国民民主党の足元が、大きく揺らいでいる。
昨年の総選挙で存在感を高めた国民民主党は、今や自滅の様相を呈している。保守層や無党派層の期待を集めた勢いは失速し、党内の足並みの乱れや失言騒動が拍車をかける。一方で、立憲民主党は年金改革で自民党と歩調を合わせ、政権中枢への足掛かりを着実に築いている。国民民主党の「影」が薄れゆく中、政局の主役はすでに入れ替わりつつある。
山尾ショックと夫婦別姓法案で離反した保守層
国民民主党の支持基盤はもともと連合──とくに大企業系労組──である。しかし、支持率を押し上げた原動力はそれだけではなかった。昨年の総選挙では、手取りを増やすという減税路線に共感した無党派のサラリーマン層、そして安倍元総理の死後、自民党内の保守主流派に失望した保守層の支持を取り込んだことで、国民民主は一時的に勢力を拡大した。
だが、その構図はもろくも崩れた。
国民民主党が参院選候補に山尾志桜里氏を擁立すると、保守層と無党派層の間で強い反発が起きた。かつて不倫スキャンダルで世間を騒がせた山尾氏は、国民民主への合流後に保守的な政策を掲げてきたが、そのリベラル色の強い過去が尾を引いた。とりわけ女系天皇に理解を示す発言は、保守層にとって「一線を越えた」ものと受け止められた。
追い打ちをかけたのが、選択的夫婦別姓法案の国会提出である。玉木雄一郎代表は当初、この問題には慎重姿勢をとっていた。しかし、連合の意向や党内のリベラル派とのバランスをとるため、最終的に法案提出に踏み切った。だが、保守層にとっては内容以前に、この法案提出自体が「リベラルに屈した証」と映り、離反を加速させることになった。
国民民主党は、政策ごとの支持層の温度差を調整しきれず、「どっちつかず」の印象を与えてしまった。これが、現在の「自滅モード」の始まりだった。
榛葉幹事長の失言と「落ち目の法則」
ここにきて、榛葉賀津也幹事長の「失言」が追い打ちをかけた。
福岡での街頭演説中に「博多の女性はきれいだね。男性はまあまあだね」と発言。マスコミはこぞって「ルッキズム(容姿主義)」と非難し、榛葉氏は釈明を余儀なくされた。
榛葉氏は歯に衣着せぬ物言いで、ネットでは玉木代表以上の人気を誇ってきた。特に保守層からの支持は厚かったが、今回ばかりは「空気が読めなかった」。野党として勢いに乗っている時であれば、「親しみやすいキャラ」として流されたかもしれないが、支持率が低迷し、党内の立て直しが急務の時期に、軽口は許されない。
この失言が象徴しているのは、国民民主党がすでに「主役」ではなくなっているという現実だ。マスコミは上り調子の政党には甘く、失速すれば容赦なく叩く。政治の残酷な「風の原理」が、ここでも如実に働いている。
大連立へ動く立憲民主党と財務省の影
一方、国民民主党と入れ替わるようにして勢いを増しているのが、立憲民主党である。
野田佳彦代表は、自民党の主流派──森山裕幹事長や林芳正官房長官ら──と接近し、年金改革法案で与党と全面的に合意。これは「自公立」3党による政策協調の象徴であり、参院選後の大連立政権への布石とも言える。
この動きの背後にいるのが、財務省だ。年金財源確保という大義名分のもと、財務省は消費税増税路線の再構築を狙っており、減税を掲げる国民民主党は「邪魔者」となっていた。
つまり、政局の裏側では、国民民主党を排除した「年金・増税・大連立」という筋書きが着々と進んでいる。立憲民主党は、その中で新たな主役の座を奪い取ろうとしているのだ。
進次郎が焦点を奪う
さらに国民民主党にとっては頭の痛いニュースがもう一つある。小泉進次郎・農水大臣の登場である。
コメ価格高騰の対応をめぐって、農政が注目される中、進次郎氏は減反政策からの脱却と備蓄米の無制限放出を打ち出し、農協保守派との党内対立を演出。この構図は、かつて小泉純一郎元首相が郵政民営化で党内抗争を巻き起こした際とそっくりだ。
メディアもこれに飛びつき、政局の焦点は「玉木vs野田」から「進次郎vs農水族」へと移ってしまった。
結果、国民民主党の存在感はますます薄まり、参院選の争点からも外れつつある。
「主役交代」が意味するもの
国民民主党の急失速、そして立憲民主党の浮上。進次郎氏の登場も含め、政局は明らかに転換期を迎えている。主役が入れ替われば、世論の視線も変わる。そしてその変化に最も敏感なのが、選挙戦を見据えた政治家たちと、メディア、そして霞が関である。
果たして、国民民主党はこの「自滅モード」から脱することができるのか。それとも、このまま歴史の脇役に転落していくのか。
いずれにせよ、政局はすでに、次の局面へと大きく舵を切っている。