するという慣例を打ち破り、警察庁出身の栗生俊一氏を起用し、警察権力を利用して政権基盤を固める安倍・菅政権の統治手法を踏襲した。警察庁の影響力はかつて霞が関のエースといわれた財務省や外務省をしのぐ大きさになっている。

対照的なのは、健康保険証を扱う厚生労働省だ。

厚労省はマイナンバーの医療分野での活用について有識者らによる研究会を設置し「すべての保険医療機関と保険薬局で、個人番号カードによるオンライン資格確認の対応がとられ、個人番号カードが国民すべてに普及するまでの間は、現行の被保険者証も必要であり、保険者においては被保険者証を交付する必要がある」との報告書をまとめている。河野大臣のマイナンバーへの一本化は、厚労省の規定方針を頭ごなしに否定するものだ。

厚労省がこれを受け入れざるを得ないのは、警察庁に比べて政府内での発言力が弱いことに加えて、加藤勝信厚労相の政治的立場によるところが大きい。

加藤氏は清和会重鎮だった加藤六月元農水相の娘婿。大蔵省(現財務省)から政界へ転じて加藤氏の地盤を受け継いだ。加藤氏は義父が政争に敗れて清和会を離れた経緯から経世会(平成研究会=現茂木派)に所属してきたが、安倍晋三元首相の母・洋子さん(安倍晋太郎元外相の妻)と加藤氏の義母はかねてより昵懇で、安倍家・加藤家の親密な関係もあって、加藤氏は安倍政権で官房副長官や厚労相など要職を歴任し、茂木敏充幹事長と派閥リーダーを争う立場に台頭した。

安倍・菅政権から岸田政権に移ると、茂木氏が麻生太郎副総裁を後ろ盾に幹事長に起用され、派閥会長の座も射止めた。加藤氏は茂木氏の後塵を拝することになったのである。

だが、茂木氏がポスト岸田に意欲をにじませ始めると、岸田首相は警戒感を強め、ライバルの加藤氏を今夏の内閣改造人事で厚労相に再登板させ、茂木氏を牽制したのだ。

以上の経緯から、加藤氏は茂木氏に対抗するために岸田首相の後押しが欠かせない。岸田首相が「健康保険証を廃止してマイナンバーへ一本化させる」と言えば、それに従うしかないのである。

健康保険証の廃止を打ち上げた河野デジタル相も、マイナンバーカードの普及を目論む財務省やその後ろ盾の麻生副総裁からの評価を勝ち取って、ポスト岸田へのあしがかりにしたいのだろう。

岸田首相は、河野大臣が国民の猛反対を突破すればそれでよし、突破できなくてもライバルの河野氏が傷つけばそれでもよし、というところではないか。

永田町・霞が関の権力闘争の結果として、私たちの生活に根ざした健康保険証や運転免許証の扱いがコロコロ変わっていく。これこそ、国民不在の政治である。いい加減にしてもらいたい。

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