東京都議選が7月4日に投開票された。秋の総選挙の前哨戦と言われた首都決戦の結果をどう評価したらよいのか。私の視点を紹介したい。
主要政党の議席の増減(告示前の議席数→今回都議選の当選数)は以下の通り。都議会の定数は127(過半数は64)。投票率は42.40%(前回51.28%)だった。
都民ファーストの会 45→31 自民 25→33 公明 23→23 共産 18→19 立憲民主 8→15 維新 1→1 その他 6→5
小池百合子知事は自民党に反旗を翻して2016年都知事選に出馬し、当選した。2017年都議選では自ら旗揚げした都民ファーストの会が都議会第1党に躍進。過半数には届かなかったため、公明党などの協力を得て都政を運営してきた。
小池知事は一方で、都知事初当選の直後に自民党幹事長に就任した二階俊博氏と政治的に近い関係を利用し、自民党との関係修復を図ってきた。2020年都知事選で小池知事と自民党は激突を回避し、小池知事の自民復党の可能性がささやかれるようになった。小池知事は都議会運営で自民党との激突を避け、今回の都議選でも都民ファーストの会の支援に全力をあげることはなかったのである。
マスコミは①小池知事が率いる都民ファーストの会が第一党を維持するか、②自公が過半数を奪還するかーーを今回の都議選の焦点と報じていたが、小池氏と自民党の関係修復が進む中で対決構図が見えにくい選挙戦だった。投票率が前回51.28%から大幅に下がり、42.40%にとどまったことが、今回の都議選の最大のニュースといえるのではないだろうか。
そのうえで各党の選挙結果を評価してみよう。
まずは都民ファーストの会である。前回は自民党に挑む小池知事の人気でいきなり第一党に躍進したが、今回は14議席を減らした。小池知事は自民党との激突を避け、過半数獲得を狙うどころか現有議席維持も早々に諦め、さらに告示目前に「過度の過労」を理由に入院したことから、「敗北」は織り込み済みだった。大方の予想通り、第一党を自民党に明け渡すことになったものの、予想ほど大きな議席減には至らなかったため、マスコミ報道では「善戦」との受け止めもある。
しかし、「善戦」という評価は、小池知事が自らの政治的ダメージを回避することを狙って勝敗ラインを意図的に下げた世論誘導に乗せられたものだろう。小池知事が自民党との関係修復に動き、都議選前から都民ファーストの会の「敗北」責任を回避するため選挙戦の前面に立たなかったことが、この地域政党の歴史的役割の終焉を物語っている。「小池知事」という看板以外には何の求心力もない地域政党に未来はなかろう。早晩、雲散霧消していく可能性が極めて高いことを明確に指し示すことが、政治報道のあるべき姿ではないかと私は思う。
次に自民党。第一党に返り咲いたものの、公明党とあわせて過半数に達しなかったことで「衆院選へ打撃」と報じている新聞記事もあるが、はたしてそうだろうか。
都議会の議席は微増にとどまり、自公で過半数を獲得できなかった以上、小池知事を完全に抑えこむのが難しいのは事実である。しかし、小池知事が都議会を舞台に自民党と対決構図をつくって自らの支持率を稼ぐ劇場型政治を封印し、今後は自民党との融和姿勢をさらに強めていく可能性が高いことから考えると、「自公の過半数割れ」はそこまで大きな政治的インパクトがあるとは私には思えない。むしろ都民ファーストの会の議員を自民に取り込む動きが今後強まることを指摘するのが政治報道の役割ではないか。
さらに「衆院選へ打撃」というのは本当だろうか。前回総選挙で圧勝した自民党が秋の衆院選で議席を減らすのは織り込み済みである。議席減を極力抑えるのが菅政権の基本方針だ。簡単にいえば、野党(立憲民主党と共産党)の大躍進を防ぎ、自公で政権を維持するだけの議席を維持すれば「守り勝ち」なのである。
そういう意味では、今回の都議選は「自民の大勝利」とはいえないものの、①自民党は第一党に返り咲いた②都民ファーストの会は失速した③野党(立憲民主と共産)は都議会で少数派にとどまるーーという結果からして、自民党は「そこそこ善戦」と評価するのが的確ではないかと私は思う。
公明党はコロナ禍で人海戦術の選挙活動が制限され、苦戦が予想された。しかし、結局は低投票率に支えられ、組織票が威力を発揮し、今回も全員当選を果たした。組織内部では「見事にしのいだ」と評価していることだろう。秋の総選挙も低投票率にとどまれば現有議席は十分に守ることができるという手応えを感じたはずだ。
一方、維新は都議選で存在感を示せず、総選挙で首都圏の議席拡大が見通せない。これも「現状維持」を目指す自公にとっては悪くない話である。
次に立憲民主党。8議席を15議席に伸ばしたが、都議会全体では弱小勢力にとどまった。今回の議席増を「躍進」と評価するようでは総選挙での政権交代は遠い道のりだ。国政の野党第一党でありながら、首都圏の議会では自民、都民ファーストの会、公明、共産に続く第5党にとどまることを深刻に受け止めるべきである、都議選に自民党に対抗するだけの候補者数を擁立していないことをもって「不戦敗」との評価を免れないと私は思う。
秋の総選挙も「議席を伸ばしたら勝ち」という甘い姿勢は絶対にとらないでほしい。二大政党政治における野党第一党は「政権交代が実現しなければ議席を増やしても敗北」と明確に位置付けることが重要である。
1議席増の共産党は健闘といえるだろう。ただ議席増以上に注目すべきは、野党共闘のあり方についての模索である。一例として定数2の港区をみてみよう。
自民現職 19.041
都フ現職 18.254
立憲元職 11.643
共産新顔 7.694
定数2に自民、都民ファースト、立憲民主、共産が出馬し、自民と都民ファーストが勝って、立憲民主と共産は共倒れ。立憲民主と共産の得票を足すと自民も都民ファーストも超えるという開票結果であった。「立憲民主と共産が一本化していたら勝てたのに」と落胆する野党支持者も少なくないだろう。
しかし、共産党は立憲民主党の候補なら誰でも一本化に応じているわけではない。この港区の立憲元職は前回都議選で小池知事率いる都民ファーストの会の推薦を得て落選した人物だった。野党候補者ひとりひとりをよく見極めてその選挙区に独自候補を擁立するか否かを決める共産党の戦略は、「与党にすり寄る野党議員」を牽制するのに極めて効果的である。秋の総選挙に向けて立憲民主党の議員たちに強烈なメッセージを投げかけたといえるだろう。
共産党は立憲民主党よりはるかに組織力がある。だからこそ、立憲民主党のひとりひとりの議員を権力追及や人権重視という視点で徹底的に個別評価してその結果を公表し、高評価の議員の選挙区では候補者擁立を見送る一方、低評価の議員の選挙区には徹底的に擁立する。そうして候補者擁立のあり方をもっと透明に、もっと効果的にPRすれば、立憲民主の個々の議員への影響力は高まり、野党共闘内で発言力も増すだろう。(ちなみに公明党は自公連立政権発足当初、自民議員を個別に評価して支援の度合いに差をつけていた。この結果、公明党の主張に理解を示す自民議員が相次いだ。ところが、自公連立が長引くにつれ、自民の議員なら誰でも推薦するのが当たり前のようになり、その結果、公明党の影響力は低下していった)
志位体制の共産党はずいぶんと柔軟になった。その柔軟路線をさらに進め、野党内での存在感をしたたかに増していけばよいと思う。
以上、私なりの都議選総括である。都議選を総選挙の前哨戦と位置付ける以上、この結果が秋の総選挙やその後の中央政界の政局にどんな影響を与えるのかという読み解きがマスコミの政治報道にはもっと必要だ。それが不十分だから都民の関心が高まらず、都民の半数以上が棄権したのである。このような低投票率では政治は動かない。都議選最大の敗者は、権力監視を旨とするマスコミの政治報道かもしれない。政治報道の敗北は、現状維持を目論む現政権の勝利である。