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電力会社への補助金をやめ、「再エネ賦課金」の停止で電気代引き下げを!物価高で苦しむ庶民に1人10万円の一律現金給付を!

岸田政権が10月中にまとめる総合経済対策の目玉は電気代の抑制策である。経済産業省がこれまで検討してきた内容はあまりにひどかった。一般家庭など「消費者」に給付金を配るのではなく、電力会社に巨額の補助金を投入するというのだ。

経産省は補助金が電力小売価格の引き下げに反映されているのかを検証する仕組みを導入して理解を得る考えのようだが、電力会社が「中抜き」することをほんとうに防げるのか、極めて怪しい。

役所が「検証する」という数字はいくらでも操作可能であることは、近年の統計不正問題で明らかだ。

消費者にお金を直接配るのではなく、電力会社に直接わたす。「個人より業界」を優先する自民党・霞が関・経済界の政官業癒着の構造である。補助金の見返りとして政治献金や天下りという恩恵を受けるのだ。

国民ひとりひとりにお金を配っても見返りがない。だから彼らはそのような「ムダ弾」を普通は打たない。(打つとしたら、それは選挙目前だ)

コロナ禍で全員に配った現金10万円給付は異例中の異例だった。当時はあまりにずさんなコロナ対策に国民世論の怒りが沸騰し、自民党・霞が関はやむにやまれず10万円の一律給付に踏み切ったのである。

国民が大人しく黙っている限り、彼らの「業界優先政治」は延々と続く。

岸田首相も当初は経産省の用意したレースに乗るつもりだった。ところが、安倍国葬で期待した「支持率のV字回復」は実現しないどころか、支持率はさらに下落。その直後に長男を首相秘書官に起用した公私混同人事でさらに批判を浴び、岸田政権は国民から完全に見放されつつある。

さすがに危機感を強めたのだろう。経産省に言われるまま電力会社に巨額の補助金を投入したら、国民から猛反発を喰らうのは必至だ。

そこで岸田首相は10月12日に電力会社の社長らとの会合で「急激な電気料金の値上がりによって影響を受ける家計・企業を直接的に支援するため、前例のない、思い切った負担緩和対策を行いたい」 「国からの巨額の支援金が、電力会社への補助金ではなく、全て国民の負担軽減に充てられることを明確に示す仕組みとしなければならない」と述べ、経産省案を軌道修正する姿勢を示した。さらに14日の自公首脳会談では「毎月の料金請求で実感できる形で負担軽減を講じる。来年1月以降、できるだけ早く着手したい」と伝えた。

だが、10月中にまとめる総合経済対策で、消費者(家計や企業)への直接支援をほんとうに打ち出せるのか。成否を見極めるポイントは「電力会社への補助金」をゼロにし、その財源を消費者への直接給付に回すのかどうかである。「請求書上、料金が割り引かれていた」というのでは、電力会社が巨額補助金を「中抜き」した疑いが拭いきれない。電気代抑制を目的とした補助金は全額、消費者のために使うべきものだ。

みせかけのスキームではなく、消費者を直接支援する実効性を伴ったものになるのか。経産省や族議員を抑え込む力が岸田官邸にあるのか。今後の岸田政権の行方を左右する重大な岐路となろう。

経産省には「前科」がある。ウクライナ戦争に端を発するガソリン価格高騰を受けて、石油元売り大手に対して巨額の補助金をぶち込んだのだ。

すでに3兆円を投入した。10月中にとりまとめる総合経済対策でさらに1兆円を積み増し、年末までを予定していた補助期間を来春までに延長する方針だ。

経産省はこの補助金投入により、1リットルあたりのガソリン価格を168円程度にとどめることを目的にしている。補助金を投じなければ206円にまで跳ね上がっていたが、補助金のおかげで全国平均は169円程度に収まっていると成果を強調している。(それでもこの不景気のなかでガソリン価格はずいぶんと割高だ)

この説明も検証のしようがない。補助金を受給した石油元売り各社の価格設定プロセスは企業秘密であり、自己申告に基づく試算にどの程度の意味があるだろうか。すべてはブラックボックスだ。

石油元売り大手3社は2022年4ー6月期で過去最高益をあげている。純利益は、ENEOSホールディングスが前年同期比2・3倍の2213億円、出光興産は2・0倍の1793億円、コスモエネルギーホールディングスは2・8倍の775億円だ。

ガソリン価格高騰で庶民の暮らしが困窮する裏側で、過去最高益をあげている石油元売り大手に巨額の補助金を投じるのは誰が見ても不公平・不公正というほかない。「補助金のすべてを価格下げにあてたのか?」「中抜きしたんじゃないか?」という疑念が生じるのは当然である。

石油元売り大手は原油価格高騰をガソリン価格に転嫁できる。だとすれば、日本政府は石油元売り大手ではなく、ガソリンを購入する消費者を直接支援するのが筋だ。

ガソリン税を廃止すれば、手っ取り早く価格は下がる。野党もそう主張しているのだから、必要な法改正は国会で数日あれば成立することだろう。なのに、そうしない。

ガソリン価格高騰は車の所有者だけではなく、物流コスト増を通じて広く国民にのしかかる。現金を全員に直接給付するかたちで国民生活を支援する緊急対策こそ、本来あるべき姿であろう。石油元売り大手への補助金4兆円を廃止して国民に現金を直接給付すれば、単純計算でひとり3〜4万円は配れる。

なぜ消費者にお金を直接配らないのか。消費者からガソリン税を取り上げ、大企業にばらまくのか。

アベスガ政権から岸田政権へ移っても、「個人より業界」「消費者より大企業」の自民党・霞が関政治は変わらない。

経産省はガソリン価格対策とまったく同じことを、電気代対策でも実施しようとしている。電力会社に巨額の補助金を投じて電気料金を下げようというわけだ。

だが、ガソリン価格と同じように、電気代も消費者が負担しているコストをなくせばすぐに引き下げることができる。

私たちが支払っている電気代は、おもに3つの要素で成り立っている(下図参照)。「基本料金+使用電力量に発電単価を乗じた電力量料金+再生エネルギー賦課金」である。

ウクライナ戦争や円安で原油調達コストが増えた時は、「電力量料金」を算出する際の「燃料費調整単価」が引き上げられ、電気代を押し上げる。経産省はこの対応策として電力会社に巨額の補助金を投じて「燃料費調整単価」を引き下げることで電気代を抑制するというわけだ。

ここで浮かんでくるのは、電力会社が補助金を得た分をすべて「燃料費調整単価」の引き下げに当てられるのか、電力会社があれこれ理由をつけて「中抜き」するのではないかという疑念である。

電力会社に補助金をわたさなくても、「中抜き」されることなく確実に電気代を引き下げる方法がある。「再生エネ賦課金」の徴収を停止すればよい。ガソリン税を廃止すればよいのと同じである。

再生エネ賦課金は福島原発事故後、世界的潮流にあわせて再生エネルギーを普及させる財源を確保するため、電気代に上乗せして消費者に課している「加重料金」だ。各家庭が使用する電力量に基準単価を乗じて金額は決まっている。平均的な一般家庭では毎月の電気代のうち1000円前後がこれに該当する。

この再エネ賦課金の徴収をやめてしまえば、それだけで電気代は確実に1000円くらい下がる。電力会社に中抜きされる恐れはない。それで不足する再生エネ普及のための財源は、電力会社への補助金をやめてその分を回せばいい。

経産省は決してそうはしない。わざわざ消費者から「賦課金」を吸い上げて、電力会社など業界にばら撒くのである。「取り上げて配る」のではなく「取るのをやめる」だけで電気代は下がるのに、それでは「業界へのばら撒き」ができず、ひいては自分達の影響力が下がって天下り先が確保できないからである。

賦課金の停止だけで電気代が十分に下がらないのなら、国民全員に一律現金支給して家計を下支えすればいい。

石油元売りや電力会社への補助金をすべて廃止すれば、国民に一律10万円を現金支給する財源の確保は十分に可能である。業界を重視するか、個人を重視するか。これこそ経済政策の最大の対立軸だ。

自民党が「業界重視」なのは疑いない。これに対して野党は本来、「個人重視」で現金10万円給付を強く主張すべきなのだが、立憲民主党は経済界べったり、とりわけ電力業界べったりの連合に逆らえず、歯切れが悪い。

なぜ電力会社への補助金投入に強く反対して国民への現金直接給付を主張しないのか。自民党と同じように「国民より電力会社」なのか。立憲民主党が自民党と同じ穴のムジナと揶揄される最大の理由がここにある。

岸田政権は電力会社の悲願である原発新増設も進める姿勢を示している。そのうえに巨額の補助金を投入するのだから、電力会社は万々歳だ。石油元売りと同様、過去最高益をはじきだす可能性もあるだろう。

まさに業界のための政治。古くさい自民党政治が罷り通っている。

このような理不尽な政治を突き壊すには、国民一人ひとりがもっと怒るしかない。大人しくしていると、いつまでもお金を吸い上げられるだけで、直接配ってはもらえない。政官業癒着の政治のなかで、庶民だけは取り残される。

そして選挙で政権をひっくり返すしかない。そのためにも野党には自民党とは異なる「業界よりも個人」を重視する選択肢を示してもらわなければいけない。


電気代やガソリン代の高騰を受けた物価高対策と「政官業の癒着」についてはユーチューブ動画にもまとめたので、ぜひご覧ください。

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