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瀬戸際の女帝を救った「蓮舫擁立」と「石丸出馬」〜都知事選は小池百合子の逃げ切り、裏金自民は復活の足掛かり、立憲民主党は勢い止まり一転窮地に〜政権交代の機運がしぼむ恐れ

東京都知事選(7月7日投開票)は現職の小池百合子氏の勝利に終わった。学歴詐称疑惑や都心再開発をめぐる政官業癒着への批判で前回よりも大幅に得票を減らしたものの、立憲民主党が擁立した蓮舫氏と人気ユーチューバーで前安芸高田市長の石丸伸二氏にアンチ小池票が分散し、逃げ切った。

立憲民主党の連勝(4月の衆院3補選と5月の静岡県知事選)はストップし、政権交代の機運が萎む可能性がある。裏金事件の逆風を浴びている自民党は小池知事をステルス支援して勝利し、反転攻勢に出る構えだ。9月の自民党総裁選で不人気の岸田文雄首相を交代させ、新政権のもとで10月解散総選挙を探る動きが強まってくるだろう。

蓮舫氏は石丸氏に追い抜かれて3位に転落した。出口調査によると、10〜50代の若年現役世代で石丸氏に大きく負けている。支持基盤が高齢層に偏っている立憲民主党と共産党の弱点が露呈した格好だ。若年現役世代を中心とした無党派層に完全にそっぽを向かれたといっていい。

立憲民主党で執行部への批判が再燃する可能性がある。9月には立憲も代表選が予定されており、自民党に対抗して泉健太代表を交代させるのかどうかが焦点となる。

一方で、代表候補に名の上がる野田佳彦元首相や枝野幸男前代表は都知事選で蓮舫氏を全面的に支援して惨敗したことから、泉代表に代わる党の顔がなかなか見当たらないのも実情だ。

小池知事は都知事選に出馬表明する前、かなり追い詰められていた。カイロ大学の学歴詐称疑惑が文春砲で再燃し、萩生田光一氏ら自民党の裏金議員との親密な関係も批判され、4月の目黒区長選や衆院東京15区補選で自ら擁立した候補が惨敗。選挙に強い小池神話は崩壊していた。

そこへ立憲民主党の蓮舫氏が「自民党政権の延命に手を貸す小池都政をリセットする」として電撃的に都知事選出馬を表明した。自民党の裏金事件への逆風が吹き荒れるなか、蓮舫氏は勢いづき、小池知事は都議会初日に予定していた出馬表明を先送りするほかなかった。一時は不出馬に追い込まれるとの見方が広がるほど窮地に立っていたのである。

けれども、蓮舫氏はリベラル層や立憲のコア支持層には絶大な人気がある一方、保守層には拒絶感が強く、ネット上では保守層によるバッシングが始まった。一部メディアも蓮舫氏のネガティブキャンペーンを展開し、世論の関心は「小池都政の是非」より「蓮舫氏の好き嫌い」に移ったのだ。

小池知事は独自の選挙情勢調査で「相手が蓮舫氏なら勝てる」と自信を取り戻し、都議会最終日に出馬表明に踏み切った。告示8日前だった。

そこからは得意のメディア戦略で優位に立った。「AIゆりこ」や「東京大改革3.0」などイメージアップアイテムを次々に繰り出し、告示後の情勢調査では蓮舫氏を大きくリード。小池陣営には楽勝ムードが広がり、街頭演説には立たず、テレビ討論会も拒否する「逃げの戦略」で学歴詐取疑惑や明治神宮外苑の再開発をめぐる政官業の癒着への追及をかわすことにしたのだ。

ところが、これが裏目に出た。「逃げ回る小池百合子」のイメージが定着して勢いはかげった。さらに東京青年会議所主催の公開討論会では、小池知事が外苑再開発業者からパーティー券を購入してもらっているのかという質問に対して明言を避けたことから、政官業癒着の疑惑が再燃。投開票日1週間前の情勢調査では得票率を減らし、蓮舫氏と石丸伸二氏の票を足すと追い抜かれる状況まで迫られたのである。

小池知事は終盤戦、あわてて街頭演説に立つ戦略に転じた。ところが、警察による厳重体制のもとでの街頭演説にはおもうほど人が集まらず、蓮舫氏や石丸氏の街頭演説と比べるとあきらかに盛り上がりに欠けた。さらにアンチ小池の人々が押しかけて「やめろ」コールが沸き立ち、小池知事が演説を中断する場面もあった。街頭演説は小池人気の低下をさらけ出すことになったのである。

それでも小池知事が逃げ切った勝因は、三つ巴の「選挙の構図」にあった。

立憲が擁立した蓮舫氏は熱烈な支持層を抱える一方、拒否度も高く、アンチ小池票の受け皿になりきれなかった。そこへ第三極の石丸氏が出馬し、アンチ小池票が分散することに。「小池都政の是非」は最大の争点にならず、むしろ蓮舫氏と石丸氏の2位争いに関心が集まり、小池知事のネガティブキャンペーンは広がりを欠いたのである。

不人気の小池知事は三つ巴の構図に救われたといっていい。

とはいえ、小池知事の今後の政治人生は決して明るくはない。

もともと初の女性首相への野望を燃やし、都知事の座を踏み台にして国政復帰の機会をうかがっていた。ところが学歴詐称疑惑の再燃で4月の衆院15区補選への出馬を断念。9月の自民党総裁選で首相が代わればただちに10月解散総選挙の可能性が高まるが、小池知事はさすがに都知事選に勝利したばかりで国政転出は困難だろう。

すでに71歳。都知事選直後には72歳になる。次の次の総選挙の時には75歳前後になっている可能性が高い。現職首相の岸田文雄氏は66歳、ポスト岸田の有力候補である石破茂氏は67歳、茂木敏充氏は68歳。小池知事が首相候補に躍り出るのは簡単ではない。

東京五輪を終え、明治神宮外苑などの都心再開発も進み、むしろ小池都政3期目は、東京五輪や都心再開発をめぐる政官業癒着の闇を隠すためという側面が強いだろう。都知事が代われば、過去の闇が照らし出される恐れがある。その意味で蓮舫氏の当選を防ぐことが今回の都知事選の最大の目的だったといえるのではないか。

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