「鈴木を切って、鈴木を入れる」
そんな人事が、この秋の内閣改造で起きるのか。
いま注目したいのが、旧茂木派に属する「W鈴木」だ。一人は鈴木憲和農水相。もう一人は、自民党広報本部長の鈴木貴子氏。ともに茂木敏充外相の側近だが、秋の人事では明暗が分かれる可能性がある。
鈴木憲和氏は、山形2区選出の当選6回、44歳。開成高校から東大法学部、農水省を経て国会議員になった農政エリートである。旧茂木派の農水族ホープともいえる存在だ。
しかし、コメ政策をめぐって高市官邸との距離が広がっている。
石破政権では、コメ不足による価格高騰のさなか、「コメは買ったことがない」と発言した江藤拓農水相が更迭された。その後、規制緩和派の小泉進次郎農水相が就任して備蓄米を大量放出し、増産へと政策転換した。ところが昨年10月に就任した鈴木憲和農水相は、増産路線を修正し、生産調整へと回帰した。
背景には、コメ価格が急落することへの警戒がある。生産者を守るには、ある程度の価格維持が必要だという農政の論理である。
しかし、高市政権が掲げる物価高対策から見ると、ここには大きな矛盾が生じる。
高市総理は食料品減税を打ち出している。消費者の負担を軽くしようとする政権が、コメの価格維持を優先する農政を続ければ、「結局、コメは安くならないではないか」という批判を受けかねない。
しかも鈴木農水相は、備蓄米を買い戻したいという考えを示している。これがJAなど生産者側への配慮と受け取られれば、消費者重視を掲げる高市官邸との溝はさらに深くなる。
ここで重要なのは、単なる政策論ではない。鈴木氏が旧茂木派の農水族だということである。
農水族の世界には、森山裕前幹事長を頂点として、坂本哲志氏(衆院予算委員長)、江藤拓氏らベテランがいる。そのなかで44歳の鈴木氏は、将来の農水族を担う若手ホープだ。
つまり鈴木農水相の処遇は、コメ政策の修正だけでなく、旧茂木派を高市政権がどう扱うのかという問題にもつながっている。
一方、もう一人の鈴木、貴子氏は事情が違う。
北海道7区選出、当選6回、40歳。鈴木宗男氏の娘で、NHK職員を経て政界に入り、新党大地、民主党を経て自民党へ移った異色の経歴を持つ。現在は自民党広報本部長として、党の発信を担っている。
国会議員としてのキャリアも十分であり、初入閣があっても不思議ではない。
しかも茂木氏との関係は深い。茂木氏の側近として知られ、党内での存在感を高めてきた。
ところが、ここに思わぬアキレス腱が浮上した。
父親・鈴木宗男氏のライフワークであるロシア外交である。
8月13日、ロシアのプーチン大統領が北方領土を訪問した。これに対し、茂木外相はロシア側に抗議した。
ところが鈴木貴子氏はSNS上で、茂木氏の外交対応に疑問を呈する投稿に対し、「日本人アカウントではない?」といった表現を用いて反論し、8月15日に削除と謝罪に追い込まれた。
本人は「コメントを投稿された方の属性を推測するような表現」が不適切だったとして反省を表明した。
もちろん、この一件だけで入閣が消えると決めつけることはできない。
だが、問題はタイミングである。
父・鈴木宗男氏はロシアとの関係を重視してきた。その宗男氏は、プーチン大統領の北方領土訪問について「いちいち反応するのは逆に、子どもじみた稚拙、知恵のある外交ではない」と公言している。
茂木氏と鈴木宗男氏では、ロシア外交をめぐるスタンスが真逆だ。
そのなかで娘の鈴木貴子氏が外相である茂木氏の側近として入閣するとなれば、当然、周囲からさまざまな見方が出てくる。
ここから秋の人事が面白くなる。
現在の政権中枢には、旧茂木派出身者が複数いる。茂木氏自身が外相、木原稔氏が官房長官、鈴木憲和氏が農水相、平口洋氏が法相、牧野京夫氏が復興相、小野田紀美氏が経済安全保障担当相。
いわば「茂木枠」ともいえる人事だ。
高市総理にとって、これは決して無視できる存在ではない。
なぜなら茂木氏は、将来の「ポスト高市」を狙うことのできる有力政治家だからだ。しかも茂木氏の背後には、自民党のキングメーカーともいえる麻生太郎氏がいる。
高市総理から見れば、茂木氏は政権内に置いておかなければならない一方、力を持たせすぎるわけにもいかない。
だからこそ、秋の内閣改造は単なる閣僚の入れ替えではなく、「高市vs茂木」の権力ゲームになる可能性がある。
シナリオは三つ考えられる。
第一は高市総理の勝利。旧茂木派の閣僚を大幅に整理し、鈴木憲和氏を更迭。鈴木貴子氏の初入閣も見送る。これなら高市政権による茂木派牽制が鮮明になる。
第二は妥協だ。
鈴木憲和氏を交代させる一方、鈴木貴子氏を初入閣させる。「鈴木を切って、鈴木を入れる」というW鈴木の入れ替え人事である。
これは高市、茂木双方がメンツを保てる。
そして第三が茂木氏の勝利。旧茂木派の閣僚をほぼ残し、さらに鈴木貴子氏まで入閣させる。
私は、この三つのなかでは、真ん中の「W鈴木入れ替え」が最も政治的にはありえるとみている。
鈴木憲和氏の更迭を高市側の成果としながら、鈴木貴子氏を入閣させることで茂木氏にも一定の配慮をする。
つまり「高市が茂木を切る」のではなく、「茂木の影響力を残しながら、高市が主導権を握る」という人事だ。
秋の内閣改造は、誰が大臣になるかだけを見ていてはいけない。
「誰が切られ、誰が残るのか」。
そこには総理が誰を敵と見なし、誰と手を組み、そして誰を将来のライバルとして警戒しているのかが、はっきり表れる。
二人の鈴木。
一人は農政をめぐって高市官邸と衝突し、もう一人は父親のロシア外交とSNS投稿という思わぬ問題を抱えた。
このW鈴木の明暗こそ、秋の人事、そしてその先にある「ポスト高市」を占う小さな窓になるのかもしれない。