税収など歳入から制作経費など支出を差し引く「基礎的財政収支」(PB:プライバリーバランス)が来年度に国と地方あわせて8000億円程度の黒字になるという試算を政府が示した。
政府は2002年以降、財政健全化を示す指標としてPBを公表して黒字化を目標に掲げてきたが、ずっと赤字だった。はじめて黒字に転換するというのである。
政府はこれまでPBの赤字を強調し、財政危機を強調して、社会保障費などの歳出削減や消費税などの増税を進める根拠としてきた。コロナ禍ではワクチン調達や休業補償などに大胆な財政出動を展開したことから、PBは50兆円近くの赤字となり、財政再建のための消費税増税論が財界などからあがっていた。
ところが来年度は一転して黒字になるというのである。
財務省や財政学者、マスコミ各社がこれまで財政危機を煽ってきたのは何だったのか。PB赤字を口実に歳出削減や消費税増税を推進してきたのは何だったのか。あまりに拍子抜けするPB黒字化にニュースに、怒りを通り越して笑うしかない心境だ。
ここにきてPBが黒字化したのは、急激な円安進行による大幅な株高・不動産高で大企業の業績が飛躍的に好転し、さらには物価高(インフレ)が急速に進んで、税収が大幅に増えたからである。国民生活を苦しめる円安・物価高によって税収が急増し、PBが黒字化したわけだから、いったいこの指標は何のために存在したのかと呆れるほかない。
PBが単に無意味な指標であるというのなら、その罪はまだ少ないだろう。最悪なのは、財務省や財政学者、マスコミ各社がPBの赤字が続けば財政破綻が起きると危機感を煽り、社会保障費などの歳出削減や消費税の増税を進める理由づけとしてきたことだ。この責任は極めて重大である。
PBが黒字化したところで、物価高に対応して歳出を増やせば、再びPBは赤字になるという指摘もあるが、その理屈でいうと、PBという数値目標を達成するために、国民は物価高にみあった社会保障などの予算が確保できなくても我慢しろということになる。
これではいったい何のための政治なのか。財政の数値目標を守るために国民に我慢を強いることが政治なのか。
そもそも2002年のPBが導入されたのは、当時の小泉政権が自民党内の族議員ら「抵抗勢力」の権力基盤を奪うため、歳出削減を推進することが目的だった。自民党内の権力闘争から作り出された、極めて政治色の強い数値目標なのである。
政府(とくに財務省)が掲げる経済指標や数値目標は、きわめて政治的思惑がからんでいるものがおおい。それを見極めて報じるのがマスコミの役割なのだが、マスコミはこれまでPBを重要指標として位置付け、財政再建を主張してきた。財務省をはじめとする政府の世論操作に加担してきたのである。
今回のPB黒字化で、いかに政府の数値目標が無意味か(時として害悪か)が可視化された。このような数字のマジックに惑わされないようにしたい。