東京五輪汚職を捜査してきた東京地検特捜部は11月9日、電通出身で組織委員会の高橋治之元理事(78)を追起訴(4回目)した。マスコミ各社は「賄賂総額が2億円近くに上るとされる一連の事件の捜査は大きな区切りを迎えた」と一斉に報じている。
ちょっと待って! これで東京五輪汚職事件は終わりなの?
高橋元理事への強制捜査から3ヶ月。東京地検特捜部は大風呂敷を広げ、マスコミ各社はそれを煽ってきた。組織委会長を務めた森喜朗元首相や菅義偉元首相、竹中平蔵元大臣、竹田恒和・元JOC会長ら大物の逮捕説が飛び交い、「正義のミカタ」の東京地検特捜部への期待感は高まり続けたのである。
ところが、これで捜査は終結なのだ。結局のところ、森元首相ら政治家は誰一人逮捕されていない。エリート官僚も無傷だ。逮捕・起訴されたのは、紳士服大手や出版大手などの民間人ばかりである。
露骨な官尊民卑ーーこれが東京地検特捜部の素顔だ。この事件は森元首相ら大物政治家の逮捕には発展しないという見方を私はずっと示してきた。今の検察にそんな度胸はない。
検察という組織は所詮、国家権力のしもべである。時の権力〜首相官邸〜の意向に反しては動かない。安倍政権のときは安倍首相の意向に従い、岸田政権では岸田首相の意向に従うのである。その見返りに検察庁の人事や利権には口を出さないでもらうという関係なのだ。検察は「正義のミカタ」ではない。「首相官邸の犬」である。
今回の東京五輪汚職事件も、東京五輪誘致にノータッチの岸田首相が就任したうえ、安倍前首相が死去し、菅前首相が失脚したからこそ、東京地検特捜部は着手できた。岸田首相にとっては、ライバルである最大派閥・清和会に今なお影響力を持つ森元首相や、非主流派のドンである菅元首相を牽制するには、東京五輪汚職の捜査は格好の政局カードだったのである。一方で、森元首相や菅前首相と完全決別する覚悟はない。牽制したうえで政権延命で手を打てればそれでよいのだ。
東京地検特捜部はそのような岸田首相の意向を忖度し、捜査を広げ、マスコミを使って世論を煽り、森元首相や菅前首相にプレッシャーをかけた。それで十分なのである。
ここにきて岸田政権は閣僚が相次いで辞任し、政権末期の様相を示し始めた。岸田首相自身も清和会や非主流派と決別する腹を決めきれない。そうなると、検察当局も岸田首相にどこまで追従していいのか不安になる。次の政権の行方を見据えると、捜査で政界ルートに切り込むことには及び腰になる。
東京地検特捜部という組織は、政治権力闘争の行方に大きく左右されるものなのだ。
事件を煽るだけ煽って、いきなり「捜査終結」と発表すると、世論の怒りを買う。そこでマスコミ各社の社会部記者が所属する「司法記者クラブ」に「一連の事件の捜査は大きな区切りを迎えた」と一斉に報道させて、期待感をつなぎながら徐々に店じまいするというのが、東京地検特捜部のいつもの手だ。マスコミ各社の社会部はそれを承知で垂れ流す。「大きな区切り」というのは業界用語で「終結宣言」だ。
司法記者クラブは首相官邸記者クラブ以上に閉鎖的だ。フリー記者はもとより、社会部の司法クラブ所属の記者以外にはほぼ完全に閉ざされ、それ以外の者が東京地検特捜部を取材することは事実上不可能である(ちなみに首相官邸の記者会見には東京新聞社会部の望月衣塑子記者らが参加できるという意味で司法記者クラブよりはまだマシだ)。ごく一部の限られた社会部記者を囲い込んで都合の良い情報だけをリークする検察当局の世論操作ぶりは、首相官邸をはるかにしのぐ。
検察を「正義のミカタ」と信じて声援を送る方々にはぜひその実態を知ってほしい。もちろん権力闘争の余波として政権内部のウミが表面化し、汚職事件として立件されるのは悪いことではない。ただしそれは正義を追求した結果ではないことは認識しておく必要がある。検察のそのような特性をよく理解したうえで、私たち主権者は検察を突き上げていくほかない。
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