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岸田首相が内閣改造・自民党役員人事を前倒しした最大の狙いは「清和会つぶし」〜最大の焦点は非主流派のドン・菅義偉前首相の処遇

岸田文雄首相が9月上旬に予定していた内閣改造・自民党役員人事を8月10日に前倒しした。

岸田政権のキングメーカーである麻生太郎副総裁、麻生氏に忠実な茂木敏充幹事長、岸田派ナンバー2の林芳正外相、最大派閥・清和会(安倍派)に所属しながら凶弾に倒れた安倍晋三元首相とは距離のあった松野博一官房長官は留任させ、政権中枢の骨格は維持する方向だ。

今夏の参院選に出馬せず国会議員を引退したニ乃湯智国家公安委員長と金子原二郎農水相は交代させる。民間人閣僚を一刻もはやく解消させることは内閣改造人事を前倒しする表向きの理由にはなる。

岸田首相は政権発足時に13人を初入閣させて新鮮さを演出したが、この初入閣組の存在感は薄かった。できるだけ入れ替えてイメージを刷新し、統一教会問題による内閣支持率下落に歯止めをかけたいという思いもあろう。

とはいえ、新閣僚と統一教会との深い関係が発覚して内閣支持率がさらに下落するのは避けたい。身体検査を徹底的に実施し、統一教会との深い関係がある政治家は除外する「守りの人事」となる公算が高い。

むしろ、内閣改造・自民党役員人事を大幅に前倒しした最大の理由は別にある。

最大派閥・清和会は安倍氏を突如失ったうえ、統一教会との歪んだ関係が続々と明らかになり、いまや身動きがとれない金縛り状態だ。清和会はもともと安倍系と福田系の抗争の歴史がある。安倍氏の後継者は定まらず、当面は集団指導体制で乗り切る構えだが、後継争いをめぐって内紛が生じ、派閥分裂につながる可能性は十分にある。

岸田首相や麻生副総裁はもともと、参院選後に宏池会を源流とする麻生派、岸田派、谷垣グループを再結集させて「大宏池会」を再興し、清和会をしのぐ最大派閥に躍り出る野望を抱いていた。そのためには清和会の内紛を煽って弱体化させる必要がある。

参院選後の内閣改造・党役員人事では、清和会の福田達夫総務会長や松野官房長官ら福田系を重用し、下村博文元文科相を筆頭格とする安倍系を徹底的に冷遇して、清和会の亀裂を広げる腹づもりだった。麻生氏は茂木氏と会談して「安倍派(清和会)に配慮した人事が必要」との認識で合意したと報じられていたが、これは清和会の福田系を重用することで「清和会に配慮した」といいつつ、政治的には安倍系との亀裂を広げる狡猾な計略とみていい。安倍系でも岸田ー麻生ラインに跪けばポストを与える誘い水である。

清和会はただでさえ安倍氏が突然退場してリーダー不在となり、黙っていても後継争いが激化することが予想される事態である。清和会のメンバーのなかで岸田首相や麻生氏に歩み寄った者だけを重用する露骨な人事を見せつければ、清和会の求心力は急速に低下するに違いない。すでに現職閣僚の萩生田経産相は岸田ー麻生ラインに接近しており、政調会長への横滑りなどが予想されている。清和会が結束して岸田ー麻生ラインに対抗するのはもはや難しい。

清和会つぶしの人事を断行するには、清和会が金縛り状態にある今が最適だ。内閣改造・党役員人事を大幅に前倒しした最大の理由は、清和会対策といっていい。岸田首相や麻生氏は清和会の弱体化を見届けたうえで、大宏池会の結成に動くタイミングをはかることになろう。

もうひとつの焦点は、菅義偉前首相の処遇だ。

安倍氏亡き自民党に非主流派のドンとなるのは菅氏である。菅氏は麻生氏と安倍政権のナンバー2を争って激しく対立した。岸田首相ともそりがあわず、関係は決して良くはない。首相を退任して岸田政権が発足した後は無役となり、二階俊博元幹事長や石破茂元幹事長、河野太郎元外相、小泉進次郎元環境相らとともに非主流派に転じていた。

麻生氏が岸田政権唯一のキングメーカーとして君臨し、大宏池会結成を目指して清和会を率いる安倍氏との関係がぎくしゃくするなか、菅氏は安倍氏と連携を強化して岸田政権を揺さぶる姿勢をみせていたのである。

そこで安倍氏が凶弾に倒れて政界からいなくなった。新たに出現した局面において、岸田首相や麻生氏は目下、菅氏を徹底的に干すのか、取り込むのかの選択を迫られている。

岸田首相も麻生氏も本音では菅氏を徹底的に外したい。それが安倍氏の国会追悼演説の人選に現れた。

元首相の追悼演説は首相経験者がふさわしいという声は与野党から出ていた。安倍氏の家族葬の弔辞は麻生氏が担当し、国葬は岸田首相が担当するのなら、国会追悼演説には安倍政権で官房長官を務めた菅元首相を起用するのが順当な考え方である。ところが、岸田首相は麻生氏の意向に従って麻生派重鎮の甘利明前幹事長の起用で動いた。これは露骨な「菅はずし」だった。

これに対し、甘利氏が政治とカネの問題をうやむやにしていること、さらには昨秋の衆院選神奈川13区で落選(比例復活)して幹事長を辞任したことなどを理由に自民党内から異論が続出。さらには清和会が安倍氏を失ってリーダー不在に陥ったことを甘利氏が「誰一人全体を仕切るカリスマ性もない」と分析したことに清和会から反発が噴出し、岸田首相は人選を白紙に戻して国会追悼演説自体を秋の臨時国会へ先送りすることにしたのである。

それでも岸田政権中枢からは「菅氏を追悼演説に起用してわざわざ存在感をアップさせるくらいなら、立憲民主党の野田佳彦元首相に委ねるほうがマシだ」との声が聞こえてくる。それほどまで菅氏への警戒感は強いのだ。

しかし、そこまで露骨な「菅はずし」を行えば、岸田・麻生両氏と菅氏の関係は抜き差しならなくなる。その結果、清和会の安倍系と菅氏が手を結ぶことになれば、やっかいだ。

そこで、今回の人事では清和会の弱体化を優先し、むしろ清和会の安倍系と菅氏の間にくさびを打ち込むためにも菅氏を副総理格で閣内に取り込んでおく方が得策だーーそんな構想も岸田政権中枢で浮かんでいる。

菅氏は自民党内の自前の派閥を持たず党内基盤は決して強くはない。安倍政権で官房長官を長く務めることで権力基盤を築いてきた政治家だ。当面は国政選挙も自民党総裁選もない。無役で冷や飯暮らしが続くと求心力をどんどん失う恐れがある。岸田首相から声がかかれば、その思惑を承知のうえで、提示されたポストを引き受ける可能性は極めて高い。

ということで、今回の内閣改造・党役員人事の最大の見どころは、菅氏の処遇であると私は思う。岸田首相と麻生氏が本音を押し殺して菅氏を閣内に取り込むのか、本音に従って冷遇するのか。この選択は、もはや既定路線の「清和会つぶし」以上に、今後の政局に与える影響は大きいかもしれない。

内閣改造・自民党役員人事に向けた政局の読み解きは8月9日発売のサンデー毎日へさらに詳しい解説を寄稿した。ユーチューブでも解説動画を公開したので、ぜひご覧ください。

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