立憲民主党代表選(9月7日告示・同23日投開票)に野田佳彦元首相(67)が出馬を表明した。
民主党政権の最後の総理大臣。解散総選挙で安倍自民党に大敗し、野党転落を招いた張本人。
さらには自公と消費税増税の3党合意を主導した責任者。
野田氏は悪夢の民主党政権のシンボルである。本人も「昔の名前」と認め、出馬に慎重な姿勢を示してきた。
けれども、同じ9月に行われる自民党総裁選の本命に43歳の小泉進次郎氏が浮上し、10月解散総選挙の見通しが強まったことで、立憲党内には危機感が広がり、小泉氏の「刷新感」に対抗するには、首相経験者である野田氏の「安定感」「重厚感」しかないという空気が一気に広がり、野田待望論が高まっていた。
現職の泉健太代表(50)は小泉氏を意識して「私も若手です」と強調して再選を目指すが、「自民党の顔が変わるのに、立憲の顔が代わり映えしなければ、総選挙は勝負にならない」との見方が支配的で、推薦人20人が集まるかどうか微妙な情勢だ。
前代表の枝野幸男氏も前回総選挙で大敗して代表を辞任しながら、次の総選挙が目前に迫る今回の代表選に出馬することにしらけムードが漂っており、党内支持は広がる気配がない。
いまのところの党内情勢は、野田氏圧勝の流れである。
野田側近の安住淳国対委員長は通常国会の質疑に野田氏を繰り返し起用した。とくに裏金事件追及の勝負所で野田氏を質問者に送り込んできた。そのときから野田再登板を想定していたのだろう。
野田氏は民主党政権で財務相から首相になったが、その後任の総務相を務めたのが安住氏だ。このふたりが消費税増税の3党合意を主導した。まさに大物財務族議員である。野田氏が代表復帰すれば、幹事長の有力候補は安住氏だ。野田・安住体制にあれば、立憲はますます財務省との連携を深めていくだろう。
野田氏には「安定感」や「重厚感」はあるものの、「既視感」も強く、無党派層の評判は決して芳しくない。
野田氏は党内では大人気、党外では不人気。この内外格差こそ、立憲の閉塞感を映し出している。
この流れに歯止めをかけて野田氏に対抗するとすれば、枝野氏や泉氏ではなく、江田憲司氏だ。
元通産官僚で、自民党の橋本龍太郎内閣で首相秘書官を務め、権勢を誇った。その後政界へ転じ、みんなの党や維新の会を経て立憲民主党に加わった「外様」である。党内基盤は決して強くないが、悪夢の民主党政権のイメージが薄いのが強みだ。
江田氏は野田氏や枝野氏の財務省路線とは一線を画し、減税を主張している。江田氏が出馬すれば財政政策が最大の対立軸になるだろう。
吉田晴美氏は当選1回の立場で出馬を目指している。前回総選挙では東京8区(杉並区)で自民党の石原伸晃元幹事長を倒して注目を集めた。一方で、事前の候補者調整でれいわ新選組の山本太郎代表と衝突。山本氏が自ら身を退くかたちで決着したが、れいわ支持層から激しく非難された経緯もある。
シンガポール空港の客室乗務員から外資系金融機関へ転職し、国会議員秘書を経て政界入り。すらっとした長身でカリスマ性がある。地元・杉並区には野党共闘で岸本聡子区長が誕生。杉並区は野党に勢いがあり、そのシンボルが吉田氏といっていい。吉田氏が出馬すれば野田氏の「既視感」をやわらげることができると期待されている。
しかし、当選1回の新人議員の出馬に期待しなければならない現状は、野田氏圧勝の様相とあわせて、立憲の閉塞感を浮き彫りにしているといっていい。
前回代表選に出馬した小川淳也氏は推薦人集めが難航し、出馬を見送った。同じく前回出馬して幹事長に起用された西村智奈美氏は菅直人グループが出馬を期待しているが、慎重姿勢だ。
前回代表選は、泉氏、小川氏、西村氏ら「若手」で争われたが、論争内容は青臭く、政権交代のリアリズムはまったく感じられず、「生徒会長選挙」「学級会」などと揶揄された。今回は野田氏や枝野氏の出馬で重みは増すものの、目新しさに欠け、世論の関心を引き寄せることができるかどうかは見通せない。
代表選が盛り上がらなければ、10月解散総選挙で惨敗という展開も十分にある。立憲にとっては正念場の代表選となる。