自民党総裁選の日程が9月12日告示・同27日投開票に決まった。マスコミ各社は、新内閣発足後にただちに衆院解散を断行しても、総選挙の投開票日は11月以降になるとの見方を報じている。
確かに新内閣のもとで国会で所信表明演説、代表質問、予算委員会などを開催すれば、日程的には10月解散・11月総選挙の流れになる。ただ、この場合、小泉進次郎氏や小林鷹之氏ら実績不足の首相が誕生すれば、国会審議でボロが出るかもしれない。
自民党としては国会はできるだけ短くし、新政権のご祝儀相場が続くうちに解散総選挙に傾れ込みたいところである。そこで総裁選日程を前倒しし、9月20日投開票とする案がくすぶっていた。
しかし、結局は9月27日投開票に落ち着いた。1週間ずれこんだ格好だ。
不出馬を表明した岸田文雄首相が現職首相として9月24日からニューヨークで開催される国連総会に出席する余地を残したのだろう。
まさに岸田首相の卒業旅行である。岸田首相が退陣を受け入れる条件だったのかもしれない。
岸田首相の花道をつくるための1週間の遅れが、政治日程として極めて意味を持つのが、政治の面白いところである。総裁選の勢いに乗じて10月中に総選挙を終えるには、政治日程がけっこうタイトになった。
しかし、私はなお「10月27日投開票」の可能性は残っているとみている。
9月27日(金)に新総裁が選出されると、ただちに党役員人事(幹事長や政調会長など)を行い、早ければ週明けの9月30日に国会で総理大臣指名選挙をして新首相が誕生。ただちに組閣人事が行われる。この段取りで10月第一週は費やされ、新首相のお披露目となる所信表明演説や衆参代表質問は10月7日(月)からの第二週になるだろう。
通常は衆院解散前に衆参予算委員会を開く。衆参で2日間ずつ開催するとして、10月15日(火)からの第三週目(14日は休日)はこれに費やす。さらに今回は東京都知事選で社会問題化した掲示板ジャックなどに対応する公職選挙法改正も必要だ。
こう逆算すると、衆院解散は早くても10月18日(金)。憲法の規定で、衆院選は衆院解散から40日以内に実施しなければならないので、「10月29日公示・11月10日投開票」という日程が浮かんでくる。解散から投開票まで22日間だ。
前回総選挙は解散から投開票まで戦後最短の17日間だった。近年は自民党が政権批判をかわすためできるだけこの期間を短くして逃げ切りをはかるケースが多い。今回はなおさら新内閣の歓迎ムードがさめないうちに選挙を終わらせたいのだから、なおさらそうなるだろう。
だが、この日程でも、新総裁選出から投開票日まで一ヶ月半ある。進次郎氏や小林氏ら40代首相が誕生するとして、ボロが出る前に投開票日を迎えるには、もっと急いだほうがよい。
そこで想定されるのが、衆参予算委員会をすっ飛ばして、衆参代表質問がおわった時点でただちに衆院解散に踏み切る超特急の日程だ(公職選挙法改正だけは代表質問とあわせて実施する異例の段取りとするほかない)。
この場合、10月第二週の11日(金)に解散を断行すれば、「10月15日公示・10月27日投開票」という日程が可能になる。解散から投開票まで16日間。戦後最短をさらに更新し、かなりタイトな日程だが、不可能ではない。新首相が就任早々に解散日程を事実上アナウンスしておけば、自治体の準備も間に合うだろう。
10月27日投開票説を後押しするもうひとつの要因がある。秘書給与詐取事件で東京地検特捜部から強制捜査を受けている広瀬めぐみ参院議員(自民党離党)が辞職したのだ。これに伴う参院岩手補選が10月27日投開票と決まったのである。
広瀬氏は2022年参院選岩手選挙区で、小沢一郎王国といわれる岩手で自民党が30年ぶりに議席を奪った候補だった。それがスキャンダルで議員辞職に追い込まれる事態となり、自民党岩手県連は大揺れだ。参院補選で自民党が勝利する可能性は低いだろう。
仮に衆院選が「10月29日公示・11月10日投開票」の日程となった場合、この選挙戦の真っ只中に参院岩手補選が行われ、自民党が敗北することになりかねない。せっかく新内閣が誕生したのに、その初戦に敗北すれば、ご祝儀相場が一気にさめ、衆院選の結果にも影響するだろう。
これは避けたい。そのためには、衆院選を参院岩手補選にぶつけて「10月27日投開票」とするのがベストシナリオだ。
だとすれば、衆院解散は10月11日に断行しなければ間に合わない。衆参で予算委員会を開いている余裕はない。
広瀬氏は自民党を離党したとはいえ、麻生派に所属していた。辞職の時期については麻生太郎副総裁ら執行部に相談したはずだ。10月27日の参院補選を避けたいのなら、もうすこし粘ればよかった。そうせずにこの夏に辞職したのは、10月27日を衆院選投開票とする超特急日程がすでに自民党内で想定されていたことの証しではないか。