岸田文雄首相の長男翔太郎氏が首相秘書官として父親の欧米訪問に同行し、パリやロンドンで公用車に乗って観光地や高級デパートを巡っていたことが発覚して批判を浴びたのは今年はじめのことだった。
今度は自民党女性局長の松川るい参院議員(52)やタレントの今井絵理子参院議員(39)らが同局海外研修でパリを訪問し、エッフェル塔の前に並んで両手を高く上げて塔をまねるポーズで収まる姿など修学旅行中の女学生らのような写真がネット上を駆け巡り、猛烈な批判を浴びている。(日刊ゲンダイ参照)
首相長男のパリ漫遊はおそらく岸田官邸に不満を持つ外務官僚らからリークされたものだろうが、今回の女性局の海外研修は松川氏が自らSNSに写真をアップしたことが騒動の発端である。まさに「自爆」だ。
首相長男の公私混同問題が冷めやらぬ折、しかも議員の海外視察への批判が相次いでいるのに、なんと危機感が欠如していることか。その間抜けぶりは首相長男以上である。
このような自民党議員たちが「安全保障上の危機」を叫んで「防衛力増強」「防衛費の大幅増額」を声高に唱えているのだから、笑止千万である。
野党がバラバラで、内閣支持率がどんなに下落したところで自民党が政権を失うことはないという慢心から生まれた行動といえるだろう。永田町の政治家たちの公私混同感覚が改めて浮き彫りになった。
松川氏はSNSへの投稿を削除し、代わりに釈明する文書を公開した。それによると、自民党女性局の研修は5年に一度程度、女性局所属の地方議員らとともに海外を訪問し、「見聞を広め政策や今後の活動に活かしていくことを目的」としており、今回は国会議員4人を含む38人が参加したという。「費用は党費と各参加者の自腹で捻出」したそうだ。
夏休みの「議員の海外視察」の典型例である。
報道によると、参加者の自己負担は30万円で、それを超える分は党費らしい。松川氏らは「税金ではない」と言いたげだが、自民党の収入の7割は税金を原資とする政党助成金だ。「今回の費用に政党助成金は入っていない」と抗弁したところで、お金に色はついていないのだから「税金で支えられている党の資金で外遊した」との指摘は免れない。
しかも松川氏の釈明は冒頭から火に油を注ぐ内容だ。「私のSNS投稿のせいで、中身のある真面目な研修なのに誤解を招いてしまっており、申し訳なく思っております」というのだが、「中身のある真面目な研修」と信じる有権者はどれほどいることか。
松川氏は「フランス教育省、少子化担当行政部門、有識者、上院議員、下院議員と意見交換を行い極めて有意義でした」としているが、議員の海外視察なのだから、そのように「表向きセッティングされた会合」に出るのは当たり前だ。それを口実に単に海外で漫遊したいだけであることを有権者は見透かしており、その本心がSNSに投稿された修学旅行中のような写真に如実に表れただけではないか。
岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」とは所詮、この程度のものであるというイメージを広めたという意味でも、政権にとっては痛手だろう。
日本一の子ども支援で脚光を浴びた泉房穂・前明石市長がSNSで「子育て支援の視察ならパリよりも近い明石へ」と呼びかけたことがニュースになっているが、これこそ庶民感覚である。今回の自民党女性局一行のパリ訪問が公費をかけて必要だったとはとても思えない。
松川氏は東大法学部を卒業し、外務省に入省。2014年に安倍内閣が掲げる「女性が輝く世界」を推進するために外務省に新設された女性参画推進室の初代室長に起用され、2016年の参院選大阪選挙区に自民党公認で出馬し、国政デビューした。最大派閥・安倍派に所属し、維新の牙城・大阪における自民党の「期待の星」である。
8〜9月に予定される内閣改造人事では、岸田政権が掲げる「女性登用」の柱として、官房長官などへの抜擢が取り沙汰される小渕優子元経産相と並んで入閣候補に浮上しているが、「身から出た錆」でどうなるか。岸田首相にとっては支持率回復策がまたひとつ失われたといえるかもしれない。