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秋の2補選で「ドリル優子」に自民敗北の責任を押し付ける?解散総選挙よりも党内のライバルを蹴落とす岸田首相の政権延命戦略

10月22日投開票の「秋の2補選」(衆院長崎4区、参院徳島・高知)は、事前の情勢調査で「自民2敗」の可能性もあると報じられている。そのとおりの結果に終われば、岸田文雄首相が来年秋の自民党総裁選の前に衆院解散を断行することは難しくなるだろう。岸田政権の今後を大きく左右する補選といっていい。

もうひとつ注目されているのは、自民党選挙対策委員長に起用された小渕優子氏の「初陣」ということだ。

岸田首相は9月の内閣改造・党役員人事で小渕氏を起用した際に「選挙の顔」となることを期待していると表明した。小渕氏は早速現地入りしてマイクを握っている。

ところが、現地での評判はいまいちだ。地元紙では「小渕氏の来援はプラスにならない」という自民党関係者の不満も報じられている。

何しろ、2014年に経産相を辞任した際の政治資金問題がくすぶっている。証拠とされるパソコンを小渕事務所がドリルで破壊して証拠隠滅を図ったとして「ドリル優子」という不名誉なあだ名がネット上で飛び交い、イメージを悪化させているのだ。

そもそも岸田首相が小渕氏を起用したのは、小渕氏が茂木派に所属していることから、ポスト岸田を狙う茂木敏充幹事長を牽制する狙いがあった。小渕氏の父の小渕恵三政権で幹事長を務めた森喜朗元首相の推しで小渕氏を幹事長に抜擢することも検討したほどである。

一方で、岸田首相が「秋の2補選」での敗北に備え、あえて世間の耳目を集める小渕氏を選対委員長に起用し、敗北責任を転嫁してしまうことを狙った可能性もある。

岸田首相には「前科」がある。世論に不評なマイナンバーカード問題を、ポスト岸田を狙う河野太郎大臣に押し付け、河野氏の人気を失速させたのだ。河野氏はマイナンバーカード問題に対する世論の批判が高まった後、マスコミ各社世論調査の「次の首相」トップから滑り落ち、ポスト岸田レースですっかり遅れをとった。

小渕氏はポスト岸田の有力候補とは言わないまでも、ここで人気が高まれば岸田首相に脅威になりかねない。茂木氏を牽制するカードをして利用しつつ、国民的人気が急浮上するのは避けるため、苦戦が予測される補選の前面に立たせて、敗北した場合の責任を押し付けようというわけだ。

選対委員長に起用したことで「ドリル優子」批判が再燃し、秋の2補選で敗北したら小渕氏のせいにするーー選挙に勝って政権の勢いを回復して解散総選挙につなげるのではなく、党内のライバルを蹴落としてポスト岸田不在の政治状況を作り出すことで政権を延命する岸田首相の基本戦略がここに透けて見えるのである。

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