原発再稼働の是非が最大の争点となった新潟県知事選は5月29日投開票され、自民、公明、国民民主、連合が支持した現職の花角英世氏(64)が2回目の当選を果たした。
地元経済界の有力者である新人の片桐奈保美氏(72)は脱原発を掲げ、共産、れいわ、社民の推薦を受けるとともに、小泉純一郎元首相の応援も受けて現職に挑んだが、野党第一党の立憲民主党が連合に遠慮して自主投票としたことから現職優勢の見方が広がり、選挙戦は盛り上がりに欠け、無党派層の関心を引きつけられなかった。
投票率は推定で48%程度。前回と比べて約10ポイントの大幅減である。
NHKの出口調査によると現職の花角氏は80%近くを得票し、新人の片桐氏に大きく水を開けている。圧勝だ(野党は惨敗だ)。
せっかく有力な対抗馬が名乗りをあげながら、その機会をいかせず、惨敗の結果を招いた最大の責任は、立憲民主党の及び腰にある。西村智奈美幹事長(衆院新潟1区)の地元なのに、立憲は原発再稼働に前向きで現職知事にすり寄る連合に遠慮して自主投票を決め込み、脱原発を掲げる片桐氏を全力で応援しなかったのだ。
今夏の参院選新潟選挙区(改選数1)に出馬する立憲民主現職の森裕子参院議員は片桐氏を全力で支援したが、西村幹事長らはアリバイ作りの応援に終始し、片桐氏を見殺しにした。闘う気がないのである。
これでは選挙戦が盛り上がるはずがない。参院選で森氏の当選も極めて厳しい情勢といえるだろう。まさに「不戦敗」「自滅」だ。
新潟県はかつて「民主党王国」だった。昨年の衆院選でも県内6選挙区のうち過半数の4選挙区で野党系候補が勝利。参院選も安倍長期政権下で行われた前回、前々回とも野党系が勝利してきた。
小沢一郎氏の地元・岩手県や羽田孜元首相の地元・長野県、伝統的にリベラル勢力が強い北海道などとあわせて地方では珍しい「野党が強い県」なのだ。東京電力福島第一原発の事故を受けて、東電柏崎刈羽原発に対する県民の不安が高まり、原発再稼働を進める自公政権への不信も強い。
今夏の参院選1人区でも野党が勝つ可能性が最も高い選挙区のひとつである。
その参院選が目前に迫るなかでの知事選の惨敗。これが参院選に響かないはずがない。その影響は新潟だけにとどまらず、全国の一人区で「野党は勝てない」という不戦敗機運を一気に広げるだろう。この知事選惨敗の悪影響は計り知れない。
立憲民主党は参院選をどう闘うつもりなのか。私には参院選で立憲を中心とする野党勢力が勝つ展開が想像できない。
立憲の議員たちに聞いても、自公を過半数割れに追い込んだり、野党が大きく議席を伸ばしたりすることをすでに諦めている。衆院議員たちは「参院選で惨敗しても衆院選は3年間ないだろう」と考え、自分の地位はしばらく保てるということで危機感がまるでない。非改選の参院議員たちも同様だ。改選の参院議員たちはさすがに焦っているが、党全体のことなど二の次で、自分だけが当選ラインに滑り込むことしか考えていない。
自分たちの地位保全のことばかりで、野党第一党としての体を成していないのだ。
このような野党第一党が参院選で野党勢力をまとめて与党に対抗できるはずがない。立憲民主党は大惨敗を喫するだろう。日本維新の会より獲得議席が下回る可能性もある。
自民党からは「立憲を生かさず殺さず、いまの体たらくのまま温存させている限り、自公政権は安泰だ」という声まで聞こえてくる。もはや立憲民主党の存在自体が自公政権の最大の延命装置となっているのだ。
政権交代のリアリズムを失った野党第一党に存在意義はない。もはやこれまで。いちはやく野党再編を実現して政権交代を本気で狙う「まともな野党第一党」を作り上げるしかない。
求心力を失った立憲民主党はそう遠くないうちに、連合に依存する議員たち、維新に近づく議員たち、れいわや共産との野党共闘を再構築しようとする議員たちに三分裂していくだろう。
連合は岸田文雄首相や麻生太郎副総裁に接近し、維新は菅義偉前首相に接近し、いずれも「自公補完勢力」に成り下がっている。野党再編の主役になるのはれいわしかないと私は思っている。立憲の若手を中心にれいわの「消費税廃止」や「積極財政」にシンパシーを寄せる議員たちがれいわに駆け込む形の野党再編で「まともな野党第一党」を作るのがもっとも現実的なシナリオではないか。
以下のYouTube動画でその道筋について具体的な提案をしている。ぜひご覧いただきたい。
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