自公与党が総選挙で過半数を割り込み、最大の焦点は、総選挙後30日以内に召集される特別国会での首相指名選挙となる。
野党が結束して野党第一党・立憲民主党の野田佳彦代表に投票すれば、野党連立政権が誕生し、政権交代が実現する。
けれども、立憲は今回の総選挙で自らの議席増ばかりを優先し、野党共闘は最初から崩壊していた。野党陣営はバラバラで、共通公約もなく、連立を組む環境はまったく整っていない。今のままでは自公少数与党の石破茂政権が続く見通しだ。
自公政権を倒すことを最優先し、野党各党の利害を飛び越えてひとつにまとめることができる剛腕政治家がいれば…。
かつて、それを成し遂げた剛腕政治家がいた。小沢一郎氏だ。
1993年総選挙で自民党が過半数を割った時、野党8党を連携させ、野党第一党の社会党ではなく、自らが率いる野党第二党の新生党でもなく、総選挙で大躍進した野党第4党の日本新党の細川護煕氏を首相候補に担ぎ出し、首相指名選挙で勝利して野党連立政権を誕生させたのだ。
当時の各党獲得議席は以下の通りである、
1993年衆院選 定数511 過半数256
🔸与党
自民党223
🔸野党
社会党 70
新生党 55
公明党 51
日本新党35
民社党 15
さきがけ13
社民連 4
(以上、計243)共産党 15
無所属 30
自民党は過半数を割ったものの、野党が大同団結して首相指名選挙に挑むことは想定していなかった。小沢氏は自民党を離党した仲間とともに新生党を旗揚げして総選挙で自民党を過半数割れに追い込んだ立役者だったが、非自民非共産の野党8党をまとめあげ、細川氏を首相指名選挙で勝利させたのだ。
野党第一党の社会党や野党第二党の新生党が首相ポストをとれば、他の野党がついてこない。そこで総選挙で大躍進した新興勢力の日本新党を率いる細川氏を電撃的に首相候補に担ぐ奇手に出た。これが奏功し、野党8党は結束。細川連立政権が誕生して自民党は下野したのである。
1993年の総選挙後の政治情勢は、今回の総選挙後の政治状況に酷似している。自公与党は過半数割れしたものの、野党がバラバラで、首相指名選挙で勝利するメドが立っていないのだ。
2024年衆院選 定数465 過半数233
🔸与党 215 (過半数に18議席足りない)
自民 191
公明 24🔸野党 238 (過半数を超えているが、バラバラ)
立憲 148
国民 28
維新 38れいわ 9
共産 8
社民 1参政 3
保守 3🔸無所属 12
自民系4 萩生田、西村、世耕、平沢(裏金問題で非公認・無所属)
野党系6 福島、北神、緒方、吉良、中村、松原
中間 2 三反園、広瀬
首相指名選挙の第一回投票は、石破茂氏が215票(自公与党)、野田佳彦氏が148票(立憲)を獲得して、1位、2位となる。他の野党は自らの党首に投票するだろう。どの候補も過半数を得られないため、石破氏と野田氏の決選投票になる。そこで野党各党が棄権すれば、石破氏が当選し、自公の少数与党政権(過半数を握っていない政権)が誕生することになる。
決戦投票で野党各党が野田氏に歩調を合わせて投票すれば、自公与党は下野し、野党連立の野田政権が誕生するのだが、野党はバラバラで、その実現性は極めて低い。維新も国民も野田氏への投票には今のところ慎重な姿勢をみせており、共産やれいわの出方も見えてこない。
1993年の「成功例」に習えば、野田氏の首班指名に固執すると、他の野党はまとまれない。当時、大躍進した日本新党の細川氏を担いだ奇手を踏襲するならば、今回の総選挙で大躍進した国民民主党の玉木雄一郎代表を担ぐということになる。
自民党が首相指名選挙で最も遅れているのは、野田氏ではなく、玉木氏だ。自民党は、1993年の悪夢を忘れていない。玉木氏を担ぐ野党連立を阻止するため、真っ先に玉木氏に自公への協力を求め、国民民主党の政策を次々に受け入れて大幅譲歩するだろう。
立憲がそれに対抗するには、玉木氏を首相に担ぐしかない。野党第一党のメンツを捨て、野党第三党の玉木氏を担ぎ、他の野党にもポストを配分して一致結束させるリーダーシップを発揮すれば、自民党を野党に転落させて政権交代が実現する可能性は十分にある。
さて、玉木氏に首相候補を譲る度量が野田氏にあるかどうか。政権交代への本気度が問われる局面だ。