衆院選不出馬を表明した自民党の二階俊博元幹事長の後継候補として、二階氏の三男が自民党公認で和歌山2区に擁立される方向となった。和歌山県の町村会が4月24日に出馬を要請した。
二階氏は不出馬会見で「後継者は地元の皆さんが決める」と話していた。町村会は二階氏の牙城だ。息子への禅譲は既定路線だったといってよい。
一方、和歌山県政界を二分して二階氏と敵対関係にあった世耕弘成・前参院幹事長は、安倍派の裏金問題で離党勧告の処分を受けて離党。これまで衆院鞍替えを二階氏に阻まれてきたが、これを機に次の衆院選で和歌山2区から無所属で出馬する意向を固めている。
和歌山県の衆院定数は次の衆院選で3から2へ減り、ただでさえ候補者調整は難航が予想されていた。二階氏は世耕氏の衆院鞍替えを阻むため、一時は生涯現役を続ける意向に傾いていたが、裏金事件で自らが窮地に立つとともに、政敵の世耕氏が離党勧告を突きつけられ、二階氏より厳しい立場に立ったことを機に方針を転換。次の衆院選は自らが引退して息子に地盤を譲る好機と踏んだのだ。
二階氏は不出馬表明にあたり、岸田首相に対し①二階氏の裏金処分を見送るなら不出馬を表明する②後継者は二階氏の息子とする③世耕氏には離党勧告を突きつけるーーの3点を裏取引したとみられている。老獪な政治家はタダでは転ばなかったといえるだろう。
二階氏は政治家秘書から和歌山県議に転じた党人派の叩き上げだ。自民党で権勢を誇った田中派に所属し、小沢一郎氏とともに離党して政界再編を主導し、新進党や自由党を渡り歩いて自民党に復党し、中曽根派の流れをくむ志帥会の会長の座を射止め、安倍政権では自民党幹事長に就任し、歴代最長の幹事長となった。これほど巧みに政界を渡り歩いた政治家は珍しい。
一方、世耕氏は政治家一族の世襲議員だ。近大の経営も受け継いだ名家出身である。最大派閥・清和会(安倍派)に身を寄せ、安倍晋三元首相を後ろ盾に官房副長官や経産相など要職を歴任し、参院幹事長として権勢をふるった。安倍派5人衆のひとりとして総理・総裁を目指すと公言し、派閥内のライバルである萩生田光一氏や西村康稔氏らとしのぎを削ってきた。
最大のネックは参院議員だったことだ。地元和歌山で衆院鞍替えを目指してきたが、二階氏に阻まれてきた。このため、清和会のドンである森喜朗元首相からは「世耕さんは頭もいいし、カネもある。参院のドンになれ」と言われ、総理候補としてみなされていなかった。萩生田氏や西村氏から一歩遅れをとっていたのだ。
裏金事件で離党を迫られたことは大打撃となった。検察に起訴された会計責任者は世耕氏のNTT時代の先輩で、世耕氏が派閥に連れてきた人物だった。派閥内では世耕氏への批判が広がった。
さらに世耕氏が国会質問で岸田首相を公然と批判していたことも、岸田首相の心証を悪くしたのは間違いない。参院政倫審で「まったく関与していない」「何を知らなかった」と連発してイメージを悪化させたうえ、現旧秘書が関与した「過激ダンスショー」が発覚したことがトドメとなった。
だが、ピンチはチャンスである。世耕氏は離党したことを逆手にとって、二階氏に遠慮することなく、次の衆院選で和歌山2区から無所属で出馬する決意を固めたと報じられている。
このまま参院議員にとどまれば、来年夏の参院選で改選を迎える。それまでに復党するのはほぼ不可能だ。二階氏は参院選で党公認の新人を擁立して世耕氏を落選させようとするだろう。それならば次の衆院選和歌山2区に無所属で出馬し、二階氏の息子との激突を制したほうが、自民復党・復権への道は開ける。一か八かの無所属出馬は理にかなっているといっていい。
次の衆院選和歌山2区は「自民党公認の二階氏息子」vs「無所属の世耕氏」の怨念の戦いとなりそうだ。
二階氏息子が勝利すれば、世耕氏の政治生命は終焉する。和歌山は二階王国となるだろう。
世耕氏が勝利すれば、二階氏の影響力は一気に低下する。世耕氏は自民党復党を果たし、復権への足がかりをつかむことになろう。
どちらが勝っても自民党。政界全体には影響はないとみるのは早計だ。
日本政治史では自民分裂が政界再編のつながってきた。1993年の非自民連立政権は、小沢氏や二階氏の離党から始まった。2009年の民主党政権誕生も、05年郵政選挙で離党した亀井静香氏らが野党陣営に回ったことが大きく影響した。
次の衆院選でも和歌山が震源地となって自民分裂が全国に波及する可能性はないとは言い切れない。