東京都の小池百合子知事が6月12日の都議会最終日にようやく都知事(6月20日告示、7月7日投開票)への出馬を表明した。当初は都議会初日の5月29日に表明する方針だったが、立憲民主党に先手を打ってサプライズ表明され、方針を転換。ギリギリまで情勢を見極めて出馬表明に踏み切った。
学歴詐称疑惑の再燃に加え、蓮舫氏に「裏金自民の延命に手を貸す小池都政をリセットする」と宣戦布告され、一時は守勢に回った。
小池知事は8年前の知事選で反自民を掲げて当選したものの、その後は東京五輪や明治神宮外苑をはじめとする都心再開発の巨大利権を自民党と一体化して推進。一方で満員電車や介護離職などをなくす「7つのゼロ」公約はほとんど実現せず、環境重視の旗も色あせ、小池都政の変節が都知事選の大きな争点に浮上してきた。
しかも小池知事が自民党の窓口としてきた二階俊博元幹事長と萩生田光一前政調会長は、いずれも裏金事件で激しい批判を浴びた当事者だった。小池都政と裏金自民を一体化させる蓮舫氏の戦略は的中しつつあったといっていい。
しかしその後、小池知事が出馬表明を遅らせたことで、メディアの批判は蓮舫氏へ向かった。とりわけ右派勢力は蓮舫氏を毛嫌いしており、「小池知事のほうがマシ」とのムードが一気に広がった。かつて民進党代表時代に批判を浴びた二重国籍問題に加え、蓮舫氏の家族関係をめぐる問題などネガティブキャンペーンが広がった。小池知事の学歴詐称疑惑を暴露した文春でさえ、蓮舫氏の批判記事をトップに据えた。
こうしたなか、連合は蓮舫氏が共産党の支持を受けることを理由に距離を置き、小池知事支持の姿勢をにじませていた。蓮舫氏も「批判ばかり」との批判を浴びて裏金自民への批判よりも都政への提案を重視する姿勢に軌道修正したが、当初の勢いには翳りが見えていた。
小池知事はこうした情勢を踏まえ、おそらく8、9日の週末に選挙情勢調査を行って勝てると判断したのだろう。12日の都議会最終日というタイムリミットにあわせての出馬表明となった。蓮舫氏のサプライズ表明の勢いをかわすことに成功し、一歩リードしたといえるだろう。
とはいえ、小池知事の不安要因はふたつある。
一つは裏金自民との関係だ。ここをクローズアップされると、世論の激しい批判を真正面から浴びることになり、投票率が跳ね上がれば足元をすくわれかねない。
そこで小池知事は自民党を含めて各党の推薦を受けず、政党色を消す戦略に転じた。とはいえ、自民党は別の政治団体を設立し、そこへ人も金も投入して事実上、小池知事を支援する「ステルス推薦」の方針だ。公明党も小池知事支援に力をいれる。出馬表明を先送りしている間に自公推薦を受けなくても実質的には支援を受けるという枠組みを整えた格好だ。
もうひとつは学歴詐称疑惑である。元側近の小島弁護士は小池知事が出馬して「カイロ大卒」を掲げた場合は公職選挙法違反で刑事告発すると宣告している。前回知事選の学歴問題はすでに時効が成立しているが、今回カイロ大卒を掲げれば新たな事案となるためだ。小島弁護士は当時のメールなどの証拠を保全していることも明らかにしている。
小池知事は今回の知事選でカイロ大卒をあえて掲げない可能性が高いだろう。本来ならマスコミ各社が「学歴詐称を事実上認めた」と追及すべきところだが、マスコミ各社は東京五輪や都心再開発で小池都政と一体化しており、学歴詐称疑惑についてもこれまでほとんど追及していない。そこで小池知事としては逃げ切れると判断しているのだろう。ネットメディアをはじめ疑惑追及がどこまで広がるかもひとつの焦点だ。
とはいえ、蓮舫氏としてはやはり小池都政と裏金自民と一体化をどこまで追及できるかが焦点となろう。ここで小池知事に敗れれば、4月の衆院3補選と5月の静岡県知事選の「自民4連敗、立憲4連勝」の流れがかわり、立憲の勢いも止まって、せっかく高まってきた政権交代の気運が沈静化しかねない。立憲にとっても正念場の知事選となる。