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金正恩総書記の妹の「岸田首相が平壌を訪問する日が来ることもありうる」は日米韓連携を揺さぶる狙いであることは間違いないのだが…米国が求める圧力ばかりを重視し、拉致問題も東アジア情勢も改善しなかった過去20年の総括が不可欠だ

北朝鮮の金正恩総書記の妹で朝鮮労働党副部長の金与正氏が朝鮮中央通信を通じて「拉致問題を障害物としなければ、両国が近づけないはずがなく、(岸田文雄)首相が平壌を訪問する日が来ることもありうる」という談話を発表した。

岸田首相はこれまで拉致問題の解決を掲げて日朝首脳会談の実現に意欲をにじませており、日朝間で何かしらの水面下の交渉があったのは間違いないだろう。

金氏は日本政府としては譲歩できない拉致問題の棚上げを首相訪朝の条件としており、日本政府に揺さぶりをかける狙いがあることも間違いない。首相訪朝が早晩に実現する政治状況にはないとみておいたほうがいい。

とはいえ、マスコミ各社が報じているとおり、金氏の談話を「日米韓の連携に楔を打つ狙い」として受け流すのもどうかと私は思っている。

今年末には米大統領選があり、バイデン大統領はトランプ前大統領に対して劣勢と言われる。トランプ氏が大統領に復帰すれば国際情勢は激変するのは間違いない。米露関係が改善し、ウクライナ戦争はロシア勝利の形で終息する可能性もあろう。米朝関係をはじめ東アジア情勢も大きく変化する可能性がある。

米大統領選が終わるまで米国の外交方針は模様眺めが続くだろう。それまでの間に日朝関係を揺さぶり、日米韓を分断する狙いがあることはその通りである。

しかし、小泉政権下で日朝首脳会談が実現して一部の拉致被害者の帰国が実現した後、日本政府は彼らを北朝鮮へ戻すことを拒否して日朝関係は悪化。それ以降の約20年間、対北朝鮮外交は日米韓の連携維持を最優先して北朝鮮に圧力をかけることを基本方針としてきた。その結果、拉致問題はほとんど進展せず、北朝鮮は核・ミサイルの開発を急速に進め、東アジアをめぐる安全保障環境は悪化の一途をたどっている。はたして「日米韓の連携」ばかりを重視した「圧力政策」は成功したのかどうか、過去20年の対北朝鮮外交をしっかり総括する必要もあるのではないか。

かつて日本外交を担う外交官も、日本外交を報じる記者(特派員や政治部記者)も、中国、ロシア、朝鮮半島、アラブなどの地域に密着し、それぞれの言語を操り、それぞれの文化に精通した専門家が多かった。ところがこの20年、外務省もマスコミ各社も画一化が進み、米国留学時代に培った人脈や知識をもとに中国やロシアなど国際情勢を分析する専門家が幅を利かせている。ウクライナ戦争にしろ、パレスチナ問題にしろ、米国の視点でしか報道されず、外交政策も組み立てられない。

朝鮮半島情勢も同様で、かつてはソウル勤務歴が長く、ソウルや平壌からの視点で世界をみていた外交官や特派員が主流だったが、近年は米国留学で安全保障を学び、米国の視点で朝鮮半島情勢を分析する専門家が急増している。その結果、「日米韓の連携」による「圧力政策」が唯一の正しい選択であるというのが「常識」とされ、対話重視の外交方針は米国の外交姿勢に反するとして問答無答で退けられてきたのである。

その結果、拉致問題が進展したり、東アジアの安全保障情勢が好転したのならいいのだが、結局のところこの20年間、どちらも成果が出るどころか、状況は悪くなる一方だ。根本的な「対米追従」の外交政策や外交報道そのものがうまく機能していないとみたほうがよいのではないか。

もちろん、対話重視に切り替えたからといってただちに拉致問題が進展するほど外交交渉は甘くはない。それは百も承知なのだが、米国のいうがままに圧力政策こそ唯一の道であるかのごとく、マスコミが報道したり、外務省が振る舞ったりすることに、私はかなりの違和感を抱いている。

横田めぐみさんが13歳で拉致されてから46年が過ぎた。拉致被害者家族連絡会の代表を務めた父・滋さんはすでに他界し、母・早紀江さんは2月4日に88歳を迎えて「どうして拉致問題が解決できないのか分からない」と、もどかしい気持ちを口にしたと報じられている。

この20年間の外交政策で何が足りなかったのかという総括は、絶対に必要だ。

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