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与野党激突の総選挙前に「土地規制法案」を強行採決する自民党の本当の狙い

6月16日の国会会期末を目前に与野党の対決法案として浮上してきたのが「土地規制法案」である。米軍・自衛隊の基地や原発など安全保障上重要な施設の周辺にある土地や建物の所有者・利用者を政府が調査・監視し、それらの「機能を阻害する行為」には刑事罰を科すかもしれないという「重要法案」だ。

政府の狙いは沖縄の米軍基地反対運動の抑え込みにあるとも指摘されている。表現の自由など基本的人権を脅かす極めて危険な法案がコロナ禍のどさくさに紛れて国会で成立しようとしているのだ。

この法案自体の問題点については、6月9日の『沖縄で起きた警察による「人権侵害」と今国会で審議が進む「重要法案」の濃密な関係に気づかない政治記者たち』で詳しく触れたので参照にしてほしい。

私が6月11日夜、法政大の山口二郎教授、東京新聞の望月衣塑子記者、防衛ジャーナリストの半田滋氏と出演した「デモクラシータイムス」でもこの法案が大きなテーマとなった。法案の危険性では参加者全員が一致したが、私は長く永田町を取材してきた政治記者として、今秋に総選挙を控えた今、国会最終盤に強行採決してでもこの法案を成立させようとしている自民党の狙いを解説させていただいた。

たしかに政府には米軍基地への反対運動を抑え込みたいという思惑はあるだろう。しかし、与野党激突の総選挙が目前に迫る今、強行採決して内閣支持率が下がるくらいなら、今国会成立に固執することなく、総選挙後の臨時国会に先送りするのが国会対策の基本である。それにもかかわらず、自民党がこの法案の今国会成立〜それも強行採決による成立〜にこだわるのはなぜか。ここが重要なポイントだ。

答えは簡単である。自民党はこの法案を強行採決して成立させても、内閣支持率が下がらないと踏んでいるのだ。それはこの法案への国民的関心が低いという理由だけではない。むしろこの法案をめぐる与野党激突がクローズアップされるほうが、総選挙対策として好都合だと考えているのである。

どういうことか、もうすこし詳しく説明しよう。

自民党が総選挙の争点としていちばん恐れているテーマは「コロナ対策の失敗」である。ワクチン接種率が先進国最下位という「失態」はその最たるものだ。だからこそ菅義偉首相は「ワクチンこそ切り札」として、総選挙までに接種率を引き上げることに躍起なのである。裏を返せば、接種率がそこそこ上昇して国民不安が収まるまでは解散総選挙には踏み切れないということだ。

仮に秋の総選挙までワクチン接種がそこそこ進んだ場合はどうか。自民党が次に争点になることを恐れているのは、コロナ禍で拡大した「貧富の格差」である。コロナ対策を口実とした大規模な金融緩和や財政出動で株価は上昇し、富裕層や大企業は潤っている。電通やパソナの「中抜き」や飲食店一律の「1日6万円」支給は不公平感をかき立てた。コロナに伴う経済対策が引き起こした「格差の拡大」が総選挙で大きな争点となれば、自民党の逆風は必至だ。

一部の「持てる者」に対する「持たざる大衆」の怒りが経済格差の「上下対決」の形で総選挙最大の争点に浮上することを避けるには、別の争点を作るしかない。そこで自民党がいつも持ち出すのが、イデオロギー的な「左右対決」なのである。

憲法、基地、原発、平和、人権…。これら「価値」の問題は、極めて重要な政治争点である。しかし、貧富の格差ほど大衆全般の関心を呼び起こさないことも残念ではあるが事実だ。自民党にすれば、貧富の格差に憤る大衆が「上下対決」で一致結束して襲いかかってくるのがいちばん恐ろしい。それよりはイデオロギー的な「左右対決」に持ち込んで「上下対決」の構図を薄め、投票率を低く抑えたほうが政権維持に都合がいいのである。

もうおわかりだろう。秋に迫る総選挙を「イデオロギーの左右対決」に持ち込む格好の題材が「土地規制法案」なのだ。この法案を今国会の最後にあえて強行採決してクローズアップさせることで「左右対決」色を強めることは、自民党のしたたかな選挙対策なのである。

私がデモクラシータイムスでそう解説すると、他の出席者からは「そうは言っても、この法案には反対するしかない」という戸惑いが返ってきた。そのとおりである。個人の人権を軽んじる法案には断固反対すべきである。

そこで大事なのは、野党が自民党の選挙対策に利用されないように、つまり、イデオロギーの左右対決に持ち込まれないように、この「悪法」に対して賢明な立ち振る舞いで反対することである。具体的にどうしたらよいのか。デモクラシータイムスはそうした議論に発展した。とても建設的な議論になったと思う。

結論としては、この法案は「沖縄の基地反対運動にかかわる人」など一部の市民だけにかかわる問題ではなく、この国に暮らすすべての人に直接かかわりうる問題であることを、しっかりアピールすることで対抗するしかない。

米軍基地や自衛隊基地、原発など安全保障にからむ施設が身近にある人は、全国ではかなり多いだろう。離島など安全保障にかかわりの深い土地でビジネスを展開する企業も多いはずだ。かりに自分が持っている土地や建物がこの法案の対象に指定されたら、その利用や取引が大きく制約され、地価が下落する恐れが高い。この法案は「基地反対運動に携わる一部の人々」に限定された問題ではなく、多くの国民にとって「自分事」なのだ。

コロナが内閣支持率を急落させるほど大きな政治テーマとなったのは、すべての人にとって生命や健康にかかわる「自分事」だからである。同様に、自民党が描く「イデオロギーの左右対決」に矮小化されないためには、この法案を多くの有権者に「自分事」として受け止めてもらうしたたかな対抗策が必要だ。

この番組に出演した半田氏は「土地規制法案」を審議する6月14日の参院質疑に参考人として招致されている。番組での議論を踏まえ、建設的な意見を陳述してくれると思う。大詰めの国会審議にぜひ注目してほしい。

今回のデモクラシータイムスの番組は以下のYouTubeで視聴できる。

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