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河野太郎氏の失速が始まった〜初の女性首相を目指す野田聖子氏の出馬が長老支配・派閥政治を利する皮肉な現実

野田聖子幹事長代行が自民党総裁選に悲願の出馬を果たした。告示日前日の土壇場で出馬に必要な推薦人20人を何とか確保した。

野田氏は初の女性首相をめざして何度も総裁選出馬を目指してきたが、これまでは推薦人を確保することができなかった。ついに念願が叶ってさぞかしうれしいことだろう。高市早苗氏と並んで初めて複数の女性候補が総裁選に出馬することも意義がある。

一方で、野田氏の出馬は、世代交代を嫌って河野太郎ワクチン担当相の勝利阻止を画策するキングメーカーの安倍晋三前首相の戦略にぴったりハマるものだった。

安倍氏は国民的人気がある河野氏が党員投票でトップに立つことを見越し、①ハト派の老舗派閥・宏池会の会長ながら安倍氏に従順な岸田文雄前政調会長と、右派的な政治信条が安倍氏と一致する高市早苗前総務相の両方を擁立する②左右双方から河野氏の党員票を切り崩して一回目の投票で過半数を取られるのを防ぎ、国会議員中心の決選投票に持ち込む③決選投票では岸田氏と高市氏の二・三位連合で河野氏を逆転するーーという戦略を描いてきた。

これに対し、河野氏は国民的人気の高い石破茂元幹事長と小泉進次郎環境相の支持を得て党員投票で圧勝し、一回目の投票で過半数を制して一挙に勝利することを目指していた。

そこへ野田氏が土壇場で参戦した。安倍氏にすれば、労せずして党員投票がさらに分散するという幸運が転がり込んできたのだ。

野田氏は国会議員に基盤がほとんどなく、最下位に沈む可能性が極めて高い。しかし、野田氏の参戦は、一回目の投票で過半数をとって決着をつける河野氏の戦略を根底から崩した。「初の女性首相」をめざす野田氏の出馬が「長老支配と派閥政治」の温存を狙う安倍氏らを利するという皮肉な結果をもたらしたのだ。

河野氏が一回目の投票で過半数を制するのを阻止し、決選投票でキャスティングボードを握ることを狙った二階俊博幹事長ら派閥領袖が水面下で野田氏の推薦人確保に手を貸したという見方が政界で広がっている。河野陣営からは野田氏への恨み節が漏れている。

野田氏の参戦は総裁選の政策論争にも影響を与えそうだ。

9月17日の候補者演説会や合同記者会見で、河野氏は森友学園事件の再調査は必要ないという考え方を重ねて示した。安倍氏が警戒する「脱原発」も封印。安倍氏への対決姿勢はまったく感じられなかった。一回目の投票で過半数を獲得する見通しがたたなくなったことで、決選投票を視野に入れる必要が生じた結果、最大派閥を率いる安倍氏との全面対決を回避することにしたのだろう(「脱原発」を封印したのは安倍氏ばかりではなく原発推進派の二階氏に配慮して決選投票での支援を期待した可能性もある)。

しかし、河野氏が国民的人気を背景に世論調査でトップを走ってきたのは、長老支配や派閥政治の打破に期待が集まっていたからだ。安倍氏や二階氏ら長老と妥協を図り、主要派閥に配慮する河野氏には何の魅力もない。同じ安倍傀儡になるならば、河野氏より安定感に勝る岸田氏のほうがマシだーーそう判断する自民党員は少なくないだろう。「守りに入った河野氏」は一挙に失速する可能性が出てきた。

一方、当選可能性がゼロに近い野田氏は17日の候補者演説会や合同記者会見で、実にのびのびと発言していた。森友学園事件の再調査に前向きな姿勢をみせたし、閣僚の半分を女性にするという大胆な構想も披露した。守りに入った河野氏とは対照的だ。安倍氏にすれば、野田氏の姿勢は気に食わないものの、当選確率は限りなくゼロに近いのだから、河野氏の過半数阻止のためなら目をつむるというところであろう。

4人が出演した同日のフジテレビの番組で河野氏のツイッターでの発信力が話題にのぼると、野田氏は「SNS上で私が河野さんに勝っているのは、私は決してブロックはしない。どんな嫌なことも受け止めて返せるように努めている」と対抗心をみせた。

野田氏が引き寄せるのは、安倍氏が君臨する自民党政治の流れを変えることを河野氏に期待しながら、河野氏の煮え切らない姿勢に失望した党員たちの支持だ。野田氏がもっとも切り崩すのは、河野氏の支持層なのである。

野田氏はハト派の岸田氏の支持層も取り込む可能性がある。一方で、同じ女性ながらジェンダー政策で正反対に位置する高市氏とはほとんど支持層が重ならない。野田氏の登場で割りを食うのは、①河野氏→②岸田氏→③高市氏の順だろう。

当初は泡沫扱いされた高市氏は安倍氏の支持を取り付け、主要3候補に仲間入りした。土壇場の野田氏の参戦によってついに決選投票に残る可能性も出てきたのではないか。さらには「河野氏vs高市氏」の決選投票になれば河野氏やその背後に控える石破氏や小泉氏を警戒する国会議員票を吸収して一挙に総裁レースを制するーーそんな可能性も現実味を帯びてきたのである。

野田氏の思いとは別に、彼女の参戦は総裁選の対決構図を激変させた。野田氏ほどのベテラン政治家ならばこの対決構図の激変を十分予測したうえで出馬に踏み切ったはずである。そこには「参加することに意義がある」ということでは済まされない現実政治の重みがある。この総裁選の結果に対して野田氏は重大な政治責任を背負ったというほかない。

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