9月の自民党総裁選の行方に大きな影響を与えるのは、同じ9月に行われる立憲民主党の代表選だ。立憲執行部はまったく同時に行うと埋没するため、総裁選の直前に実施する方針だ。総裁選は20〜29日のどこかで投開票されるため、立憲代表選の投開票日は9月16日を軸に調整しているという。
ここで立憲民主党が新たな代表が選出して支持率を上げれば、自民党は政権交代の危機感を募らせ、国民人気の高い石破茂元幹事長が有利になる。逆に立憲代表選が盛り上がらず、支持率が上がらなければ、自民党内で政権交代の危機感が薄れ、国民人気最下位の茂木敏充幹事長が党内力学で有利となろう。
先に行われる立憲代表選が、自民党総裁選の勝敗を左右し、今後の政局を動かす鍵を握っているのだ。
立憲の泉健太代表は再選を目指しているが、東京都知事選の惨敗を受けて、重鎮の小沢一郎氏らが公然と退陣を求めている。小沢氏は宿敵である野田佳彦元首相とも久々に会談し、「泉包囲網」を着実に築いている。
これに対抗し、泉代表は国民民主党の玉木雄一郎代表や連合の芳野友子会長、維新の馬場伸幸代表らと相次いで会談し、政策に隔たりがある野党同士が一致できるテーマに絞って政権をともに担う「ミッション型内閣」を提唱している。
これに対し、国民民主党は共産党との決別を迫り、泉代表は股裂き状態だ。維新の馬場代表は政治資金規正法の改正をめぐり土壇場で対立した影響で一時的には自民党と距離を置いているが、そもそもは立憲より自民にシンパシーを寄せており、「ミッション型内閣」に賛同して選挙協力に転じる可能性は極めて低い。
そもそも泉代表はマスコミ世論調査で「次の首相」に名前さえあがらず、「党首力」に疑問符がついている。れいわの山本太郎代表や維新の吉村洋文知事のほうが「次の首相」では上位にくる始末だ。
しかも自民党が岸田首相を交代させて新たな首相で解散総選挙を仕掛けてくるのに、立憲が泉代表のまま代わり映えしなければとても選挙にならないとの危機感が党内には広がっている。
泉代表の再選への道は険しいとみていいだろう。
新代表として名前が浮上しているのは、野田佳彦元首相と枝野幸男前代表だ。
しかしいずれも「悪夢の民主党政権」(安倍晋三元首相)のイメージが強く、トップに返り咲いても支持率があがる見通しはない。
野田元首相は「自分がトップになったら引く人がいる」として出馬に慎重な姿勢をみせた。野田氏は保守層にも一定に支持がある一方、消費税増税のイメージが強い上、民主党政権を下野させた張本人として批判が根強い。
野田側近の安住淳国対委員長は「野田氏は代表選に担がず、総選挙後に自公与党が過半数割れした後の連立交渉で首相候補として推すカードに温存したほうがよい」との考えを周辺に示している。
安住氏は野田氏と並ぶ大物財務族だ。総選挙後で自公が過半数割れした場合の連立協議を見据え、「野田氏を連立政権の首相」に押し上げる戦略を描いているようだ。そこへ財務省の一枚噛んでいる可能性もある。
それでは代表選はどうするのか。野田氏は「保守層に支持を広げられる人」が望ましいとの考えを示している。念頭にあるのは、長年行動をともにしてきた玄葉光一郎元外相ではないだろうか。
もうひとりの候補である枝野氏は出馬に意欲満々とみられている。すでに政界引退した赤松広隆氏らリベラル派と接触を重ねており、代表選出馬に向けて着実に準備を進めているもようだ。
しかし都知事選で惨敗した蓮舫氏は、立憲と共産のコア支持層を固めただけで無党派層に敬遠された。枝野氏が代表復帰すれば、蓮舫氏と同様、コア支持層を固めるだけで無党派層への浸透がますます困難になるとの見方が党内では強く、出馬しても優位に戦いを進めることができるかどうかは不透明だ。
枝野氏は前回総選挙で、共産、れいわ、社民との共闘をすすめ、時限的な消費減税を共通公約に掲げた。総選挙で惨敗して代表を辞任した後、「消費減税は間違っていた」と公言したことから、れいわをはじめ野党共闘派にの一部には枝野氏への強烈な反発がある。ここも代表復帰へのハードルを高くしている一因だ。
小沢一郎氏は「政権交代できるならだれでもいい」と公言し、泉おろしを最優先する構えだ。前回代表選で泉氏を応援したものの、その後の人事では執行部から外され、大切にされなかった。これに対する強烈な怒りがあるのは間違いない。一方で、有力候補の手駒を握っているわけでもない。代表選の対決構図が固まった時点で自分の進言を受け入れ要職につける可能性が高い候補の支援に回って影響力回復を狙うとみられる。
いずれにせよ、民主党政権のイメージが残る人が代表になっても、党勢回復は見込めない。新しい世代が台頭することが望ましいが、前回代表選を泉氏と争った小川淳也氏や西村智奈美氏の存在感は薄れている。
劇的に党勢を回復する試みとしては、野党共闘で党外の総理候補(例えば、田中真紀子元外相や泉房穂前明石市長ら)を担ぐ奇策もある。そのくらい大胆な政権交代戦略を示さないと、立憲が勢いを取り戻すのは難しいのではないだろうか。
前回代表選で泉代表らは真面目な政策論争を展開した。これは一部で「学級会」「生徒会長選挙」と揶揄されたが、やはり現時点では何一つ実現していない。国会の過半数を獲得し、権力を奪取しなければ、どんなに立派な政策を唱えても、実現しない。
政治は結果がすべてである。実現する見込みのない政策論争を繰り広げるのは自己満足でしかなく、だからこそ野党への関心は高まらない。
まずは政権交代のリアリズムを高めることだ。そのためには説得力のある政権交代への道筋を示し、それをどうやって実現させるのかという政局戦略は不可欠である。
政局とは「多数派工作」である。国会で過半数の支持を獲得して政権交代を実現させ、政策を実現するための闘争である。政策を実現する体制をつくること、つまり政局で勝利することこそ、政治家や政党の最大の役割だと私は思っている。政局抜きの政策論争は、机上の空論なのだ。
9月の立憲代表選が、単なる政策論争に終わらず、でどうやったら政権交代を実現できるのか、政権を奪取する戦略を競い合う代表選になることを期待したい。