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れいわ新選組が「ロシア非難決議」に反対した理由〜国会の既存政党すべてに挑む姿勢を鮮明に

れいわ新選組が3月1日の衆院本会議で、ウクライナに侵攻したロシアへの非難決議に反対した。自公与党から共産党まで、れいわをのぞく全ての政党が賛成するなかで、唯一反対に回った。「ロシアを擁護するの?」と驚く方もいるだろうが、そうではない。れいわが決議に先立って発表した「反対の理由」を示す声明をみてみよう。

れいわは「無辜の人々の命を奪い、とりわけ子どもや障害者など弱い立場にある人々を真っ先に犠牲するのが軍事力の行使・戦争である」としている。「誰一人見捨てない」という党是に沿った「戦争の定義」だ。そのうえで「ロシア軍による侵略を最も強い言葉で非難し、即時に攻撃を停止し、部隊をロシア国内に撤収するよう強く求める」と主張し、ロシア軍のウクライナ侵攻は決して許さない姿勢を鮮明に打ち出している。

ではなぜ決議に反対するのかーーと声明は続ける。

まず「今、日本の国会として、一刻も早く異常な事態を終わらせようという具体性を伴った決議でなければ、また、言葉だけのやってる感を演出する決議になってしまう」と懸念を示し、今回の国会決議に足りない内容として、

①ウクライナ国民への人道支援のさらなる拡大と継続、及び戦火を逃れ避難する人々を難民として受け入れ

②プーチン大統領による核兵器の使用を示唆する発言と行動に、唯一の被爆国である日本の総理として強く撤回を求める

③今回の惨事を生み出したのはロシアの暴走、という一点張りではなく、米欧主要国がソ連邦崩壊時の約束であるNATO東方拡大せず、を反故にしてきたことなどに目を向け、この戦争を終わらせるための真摯な外交的努力を行う

④国内においては、この戦争によって原油高などの物価上昇により生活や事業が圧迫される状況に対して、消費税減税、ガソリン税0%、一律給付金などで日本国内に生きる人々を守る

を具体的にあげている。つまり「今回の国会決議では不十分」という立場から「反対」したというわけだ。

最後に「形式だけの決議は必要ない、意味がない」とし、「戦争を止めるために、人々の命を守るために、影響を受ける国内の生活者、事業者を守るために、立法府として行政府に本気で何を求めるか、が必要な局面ではないのだろうか。れいわ新選組としては引き続き、日本政府に具体的な行動を求めていく」と声明をしめくくっている。

山本代表がこの声明を出すに至った考え方は、世界各地の紛争処理にあたってきた東京外大教授の伊勢崎賢治さんとの対談に示されている。エンターテインメントとしても、政治トークとしても、とても興味深い対談だ。ぜひご覧いただきたい。

私も伊勢崎さんの考え方にほぼ賛同する。ウクライナ問題への私見は稿を改めて詳述したい。きょうは国会決議に唯一反対したれいわの国会戦略について考察を進めよう。

まずはれいわが国会決議への反対を決めた2月28日に大石あきこ政審会長が発したツイートをご覧いただきたい。

大石氏は決議反対を表明したうえ、「『反対』したらあたかも『ロシア側』と思われる。それを恐れてすべからく賛成する空気はわかる。でもそんな保身など、私には関係ない」と強い覚悟を示したうえ、「私はただ人間の殺りくを止めたい、戦争でうまみを吸う戦争ビジネスを終わらせたい。 この決議はそのためにプラスになるのか? 否である。 国会あげて『どっちの国につくか』という表明の決議はマイナスになる。 だから反対する」と立場を鮮明にしている。

紛争当事国の争いにつけこんで軍需産業が武器を売りつける「戦争ビジネス」に着眼しているところに、大石氏の政治信条がくっきり現れているといえるだろう。

ここからがきょうの本題だ。大石氏はここで「野党の方々も、ほんとに賛成でいいのですか?」と立憲民主党をはじめとする野党に矛先を向けているのだ。そのうえで「核兵器の国内配備まで言ってる」安倍元総理(衆院議員)と一緒に決議するんですか?弾劾すべきでしょ」と言い切っているのである。

いや、大石さん、それは違うんだよ、なんでも反対するのが野党ではなくて、与党と考え方が一致するところは歩調をあわせて、国会全体としての意思を表明するもんなんだよ、与野党が何もかも対立していたらダメでしょ、国会の意思を全会一致で示すこともまた大切なんだよ、各党の細かな意見の違いを気にしていたらいつまでも全会一致で決議できないでしょ、各党の最大公約数でまとめるもんなんだよ、国会決議というものはーーという声が、野党ベテラン議員から聞こえてきそうである。

たしかにそうだ。全会一致が必要なときもある。では、今回のロシア非難決議がその時なのか。れいわは「その時ではない」と問題提起しているのだ。

ウクライナ侵攻は日本にとって対岸の火事ではない。日本の安全保障を考えるにあたり、ウクライナ情勢から学ぶべき点は多い。そのとおりだ。しかし、ウクライナ情勢から学ぶべきは「日本の軍備増強」なのか? まして安倍氏が前向きな姿勢をみせる「非核三原則を見直し、米国の核兵器を日本国内に配備して共同運用する」ことなのか? 

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、日本も軍備増強すべし、非核三原則を見直すべし、という強硬論が自民党や日本維新の会を中心に広がっている。野党第一党の立憲民主党はそれに断固反対し、そのような政治勢力とは徹底的に闘うという強いメッセージを発していない。そうした状況下で国会が全会一致で「どっちの国につくか」を決議することは「近隣国の軍事的脅威に対抗して軍備増強を」という強硬論を煽る(または黙認する)ことになり、ひいては日本政界が強硬論一色に染まることになりはしないか? 

れいわがそのような懸念から国会決議に反対して「全会一致に抗う」ことにしたのは、核保有論まで飛び出す今の日本政界において極めてまっとうな政治判断であると私は思う。

そしてもうひとつ、大石氏の「野党の方々も、ほんとうに賛成でいいのですか?」には、れいわの政党戦略がはっきり現れている。与党でも野党でもない「第三極」を鮮明にして今夏の参院選に挑むということだ。

山本代表は3月1日の記者会見で、少数政党のれいわは「ロシア非難決議」の文言について事前に意見を述べる機会が一切与えられなかったことを明らかにし、事前にやりとりがあったならば賛成に回る可能性もあったとの考えを示した。「ロシア非難決議」への反対には、少数政党に発言の機会を与えない国会全体に対する抗議の意思が込められているのである。

れいわの衆院議員3人が、新年度予算審議で全く質問の機会が与えられなかったことに抗議し、衆院本会議の壇上で絶叫した問題と同じ構図だ。

この絶叫で山本代表は「自公」に対する抗議を示したが、大石氏は野党を含む「国会」全体を茶番と断じ、第三極の立ち位置を鮮明にした。私はこれを山本代表と大石氏の「役割分担」と読み解き、山本代表は党首として「野党共闘」への配慮を示したものの、本音は大石氏の「与野党ともに一線を画す第三極路線」にあると読み解いた。詳しくは以下のYouTubeを参考にしてほしい。

れいわが国会決議に与野党で唯一反対したことは、新年度予算案に賛成した国民民主党や、自民党以上に新自由主義的で自公補完勢力と指摘される日本維新の会と決別せず、野党第一党として自公与党と真正面から激突する気迫に欠ける立憲民主党の「及び腰」を浮かび上がらせる効果がある。「単なるパフォーマンス」という批判もあるが、国会で発言権を与えられない少数政党が党勢拡大を目指してあの手この手を繰り出すのは当然だ。むしろ批判されるべきは、れいわを「野党共闘」の枠組みに取り込まず、選挙協力や国会対策で冷淡に突き放し、野放しにしてきた野党第一党の指導力の欠如であろう。

れいわの国会決議反対は練りに練った戦略だ。「強い政治信条」だけでなく、「したたかな国会戦略」が見て取れる反対だった。衆院3人・参院2人の少数政党にもかかわらず、野党第一党をしのぐ存在感を発揮していることを私は高く評価する。今夏の参院選に向けて、れいわはますます独自路線を強めるに違いない。国民民主党や維新、さらには立憲民主党も自公与党との対立軸を鮮明にしないなかで、少数政党・れいわの存在感はいっそう大きくなっていくだろう。

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