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今井るる氏の立憲民主党→自民党への鞍替えに私は驚かなかった。26歳の彼女は立憲の「ゆ党」化、二大政党政治の崩壊を可視化したに過ぎない

立憲民主党から2021年衆院選の岐阜5区に全国最年少の25歳で出馬して落選した今井瑠々氏(26)が立憲を離党し、自民党の推薦を得て今春の岐阜県議選に出馬する意向を表明した。立憲支持層を中心に批判がわきあがり、泉健太代表は「背信行為」として厳しい処分を下す考えを示している。

与野党が全国各地の小選挙区で一騎打ちを繰り広げて政権を競い合う二大政党政治において、野党第一党の衆院選候補者が1年余しかたたないうちに与党第一党の県議選候補者に鞍替えするというのは、前代未聞である。

自公政権を打倒して政権交代が実現することを願って立憲候補である今井氏に投票した岐阜5区の有権者6万8615人の信頼を裏切る行為だ。二大政党政治そのものへの疑念を深め、政治不信を増長させる暴挙でもある。

今井氏は政治家としての最低限のモラルを欠いており、厳しく糾弾されても仕方がない。さらにはこのような人物を野党第一党の衆院選候補として擁立した立憲執行部の責任も厳しく問われるべきである。

そのうえで、あえて言おう。私はこのニュースを知った時、さして驚かなかった。

2009年に民主党政権が誕生する以前なら、私はびっくり仰天し、有権者を裏切る行為として激しい怒りが込み上げてきただろう。

しかし2023年が幕を開けた今、政治家としてあまりに未熟な26歳の女性が、立憲から自民へ飄々と乗り換える姿をみて、さもありなんと思った。

彼女は民主党政権当時は中学生であった。時は巡り、今の野党第一党の立憲民主党と与党第一党の自民党の境界線はすっかり薄れている。今井氏の世代にとって、立憲も自民も、野党も与党も、さしたる違いがあるようには見えないのだ。

とくに野党各党が激しく批判した安倍晋三元首相が急逝した昨年夏以降、立憲は「自公の補完勢力」と批判してきた日本維新の会と和解し、さらには自民党に急接近した。

国民世論が反対する「安倍国葬」に立憲最高顧問の野田佳彦元首相は参列し、野党共闘の目玉公約であった消費税減税は間違いだったと枝野幸男前代表は言い放った。統一教会の被害者救済法案は被害弁護団から「実効性がない」と批判される内容でも賛成し、憲法の専守防衛を逸脱する「敵基地攻撃能力の保有」(米国製の長射程ミサイル・トマホークなどの購入・配備)も容認する方向だ。

しかも泉代表は「次の次の衆院選で政権交代を目指す」と明言し、次の衆院選での政権交代を早々と諦めてしまった。政権交代をめざす意思のない野党第一党のもとで、与野党が一騎打ちを繰り広げる小選挙区制度の衆院選が行われる意味がどこにあるのだろう。立憲の面々がめざしているのは自公政権打倒ではなく、自分たちの議員バッチを守ることだけではないのか。

立憲も維新と同様、「自公の補完勢力」と化し、与党と野党の中間に位置する「ゆ党」に成り果てている。現に民主党政権崩壊後、野党第一党から自民党へ移る国会議員は後を立たない。今の松本剛明総務相、前の山口壮環境相、細野豪志元環境相、長島昭久元防衛副大臣…。

そのなかで、今井氏のように政治的に未熟な候補者たちが「打倒・自公」よりも「議員バッチを得ること」を優先し、そのためには当選確率の高い自民党へ鞍替えしようという発想になるのは、驚くに値しない。彼女は自分が当選することを最優先してきた野党第一党の国会議員を真似ただけである。

今井氏にとって政党とは、立憲議員の多くと同様に、自らが議員になるための手段に過ぎず、自民でも立憲でも同じなのである。無所属新人が初当選後に自民党入りして清和会と宏池会のどちらの派閥に加わるのかという選択とさして変わりはない。今井氏の愚かな行動を通じて「ゆ党」化した立憲の実像、二大政党政治の崩壊が可視化されたに過ぎない。

今井氏にとっては自民も立憲も同じに見えた。おそらく彼女の同世代の多くも同じような眼差しで立憲を見ていることに、私たちは無自覚すぎたのではないか。

泉代表は今井氏を「背信行為」と批判したが、立憲が「自公の補完勢力」である維新と手を結び、さらには自民に接近して「ゆ党化」することによって、この国の二大政党政治を崩壊させているという、より大きな背信行為を、野党第一党の党首である自身が重ねていることに気づくべきである。

一連の騒動で私がもっとも心を痛めたのは、「今井るるサポーターズ」のまとめ役とみられる支援者がこの事実を知って驚愕し、事情をよくつかめないまま慌てて公表したとみられる以下の文章である。

私たちは、非自民の立場に立って与党の従来の政策では救えない立場や弱者の方、女性の方、子育て層の方等のために訴え、働く今井さんを応援していました。一番ショックだったのは、ある報道によると、複数の自民党関係者によれば、今井さんから4月の岐阜県議選に「自民党から出たい」という相談があったということです。そうなると、私たちが昨年、活動している時期と重なって自民と相談されているということになります。

このように始まる文章の随所から、心の乱れが伝わってくる。さぞかし落胆したことだろう。「今井さんごめんね。苦しい中支えきれなくて、本当に申し訳ない」というくだりからは、支援者たちが若い今井氏を盛り立ててきた様子がうかがえる。彼女を一方的に責める気にもなれず、支持してきた有権者への顔向もできない。そこには二大政党政治を信じて立憲候補を支えてきた世代と、今井氏の世代に横たわる、埋めがたい政治観の溝があるのかもしれない。

この国の二大政党政治はすでに末期症状を呈している。このまま進めば国会が与党一色に染まる大政翼賛体制に移行するのは時間の問題だろう。戦前日本のように、国家権力による言論弾圧、人権侵害、増税、徴兵制が断行され、戦争へ突入するという悪夢も現実化しかねない世相になってきた。

私たちはそろそろ二大政党政治の幻想から解き放たれなければならない。二者択一の小選挙区制(しかも比例復活のある選挙制度)による二大政党政治で得をしているのは、選挙の時だけ対決モードを演出して労せず当選を重ねてきた与党第一党と野党第一党の国会議員だけだ。次の衆院選で政権交代を目指さない野党第一党に存在意義はない。即刻、解党すべきである。

今井氏の鞍替え騒動を、今井氏への糾弾で終わらせてはならない。彼女がこの国の民主主義の危機を可視化したと受け止め、健全な野党を早急に取り戻さなければならない。


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