政治を斬る!

政治のエンタメ化に失敗した党首討論 レームダック化した岸田文雄首相vs次の首相への期待が高まらない立憲民主党・泉健太代表のダメダメ対決に 世論の関心を引き寄せる政治ショーには程遠く

どちらが首相にふさわしいか、直接対決をみせて国民に判断してもらおう!
そんな狙いで導入された党首討論が19日午後3時から、3年ぶりに開催される。岸田内閣では初めてだ。

2012年の党首討論では、当時の野田佳彦首相が野党・自民党の安倍晋三総裁との党首討論で衆院解散を表明するサプライズがあり、今回も「追い詰められた岸田首相がヤケクソ解散を表明するラストチャンス」ともいわれている。

しかし、前評判はいまいちだ。何しろ内閣支持率が低迷して9月の自民党総裁選での再選に暗雲が立ちこめる岸田首相と、自民党の裏金事件で政権交代への機運が高まっているのに「次の総理」への期待がいっこうに高まらない立憲民主党の泉健太代表の「ダメダメ対決」は、見応えのある政治ショーになりそうにない。

日本で初めて党首討論が開催されたのは1999年だった。当時の小渕恵三首相に、野党第一党の鳩山由紀夫・民主党代表が挑んだのだ。
制度導入の手本としたのは、二大政党政治の本場・英国のクエスチョンタイムだ。日本と同じ議院内閣制の英国。そこで二大政党の党首が短時間で激しい欧州を繰り広げるクエッションタイムは、国民の政治的関心を高めるための政治ショーでもある。

予算委員会など通常の国会審議は野党が国会議員の立場で質問し、首相が内閣を代表する立場で答弁するというスタイルで、首相が逆質問することは認められていない。だが、党首討論は首相にも質問権を認め、党首同士が対等な立場で論戦しようというものである。
日本では1990年代の政治改革で小選挙区制度が導入され、自民党vs民主党の二大政党政治への移行が進んだ。総選挙は、自民党総裁と民主党代表のどちらが首相にふさわしいかを国民が直接選ぶ「政権選択の選挙」と位置付けられ、党首の直接論戦は国民の重要な判断材料となるはずだった。

日本で初めて党首討論は開催された1999年は、私が朝日新聞政治部に着任し、首相官邸で首相番記者を務めていた年である。私は小渕首相番としてこの党首討論を取材した。

鳩山代表は冒頭、「総理は今朝、何を召し上がったか。私は非常に熱いピザをいただいてまいりました」と切り出した。小渕首相は当時、ニューヨークタイムズに「冷めたピザ」と酷評されていた。パフォーマンスが苦手で答弁の切れ味も悪い小渕首相は「旧態依然たる日本の政治家」の典型と映っていたのだろう。鳩山代表はそれを念頭に「ピザ」を持ち出し、「官僚の助けなしに答弁できる話です」とも述べた。官僚が用意した答弁を棒読みする日頃の首相の姿勢を揶揄したのである。

本場・英国のクエッションタイムでも、最初は首相の予定を尋ねる慣行がある。鳩山代表はそれも意識したに違いない。

これに対し、小渕首相は「日本食の食事をしてきた」としたうえ、「米国のオルブライト国務長官から、冷めたピザもまたおいしいと言われたことがある」と反論した。

双方、ぎこちない部分はあったにせよ、最初の党首討論としては、それなりに工夫がみられ、マスコミの関心も高まった。つまらない国会論戦の風景が変わるきっかけになるかもしれないと期待したのを覚えている。

しかし、現実はそうはならなかった。

英国のクエスションタイムは質疑が小刻みに、スリリングに展開されていく。質疑時間を短く設定しているのはテンポ良い討論で国民をあきさせないためだ。

それに比べ、日本の党首討論は質問もダラダラ、答えもダラダラ。一方的な言いっ放しで終わり、質疑になっていない場面が目立つようになった。少数野党の党首も短時間の質問に立ち、言いたいことだけを言い切って終わるという討論とはかけ離れた内容になってしまったのだ。
実につまらない討論が繰り広げられたのである。 

その後の見せ場は、野田首相が2012年に安倍総裁に解散を宣言した場面くらいだった。菅義偉政権での開催は一回だけ。岸田政権でもこれまで2年半、開かれることはなかった。

野党党首も質疑が繰り返し行われる予算委員会の質疑に立つことを好んだ。党首討論は日本の国会に根付かなかったのである。
しかしダラダラ長い国会が政治への無関心を高めているのは紛れも無い事実だ。米国のスポーツ界でも、試合時間が短いアメフトやバスケットバールの人気が上昇し、試合時間の長い野球(大リーグ)は凋落傾向にある。短時間のテンポ良い論争で人々の飽きさせない「政治ショー」はやはり必要ではないか。

今回の党首討論の主要テーマは「政治とカネ」だ。泉代表は岸田首相の発言を踏まえて内閣不信任案を提出するかどうかを決めると宣言している。しかしこれも出来レースの様相だ。岸田首相が「政治とカネ」で納得いく答弁をすることは想定しにくいし、ここまで内閣支持率が低迷した岸田内閣への不信任案を提出しないことも考えにくい。これでは政治ショーにならない。

小池百合子知事と蓮舫氏の女帝対決で注目を集める東京都知事選に出馬する石丸伸二・前安芸高田市長は「政治のエンタメ化」が必要と公言している。ユーチューブで大きな人気を得て安芸高田市を全国的に有名にした石丸氏がどんな選挙戦を展開するか、たしかに楽しみだ。岸田vs泉の冴えない討論より、女帝対決に割り込む石丸氏の選挙戦のほうが確かにスリリングである。

英国を手本に上から導入した党首討論よりも、今回の都知事選のように激しい選挙の現場から、政治のエンタメ化は進んでいくのかもしれない。

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