自民党の菅義偉前首相(無派閥)が3月12日夜、萩生田光一政調会長(安倍派)、加藤勝信厚生労働相(茂木派)、武田良太元総務相(二階派)と会食した。「岸田降ろし」に向けて派閥横断的な連携を強化する狙いとみて間違いない。
萩生田氏は安倍派会長レースの先頭を走る。派閥の実質的オーナーである森喜朗元首相は安倍晋三氏の後継候補として、萩生田氏、西村康稔経済産業相、世耕弘成参院幹事長、松野博一官房長官、高木毅国会対策委員長の5人をあげてきたが、地元・北國新聞のインタビューで萩生田氏を「総合力は最も高い」とベタ褒めする一方、残り4人を切り捨て、次期会長に最適任なのは萩生田氏であるとの姿勢を鮮明にした(こちら参照)。
萩生田氏は安倍政権で菅官房長官ー萩生田官房副長官のコンビを組んで以来、菅氏とも気脈を通じている。政調会長として防衛費増額をめぐり増税以外の財源を検討する党特命委員会を新設してトップに就任し、岸田文雄首相が打ち上げた「防衛増税」を牽制。菅氏とともに「岸田降ろし」の鍵を握るキーパーソンとして存在感を高めている。
西村氏や世耕氏が萩生田氏の会長就任の流れを食い止めたいところだが、萩生田氏は安倍氏の一周忌となる今年夏をめどに自ら後継会長に就任する意欲をにじませている。岸田降ろしが成功して菅政権が復活すれば萩生田氏が幹事長に起用され、そのまま安倍派会長の座を射止める可能性も高い。
加藤氏は茂木派ナンバー2である。安倍氏の父・安倍晋太郎元外相の右腕だった加藤六月元農水相の女婿で、安倍氏と加藤氏の母親同士が親しいことでも知られ、安倍政権では官房副長官、厚労相、自民党総務会長などの要職を歴任。菅政権では官房長官に起用され、首相候補の一角に浮上した(とはいえ、官房長官としての存在感は薄かった)。
岸田政権ではライバルの茂木敏充氏がキングメーカーである麻生太郎氏の推しで幹事長に抜擢され、その勢いで派閥会長の座を手に入れた。加藤氏は派閥会長レースに敗れ、首相候補から一歩後退した格好だ。
ただし、茂木氏は「ポスト岸田」の最有力候補にあげられる一方、派閥の実質的オーナーである青木幹雄元参院議員会長は「茂木嫌い」で知られ、加藤氏や小渕優子・元経産相を推している。茂木氏は派閥内を固めるには至っていないのが現状といってよい。
加藤氏は菅氏にとって、麻生派ー茂木派ー岸田派の主流3派に楔を打ち込む貴重なカードとして重要な存在なのである。
武田氏は菅氏と「岸田降ろし」で連携する二階俊博元幹事長が率いる二階派のホープである。地元・福岡では麻生氏の長年の政敵として有名だ。
安倍氏は首相時代、菅氏の牙城である総務省に腹心の高市早苗氏を大臣として送り込み、菅氏の影響力拡大を牽制した(いま話題の放送法の解釈変更問題はその構図のなかで起きた)。菅氏は首相に就任すると高市氏の後任大臣に武田氏を起用。この人事からも二階派の次期エースの呼び声の高い武田氏を自陣に引き込みたい思惑が見て取れる。
以上の解説から、菅ー萩生田ー加藤ー武田ラインは、岸田ー麻生ー茂木の主流派ラインのアンチであることがわかる。この会合は「岸田降ろし」のタイミングをはかりつつ、麻生氏や茂木氏から主導権を取り戻すことに最大の狙いがあるとみていい。自民党内の権力闘争は各派閥内の主導権争いと絡みながら静かに進行しているのである。
今後予想される展開としては、菅ー萩生田ー加藤ー武田ラインに対抗して、安倍派における萩生田氏のライバルである西村氏や世耕氏が、岸田ー麻生ー茂木ラインに急接近することだろう。西村氏は主要閣僚として、世耕氏は参院幹事長として、ともに主流派ラインに近づきやすい立場である。
とくに世耕氏は地元・和歌山で二階氏と政敵関係にあるだけに、二階氏と連携する菅氏や二階派ホープである武田氏と距離を置きながら萩生田氏を牽制する姿勢を強めるとみられる。
一方、岸田首相は、ポスト岸田を露骨にうかがう茂木氏への警戒感を強めている。執行部の一角にいる萩生田氏が岸田首相と茂木幹事長の間に楔を打ち込む動きをみせる可能性もあろう。
岸田降ろしに伴う自民党内政局は、いったん動き出すと派閥再編の引き金を引く可能性をはらむ。
4月の統一地方選・衆参5補選、5月の広島サミットまでは多数派工作を進める動きが水面下で進行し、夏以降の防衛増税政局で動きが表面化してくるだろう。久しぶりの激しい党内抗争に発展する可能性は十分にある。
1週間の政治をランキング形式で振り返る週末恒例の『ダメダメトップ10』でも「岸田降ろし」4人組を取り上げました。もちろん高市早苗大臣やガーシー氏も登場します。ぜひご覧になって、政治への怒りを笑いで吹き飛ばしてください。