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ウクライナに跋扈するネオナチを陰謀論で片付けていいのか? トランプ復活を恐れるバイデンと欧米メディア

新型コロナウイルスのワクチンは重症化を防ぐ効果はあるものの、感染を防ぐ効果は薄い。一方、人体に与える悪影響は十分に解明されていない。一時的な発熱や倦怠感の副反応にとどまらず、接種後に死亡したり持病が悪化したりする事例も報告されている。

だから、一人一人が自分自身にとってのメリットとリスクを慎重に検討して接種の有無を判断する必要がある。国家が個人に接種を強要することがあってはならないし、未接種の人々を差別してはならないーーこのようなワクチンに対する見解は最近になってようやく科学的・論理的な意見として認められるようになってきた。

当初は違った。私は上記の見解を早くから主張していたが、「フェイクニュースだ」「陰謀論だ」と批判が殺到して一蹴されたのである。

ワクチンを、全肯定も全否定もせず、わからないことはわからないと明確に認め、メリットとリスクを慎重に判断して接種の有無を決めようという主張に対して「フェイクニュース」「陰謀論」とレッテルをはる風潮が、言論人や知識人といわれる人たちにまで広まっていた。

なぜ、そのようなことになったのか。

ワクチン推進派の政府関係者や専門家、マスコミがワクチン接種に対する上記のような科学的・論理的にまっとうな指摘を「ワクチンは世界滅亡を狙った殺人兵器だ」などという陰謀論と一緒くたにし、すべて「フェイクニュース」として片付けることで封じ込め、「ワクチン神話」をつくりあげようとしたからである。この後遺症はいまなお日本社会に残っている。

私はこの国の政府、専門家、マスコミがいかに非科学的・非論理的であるかを痛感するとともに、言論人や知識人といわれる人々が専門家やマスコミの言説をあっさり信じ込むことに驚いた。

結局のところ、ワクチン推進派が進めた「プロパガンダ」は、当初こそ「ワクチン神話」の形成に一定の効果をあげたものの、長い目でみると、ワクチンへの不信感を根づかせ、コロナ対策としても逆効果に終わったのではないか。「ワクチンさえ打てば大丈夫」という安全神話を振りまいた人々がその誤りを認めて詫びることはない。

これから先、ワクチンによる薬害が明らかになったら、どのように責任をとるつもりだろう。

もうひとつ、多くの人々が「ワクチン接種への科学的・論理的懸念」に耳を傾けず、それらをフェイクニュースと信じた理由があると私はみている。それは米国のトランプ前大統領を支持する人々がワクチンやマスクなどのコロナ対策に猛烈に反発してきたことだ。

私たちは欧米発の「トランプ=フェイクニュース」という報道を洪水のように浴びており、トランプ支持勢力が主張することはすべて「フェイクニュース」として片付ける癖がついてしまっているのではないだろうか。

私はトランプの政治手法には極めて批判的である。だが、トランプを倒すためにバイデンを担いだ米民主党のことも信用していない。所詮は権力闘争である。両陣営ともプロパガンダを繰り出す。それを冷静に見極めて報道するのがメディアの務めだ。

ところが、トランプにバカにされ屈辱を浴びた欧米メディアの多くは「トランプ=悪、民主党=正義」という善悪二元論にとりつかれ、何よりもトランプが次に大統領選で復活することを恐れ、それを阻止するために米民主党に強く肩入れしているようにみえる。本来は現在の権力者である米民主党のバイデンを厳しく監視することがジャーナリズムの最大の責務なのに、欧米メディアがバイデン政権のプロパガンダに乗せられている報道は少なくない。

現在のウクライナ戦争がまさにそうである。

欧米メディアは「プーチン=悪、ゼレンスキー=正義」の善悪二元論一色に染まり、ひたすらロシア批判を繰り広げるばかり。そしてロシア発の情報や、ロシア側からみた戦争の解説にすべて「フェイクニュース」「陰謀論」のレッテルを貼り、欧米発のプロパガンダばかりを喧伝しているのである。ワクチン報道とそっくりだ。

バイデンをはじめ米民主党がウクライナ内戦に介入して親米政権を樹立してきたこと、親米政権で極右勢力(ネオナチ)が跋扈しウクライナ国内のロシア系住民に蛮行を重ねてきたこと、そのウクライナ政府に米国は大量の武器を支援して軍事的緊張を高めロシアを挑発してきたこと、それらバイデン政権にとって不都合な事実はほとんど報じない。

これでは一般の人々がウクライナ戦争の構図を客観的に理解することは不可能であろう。社会全体が「ロシア=悪、ゼレンスキー=正義」という善悪二元論に包まれるのも無理はない(だからといってロシア軍の侵攻を肯定するものではないが、米国を後ろ盾としたウクライナ政府の失政や人権軽視に目を閉ざし、一方的に称賛することには甚だ疑問だ)。

この背景にはトランプがプーチンと連携し、バイデンがウクライナと連携してきたという政局構図がある。つまり欧米メディアは「トランプ=プーチンの悪の枢軸」だけは絶対に許さず、だからこそ、ウクライナの人々の命を守るために一刻も早い停戦合意を目指すことよりも、ロシアへの経済制裁を強化してプーチン政権の転覆を目指すことを優先するバイデンを強く支持し、彼とウクライナの疑惑に目を塞いでいるのだろう。

このような姿勢は、現在の国家権力を最も強く監視すべきであるというジャーナリズムの原則に反していると私は思う。その是非は欧米の人々が判断すればよいことだが、私たちは欧米メディアのウクライナ戦争をめぐる報道を鵜呑みにせず、慎重に見極めなければならない。もちろんロシア発の報道も同じだ。戦時国家が発表する内容はすべてプロパガンダ、大本営発表と割り引いて受け取ることが何よりも肝要である。

日本メディアも当初は欧米メディアを垂れ流す報道で溢れていたが、ここにきて少しずつ善悪二元論から脱し、バイデンとウクライナ政府の不透明な関係に光を当てる報道も出始めた。

そのなかから、私の古巣である朝日新聞の言論サイト「論座」の記事を紹介しよう。ルポライターの清義明さんの『ウクライナには「ネオナチ」という象がいる~プーチンの「非ナチ化」プロパガンダのなかの実像』である。筆者は以下のように問いかける。

プーチンが、「ウクライナを非ナチ化する」と宣言したとき、大方の人々は狐につままれたような反応で、そのうち識者や国際政治学者はこぞってプロパガンダであると断定しだした。だが、本当にそうなのだろうか。

筆者はこの問いに対し、ウクライナ戦争以前の欧米メディアの報道をもとに「プロパガンダではない」と結論づけている。

米国の政治専門紙「ザ・ヒル」が2017年に「ウクライナの極右の存在は決してクレムリンのプロパガンダではない」と題した記事で「西側の識者は、ウクライナにネオナチ集団は存在せず、モスクワが描いたプロパガンダの主張にすぎないという。しかし、これは悲しいことに間違いである」と指摘したことを紹介したうえ、ニューヨークタイムズ、ガーディアン、BBC、テレグラフ、ロイターなどの、ウクライナの極右(ネオナチ)事情についての記事をとりあげ、「欧州の極右事情やウクライナ情勢に詳しい人ならば、この数年でウクライナの極右・ネオナチの存在が問題化していたことは常識のレベルの話である」と指摘しているのだ。

そしてネオナチと呼ばれる「アゾフ大隊」という集団の蛮行を列挙する。米国が親ロシア政権を倒すために後押ししたとされる2014年のウクライナ騒乱「ユーロマイダン」で頭角をあらわし、東部紛争で民兵となり、一般市民の拉致・監禁、拷問で悪名を世界に轟かせ(この事実は国際連合人権高等弁務官事務所とヒューマン・ライツ・ウォッチが指摘している)、それでも罰せられることなく、現在はウクライナ軍の中核的存在になったのだ。アゾフ兵は、白人至上主義者のタトゥーをいれ、エンブレムはナチスのトーテンコップ(髑髏マーク)があしらわれているとも指摘している。

このほかにも、ウクライナ政府から資金供与され子供たちに「愛国教育プロジェクト」を主催する「C14」という極右組織が米国務省からテロ組織に指定されていること、彼らが警察に協力してキエフの自警組織をつくっていること、このグループの名称「14」はネオナチや白人至上主義者の有名な暗語であること、彼らは数々の治安犯罪を犯してきたが、国や地方行政と癒着して公然と活動していること、さらにはこの団体をネオナチと呼んで批判したジャーナリストが訴えられ有罪となったこと、ウクライナの司法とネオナチとの癒着が強く疑われていることも指摘している。

ロシアのウクライナ侵攻まで、欧米メディアはむしろウクライナ政府とネオナチとの癒着に厳しい目を向けていた。ロイターは2018年に「ウクライナのネオナチ問題」という特集記事を組み、ウクライナの人々はネオナチをとがめるどころか称賛しており、「長期的にウクライナを危険にさらす」と指摘。一般人の志願者を軍事訓練するなどして勢力を拡大していることを報じていた。

このようなウクライナ政府の実態を知ったら、「ゼレンスキー、ステキ! ガンバレ!」と拍手喝采できるだろうか。ゼレンスキー政権が国民総動員令を出して「戦わない自由」を剥奪し、民間人に武器を持たせて戦争を遂行していることを応援できるだろうか。極右過激派が跋扈し、愛国心を煽り、国家のために命を捨てることを国民に強要した大日本帝国と同じではないか。

日本社会がウクライナ政府の実態があまり知られていないまま「ウクライナ=正義」の世論に染まるのは、日本のマスコミが実像を報道しないからだ。

日本の公安調査庁はすでにこの問題を取り上げている。公安調査庁の2021年度版の「国際テロリズム要覧2021」に「極右過激主義者の脅威の高まりと国際的なつながり」と題したレポートで、以下のように報告されている。

2014年,ウクライナの親ロシア派武装勢力が,東部・ドンバスの占領を開始したことを受け,「ウクライナの愛国者」を自称するネオナチ組織が「アゾフ大隊」なる部隊を結成した。同部隊は,欧米出身者を中心に白人至上主義やネオナチ思想を有する外国人戦闘員を勧誘したとされ,同部隊を含めウクライナ紛争に参加した欧米出身者は約2,000人とされる

このようにみていくと、プーチンが「ウクライナの東部・ドンバスでロシア系住民が虐殺され、ウクライナ政府の弾圧に反発して独立を宣言した二つの共和国をロシアは承認し、それらの国を守るために集団的自衛権を行使して侵攻した」という主張を受け入れることはできないが、全否定もできない。米国はウクライナ政府の蛮行とネオナチの台頭を黙殺するばかりか武器を支援して後押しし、ロシアとの軍事的対立の砦としてきたのだ。すくなくともウクライナ政府やネオナチによるドンバスでの蛮行を踏まえたうえで、停戦や和平の協議を進めなければ、双方が折り合うことは難しいであろう。

ちなみに、れいわ新選組の山本太郎代表も3月24日の記者会見で、プーチンが「ウクライナの非ナチ化」に言及した際には何を言っているのかさっぱりわからなかったが、ウクライナの歩みを調べたところ、欧州の公的機関や人権NGOの公式文書だけでもネオナチの実態が見えてきたと説明していた。れいわはそこまで調べ上げたうえでゼレンスキー政権に一方的に加担する国会決議に反対したのである。

欧米メディアがバイデン政権のプロパガンダに乗っていると指摘したが、それでも欧米のジャーナリズムはやはり幅広い。『JFK』『ニクソン』『ウォール街』『スノーデン』など数々の社会派映画で知られる米国の映画監督オリバー・ストーン氏が、インターネット討論番組で現在のウクライナ情勢について見解をのべた内容が「長周新聞」に紹介されている。

ストーン監督は「残念ながら現在のアメリカのすべてのメディア報道は一方的なものであり、反対側(ロシア側)からは何も得ようとしない。公平なキャンペーンをしていたRT(ロシア発の国際放送局)さえも放送禁止にし、実際に起きていることさえも偽情報として眼に触れさせないようにしている」と指摘したうえ、以下のように語っている。

実際に2014年からウクライナ東部のドンバス地域では、ウクライナ軍によって住民が犠牲にされ、とくにネオナチの武装集団が彼らを血まみれにし、ロシア系住民1万6000人が殺されたと推定されている。これはプーチンを挑発するためのもので、アメリカが代理としてウクライナ政府にやらせているというのが真実だ。彼らはウクライナのことなど本当は何も気にしていない。彼らが気にしているのはロシアだ。この危機はロシアを不安定にするチャンスであり、国のトップをすげ替えるレジームチェンジ(政権交代)をやってのけることができれば、これは彼らの大勝利となる。最初からウクライナの人々への懸念などない。“今日も殺された”“今日も殺された”と毎日報じているメディアは、反対側(東部)でウクライナ軍によって殺された人々については5年も6年も言及すらしてこなかった。

ストーン監督のドキュメンタリー「乗っ取られたウクライナ」は、ウクライナ戦争の陰の主役がバイデンであることを示唆している。ゼレンスキー政権が発足した2019年の作品だが、ウクライナ戦争の勃発を当時から予言していた内容といえるだろう。ぜひご覧いただきたい(字幕付き)。

こうしてみると、戦争当事国の一方に加担することがいかに危ういかが見えてくると思う。国家権力が振りかざす「正義」と「正義」の戦いはどちらも怪しい。あくまでも戦争に巻き込まれる民衆の立場から戦争を批判的に分析したいものだ。

戦争放棄を掲げた日本国憲法は、単なる理想主義ではなく、どちらにも加担しないで戦争に巻き込まれることを防ぐという極めて現実主義に基づいたものだと私は思う。

コロナワクチンに対する見方がすこしずつ落ち着いてきたように、ウクライナ戦争に対する日本の世論が善悪二元論から解き放たれることを願うばかりだ。

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