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石破茂首相は「早苗の乱」を早期解散で鎮圧できるか? 安倍派裏金議員の公認問題で高市勢力を分断か〜軽い処分で逃げ切った5人衆の萩生田光一氏や高市氏の推薦人・杉田水脈氏らが焦点に

石破茂首相に決選投票で敗れた高市早苗氏が執行部入りを拒否し、党内野党の立場を鮮明にした。石破氏は「早苗の乱」を鎮圧できるか。10月解散総選挙は、最大の対抗策だと言えるだろう。

自民党総裁選で高市氏を支持したのは、安倍派の中堅若手が多かった。推薦人20人のうち13人が裏金議員だった。彼らの多くは選挙地盤が弱い安倍チルドレンだ。いざ解散総選挙となれば、永田町で党内闘争を展開しているどころではない。

さらに裏金議員が遅れているのは、総選挙で本当に公認を得られるかどうかだ。小泉純一郎政権の郵政解散のように刺客をぶつけられることはないにせよ、「無所属で勝ち上がって、裏金問題のみそぎを自力で済ませるべきだ」として公認を得られなければ、選挙活動は法律上制限され、党からの資金援助も受けられない。何より比例重複立候補ができず、小選挙区で敗れればただちに落選となる。

石破氏は各選挙区の状況を見極めて最終判断するとしているが、公認するか非公認とするかの判断はきわめてあいまいだ。

裏金議員を全員非公認とすれば、ただでさえ石破人事で干し上げられた安倍派は猛反発し、「早苗の乱」に加勢する恐れがある。自民党の議席が大幅に減ることも避けられない。他方、全員を公認すれば世論が猛反発し、総選挙で逆風が吹き付ける。

石破首相とすれば、世論向けに大物議員や著名議員ら一部を「みせしめ」として非公認とする一方、大半の議員は「地元の理解が得られている」として公認するしかない。実質的には、石破執行部に恭順の意を示した議員は公認し、反抗的な議員は非公認とすると「脅す」ことで、「早苗の乱」の拡大を防ぐことになるのではないか。

具体的には、安倍派5人衆とひとりで岸田内閣で官房長官を務めた松野博一氏は、総裁選の決選投票でも岸田氏文雄氏と歩調をあわせて石破氏に投票したとみられる。このような議員は公認扱いするだろう。

他方、安倍晋三元首相の後押しで衆院比例ブロックで優遇されてきた杉田水脈氏は「みせしめ第一号」として非公認あるいは比例ブロックの順位を大幅に下げられる可能性がある。杉田氏は裏金議員のうえ、差別発言で批判も浴びた。高市氏の推薦人にも名を連ねているうえ、自前の選挙地盤も持っていない。

最大の頂点は、裏金額が大きいのに軽い処分(党役職停止1年)で逃げきった萩生田光一氏だ。萩生田氏は森喜朗元首相に寵愛され、安倍氏の最側近でもあった。総裁選では菅義偉前首相と連携して小泉進次郎氏を支持したが、石破氏とは距離がある。石破人事で高市氏を幹事長に起用しなかったことを公然と批判しており、「早苗の乱」に加勢する可能性もある。

総選挙の世論対策としても、「早苗の乱」への牽制としても、萩生田氏を非公認とするメリットはかなりある。一方で、麻生太郎氏に代わって副総裁に起用した菅氏が納得するかどうか、さらには萩生田氏に近い安倍派議員たちを逆に刺激して「早苗の乱」をむしろ過熱させる恐れはないか、石破氏としては判断が難しいところだ。公認問題の最大の焦点といっていい。

安倍派を分断し、石破政権に批判的な勢力を切り捨て非公認とし、彼らの多くが落選して自民党の議席が多少減ったとしても、自公与党で過半数さえ維持すれば、石破政権は続投し、むしろ安倍派を中心とする高市勢力が弱体化したほうが政権は安定する。

石破政権にとって総選挙は、立憲民主党との戦いというよりも、むしろ高市氏を支持する安倍勢力との戦いといえるかもしれない。

立憲民主党代表になった野田佳彦元首相とは緊縮財政政策など重なりあう部分があり、来夏の参院選が終われば与野党連携の動きも出てくるかもしれない。それまではむしろ党内の高市勢力を鎮圧することが政権の安定化には不可欠だ。

石破人事は「脱安倍・脱麻生」を目指す内容だった。「早苗の乱」を鎮圧するため、まずは「脱安倍」を優先して「脱麻生」はひとまずおく。

麻生太郎氏を副総裁から外したものの、最高顧問として処遇したのはそのためだ。最高顧問は名誉職でお飾りに過ぎないが、麻生氏の面目は保ったことになる。高市氏が固辞した総務会長に麻生派重鎮で麻生氏の義弟でもある鈴木俊一氏を据えたのも「脱麻生」より「脱安倍」を優先し、まずは高市氏を孤立する戦略とみていい。

総裁選で安倍派の中堅・若手の支持を受けた小林鷹之氏も党広報本部長の打診を辞退し、高市氏に同調して党内与党の立場を鮮明にした。しかし小林氏は当選4回の中堅議員にすぎず、党内からは「何様のつもりだ」と冷ややかな声があがっている。独断専行の批判が強い河野太郎氏でさえ、前回総裁選で敗れた後は党広報本部長のポストを黙って受け入れた。

石破氏は小林氏を支持した安倍派の次世代リーダーである福田達夫氏を幹事長代行に起用した。これも安倍派分断策だ。麻生氏と高市氏を分断し、高市・小林両氏を支持する安倍派の中堅若手を孤立化させて「早苗の乱」の鎮圧する。総選挙の公認問題がその切り札となるか。今後の対応が注目される。

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